6 / 95
魔王覚醒
ハレルヤとキサネの出会い
しおりを挟む
俺の名前は斉藤正晴。愛する女を守るため、3人殺した殺人鬼だ。
愛する女と愛を確かめあった後、警察に逮捕された俺に下された判決は死刑。別れを惜しむ愛する女の声は、別人に生まれ変わった今の俺でも思い出せる。
『正晴くん……!私を置いていかないで……!』
彼女の願いが聞き届けられることなく、俺の絞首刑は執行された。
そして俺は今、ハレルヤ・サトマウレとして生まれ変わっている。
皇女様の身体に刻まれた紋章に触れ、黒い靄に包み込まれるまで。俺は斉藤正晴としての記憶を失っていた。
ハレルヤ・サトマウレの人生は、斉藤正晴として生きてきた人生よりは語る必要がないと思うほど平凡だ。
貴族の私生児として生まれた俺は、ずっと放置されていた。与えられるのは、3食の食事だけ。使用人にすら存在を見て見ぬふりをされた俺は暇を持て余し、毎日剣を振るっていた。
斎藤正晴として生きていた時は、剣道少年だったからな。
脳みそが剣道でできているタイプの男は、記憶を失っていても魂が剣道をやれと俺に訴えかけていたってことだ。何の根拠もねぇから、正解かどうかはわからねぇけど。
『わぁ……!』
俺の両親は、王族と馴染みの深い家系だったらしい。自分が貴族であることは理解していても、生まれた家の爵位がどの程度だったのかすらも知る術がない程、人間と関わりがなかったからな。
煌びやかなドレスを纏い、使用人に殿下と呼ばれる同じ年頃の美しき少女が俺の前へ姿を見せた時は驚いた。
皇女様は、俺が剣を振るう姿を見て喜んでいる。ただ剣を素振りしているだけなのに、どうしてそこまで喜ぶのか。俺は不思議で堪らなかったが、皇女様は信頼できる腕っぷしの強い従者や護衛騎士がいないかといろんな所を探し回っていたらしい。
素振りを見ただけで、皇女様は俺を従者にすると決めた。
『私、キサネ・チカ・マチリンズ!あなたのお名前は?』
『ハレルヤ・マサトウレ』
『ハレルヤ!私の従者になって!』
俺に笑顔で手を差し伸べてきた皇女様のことは、忘れたくても忘れられない。
俺が恐る恐る伸ばした手は、皇女様によって離れないように力強く握り締められ──そして俺は、皇女様の従者になった。
皇女様の身体には、呪いの紋章が刻み込まれている。全身に刻み込まれた黒い唐草模様に触れると、呪いが移って苦しみ出すらしい。
皇女様は毎日のように大人たちに喧嘩を売られては、騒ぎを起こした。そのどれもが、皇女様に関係があるとは思えないいちゃもんばかりで、その様子を見た俺は、苛立ちを募らせながら皇女様を守り続けている。
俺は何度か皇女様と手を握ったが、呪いに襲われることはなかった。
手のひらに、呪いの紋章が刻まれていないからか?
呪いの発動には条件があるのかは、わかんねぇ。
皇女様とよく似た紋章をその身に刻み込むハムチーズなら、何か分かるかもしれねぇな。後で聞いてみるのが一番いいだろう。
皇女様を敵視する人間どもは、父親である皇帝から、次女まで。レパートリーは多岐に渡った。皇女様が王城内で信頼できる相手は、あの様子じゃ俺しかいなかったんだろうな。俺は皇女様に命じられるがまま、四六時中皇女様のそばで守り続けていた。
命を狙われる皇女様のそばにいれば、俺の命だってただでは済まない。
死にかけたことは一度や二度のことはないし、俺や皇女様の命を守るために、襲い掛かってきた奴らを愛剣で傷つけた。
人間と手合わせする機会などなかった俺は、はじめこそ驚いたが、場数を踏めば手慣れてくる。斎藤正晴の記憶を取り戻した今なら、人殺しだって躊躇なく実行できるくらいだ。皇女様の従者は、俺にとっては天職だったのかもしれねぇな。
『ハレルヤ』
俺は斎藤正晴の記憶を思い出す前から、皇女様に愛する女の面影を感じている。俺の愛する女──待兼紗霧は、元気で明るく、魅力的な少女だった。男どもが手を伸ばして自分のものにしようと画策しても、手の隙間をすり抜ける。男を狂わす運命の女。
それが待兼だ。生き物に例えるのならば、ひらひらと羽根を羽ばたかせる美しきアゲハ蝶──。
皇女様は待兼そっくりだ。
髪の色と瞳の色こそ日本人特有の黒髪黒目ではないものの、明るい性格、見たものすべてを魅了する美しき容姿の少女が、肌に黒い入れ墨のような、唐草模様の紋章が刻まれているだけで迫害されるとは、俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。
入れ墨が恐ろしいってのはわかる。入れ墨なんて肌へ刻み込むのは、ヤカラみてぇな犯罪組織に所属している奴らばっかりだからな。
人間は、たいした理由がなくても他人を加害する。
どこの世界に生まれ変わっても、人間の本質は変えられねぇんだな。
斎藤正晴をやめたって、人間として生まれ変わった以上は、人間の本質に向き合っていかなければならない。
俺が本当に人間だったら、の話だけどな。
ハムチーズは俺のことを魔王と呼んだ。魔界を統べる王のことをそう呼ぶのが、一般的だろう。魔王の誕生が先天的なものであれば、俺は人間の形をした化け物だ。人間やめたいわけではねぇし、後天的なもんであることを願うしかねぇな。
愛する女と愛を確かめあった後、警察に逮捕された俺に下された判決は死刑。別れを惜しむ愛する女の声は、別人に生まれ変わった今の俺でも思い出せる。
『正晴くん……!私を置いていかないで……!』
彼女の願いが聞き届けられることなく、俺の絞首刑は執行された。
そして俺は今、ハレルヤ・サトマウレとして生まれ変わっている。
皇女様の身体に刻まれた紋章に触れ、黒い靄に包み込まれるまで。俺は斉藤正晴としての記憶を失っていた。
ハレルヤ・サトマウレの人生は、斉藤正晴として生きてきた人生よりは語る必要がないと思うほど平凡だ。
