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魔王覚醒
皇女のピンチ
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「ひっ。ひぅ……っ。うぅ……!」
桃色の煌びやかなドレスに身を包んだ少女が、見覚えのない身なりが整ったおっさんに頬を引っ叩かれて、泣いている。
俺は泣いている少女の姿を見て、それが皇女様であることに気づく。
キサネ・チカ・マチリンズ皇女殿下。
彼女はこの国で、一番偉いやつの娘だろ。なんで、頬を叩かれなければならないんだ?おかしいだろ。
「お前は何度、母親を殺そうとすれば気が済むのだ……!?」
「ひ……っ。ぅう、しらな、知らない……!」
「とぼけるな!」
男が手を振り上げ、もう一度皇女を引っ叩こうとした姿を見た俺は、考える暇もなく身体を動かす。
しゃがみ込み涙を流しながら頭を庇う皇女の泣き顔が、誰かに似ているような気がして──俺は咄嗟に、皇女の前に躍り出ていた。
「ハレルヤ……!」
皇女の代わりに頬を引っ叩かれた俺は、床に転がる。皇女は床に転がった俺に縋り付き、わんわんと泣き叫ぶ。
ハレルヤ・サトマウレ。
それが俺の名前だったはずなのに──なぜだかどうにもピンとこない。俺はもっと別の名前で呼ばれていたはずだ。別の名前を思い出そうとしても思い出せねぇから、困ってんだけどさ。
「貴様には用はない!退け!」
「ハレルヤ、死んじゃやだ!」
頬を叩かれた程度で、死んだりしねぇつーの。皇女は俺の身体を力いっぱい揺すり、無事を確認しようとする。案外、力強いな……。目が回るんだけど。
ハレルヤの名で呼ばれたことに、違和感を感じている場合じゃねぇ。
皇女に身体を揺すられているせいで、ぐるぐると回る目を抑えながら、俺はどうにか立ち上がり、皇女を庇う。
「皇女様殴って……ただで済むと思ってんのか……?」
「その身に呪いが刻まれた皇女を、王家の人間として認めるわけにはいかぬ!庇い立てるならば、貴様諸共、死ね……!」
「駄目!」
皇女様が力いっぱい叫ぶ声を聞いた俺は、皇女様を殴った男が腰元につけていた鞘から真剣を取り出し、俺たちへ切っ先を向けてきたことに気づく。おいおい、マジかよ。俺達は丸腰だぜ?
ガキに大人がマジになって、ぶっ殺そうとしてくるとか。冗談じゃねぇ。
「……っ、クソが……!」
俺はどうなっても構わねぇけど、皇女様だけは守らねぇと。
俺を庇おうと手を伸ばした皇女様の腕には、唐草模様が刻まれている。
肌の色が見えないほどに刻まれたその唐草模様からは、黒い靄みたいなものがゆらゆらと漂っていた。
どう見たって禍々しいその紋章を触ったら、絶対にヤバイ。
皇女様に手を上げてきた奴にこのまま殺されるか、皇女様の腕に刻まれた唐草模様の紋章に触れて死ぬか──どっちも嫌だとしか言えねぇけど、どっちにしろ死ぬなら。男としては、皇女様を庇って死ぬのが正解だろ?
「キサネ、前に出るな!」
「あ……っ。呪いが……!」
呪いなんて知るかよ。刺されて無様に死ぬか、皇女様を守るため呪いに侵食されて死ぬかを選べるならば、俺は後者を選ぶ。
そうして皇女様の紋章に触れた俺は──皇女様の腕に刻まれた唐草模様から浮かび上がってきていた黒い靄に包まれ、白昼夢を見た。
桃色の煌びやかなドレスに身を包んだ少女が、見覚えのない身なりが整ったおっさんに頬を引っ叩かれて、泣いている。
俺は泣いている少女の姿を見て、それが皇女様であることに気づく。
キサネ・チカ・マチリンズ皇女殿下。
彼女はこの国で、一番偉いやつの娘だろ。なんで、頬を叩かれなければならないんだ?おかしいだろ。
「お前は何度、母親を殺そうとすれば気が済むのだ……!?」
「ひ……っ。ぅう、しらな、知らない……!」
「とぼけるな!」
男が手を振り上げ、もう一度皇女を引っ叩こうとした姿を見た俺は、考える暇もなく身体を動かす。
しゃがみ込み涙を流しながら頭を庇う皇女の泣き顔が、誰かに似ているような気がして──俺は咄嗟に、皇女の前に躍り出ていた。
「ハレルヤ……!」
皇女の代わりに頬を引っ叩かれた俺は、床に転がる。皇女は床に転がった俺に縋り付き、わんわんと泣き叫ぶ。
ハレルヤ・サトマウレ。
それが俺の名前だったはずなのに──なぜだかどうにもピンとこない。俺はもっと別の名前で呼ばれていたはずだ。別の名前を思い出そうとしても思い出せねぇから、困ってんだけどさ。
「貴様には用はない!退け!」
「ハレルヤ、死んじゃやだ!」
頬を叩かれた程度で、死んだりしねぇつーの。皇女は俺の身体を力いっぱい揺すり、無事を確認しようとする。案外、力強いな……。目が回るんだけど。
ハレルヤの名で呼ばれたことに、違和感を感じている場合じゃねぇ。
皇女に身体を揺すられているせいで、ぐるぐると回る目を抑えながら、俺はどうにか立ち上がり、皇女を庇う。
「皇女様殴って……ただで済むと思ってんのか……?」
「その身に呪いが刻まれた皇女を、王家の人間として認めるわけにはいかぬ!庇い立てるならば、貴様諸共、死ね……!」
「駄目!」
皇女様が力いっぱい叫ぶ声を聞いた俺は、皇女様を殴った男が腰元につけていた鞘から真剣を取り出し、俺たちへ切っ先を向けてきたことに気づく