貴族の私生児として生まれた俺は、ずっと放置されていた。与えられるのは、3食の食事だけ。使用人にすら存在を見て見ぬふりをされた俺は暇を持て余し、毎日剣を振るっていた。
斎藤正晴として生きていた時は、剣道少年だったからな。
脳みそが剣道でできているタイプの男は、記憶を失っていても魂が剣道をやれと俺に訴えかけていたってことだ。何の根拠もねぇから、正解かどうかはわからねぇけど。
『わぁ……!』
俺の両親は、王族と馴染みの深い家系だったらしい。自分が貴族であることは理解していても、生まれた家の爵位がどの程度だったのかすらも知る術がない程、人間と関わりがなかったからな。
煌びやかなドレスを纏い、使用人に殿下と呼ばれる同じ年頃の美しき少女が俺の前へ姿を見せた時は驚いた。
皇女様は、俺が剣を振るう姿を見て喜んでいる。ただ剣を素振りしているだけなのに、どうしてそこまで喜ぶのか。俺は不思議で堪らなかったが、皇女様は信頼できる腕っぷしの強い従者や護衛騎士がいないかといろんな所を探し回っていたらしい。
素振りを見ただけで、皇女様は俺を従者にすると決めた。
『私、キサネ・チカ・マチリンズ!あなたのお名前は?』
『ハレルヤ・マサトウレ』
『ハレルヤ!私の従者になって!』
俺に笑顔で手を差し伸べてきた皇女様のことは、忘れたくても忘れられない。
俺が恐る恐る伸ばした手は、皇女様によって離れないように力強く握り締められ──そして俺は、皇女様の従者になった。
皇女様の身体には、呪いの紋章が刻み込まれている。全身に刻み込まれた黒い唐草模様に触れると、呪いが移って苦しみ出すらしい。
皇女様は毎日のように大人たちに喧嘩を売られては、騒ぎを起こした。そのどれもが、皇女様に関係があるとは思えないいちゃもんばかりで、その様子を見た俺は、苛立ちを募らせながら皇女様を守り続けている。
俺は何度か皇女様と手を握ったが、呪いに襲われることはなかった。
手のひらに、呪いの紋章が刻まれていないからか?
呪いの発動には条件があるのかは、わかんねぇ。
皇女様とよく似た紋章をその身に刻み込むハムチーズなら、何か分かるかもしれねぇな。後で聞いてみるのが一番いいだろう。
皇女様を敵視する人間どもは、父親である皇帝から、次女まで。レパートリーは多岐に渡った。皇女様が王城内で信頼できる相手は、あの様子じゃ俺しかいなかったんだろうな。俺は皇女様に命じられるがまま、四六時中皇女様のそばで守り続けていた。
命を狙われる皇女様のそばにいれば、俺の命だってただでは済まない。
死にかけたことは一度や二度のことはないし、俺や皇女様の命を守るために、襲い掛かってきた奴らを愛剣で傷つけた。
人間と手合わせする機会などなかった俺は、はじめこそ驚いたが、場数を踏めば手慣れてくる。斎藤正晴の記憶を取り戻した今なら、人殺しだって躊躇なく実行できるくらいだ。皇女様の従者は、俺にとっては天職だったのかもしれねぇな。
『ハレルヤ』
俺は斎藤正晴の記憶を思い出す前から、皇女様に愛する女の面影を感じている。俺の愛する女──待兼紗霧は、元気で明るく、魅力的な少女だった。男どもが手を伸ばして自分のものにしようと画策しても、手の隙間をすり抜ける。男を狂わす運命の女。
それが待兼だ。生き物に例えるのならば、ひらひらと羽根を羽ばたかせる美しきアゲハ蝶──。
皇女様は待兼そっくりだ。
髪の色と瞳の色こそ日本人特有の黒髪黒目ではないものの、明るい性格、見たものすべてを魅了する美しき容姿の少女が、肌に黒い入れ墨のような、唐草模様の紋章が刻まれているだけで迫害されるとは、俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。
入れ墨が恐ろしいってのはわかる。入れ墨なんて肌へ刻み込むのは、ヤカラみてぇな犯罪組織に所属している奴らばっかりだからな。
人間は、たいした理由がなくても他人を加害する。
どこの世界に生まれ変わっても、人間の本質は変えられねぇんだな。
斎藤正晴をやめたって、人間として生まれ変わった以上は、人間の本質に向き合っていかなければならない。
俺が本当に人間だったら、の話だけどな。
ハムチーズは俺のことを魔王と呼んだ。魔界を統べる王のことをそう呼ぶのが、一般的だろう。魔王の誕生が先天的なものであれば、俺は人間の形をした化け物だ。人間やめたいわけではねぇし、後天的なもんであることを願うしかねぇな。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界
Greis
ファンタジー
【注意!!】
途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。
内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。
※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。
ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。
生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。
色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。
そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。
騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。
魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる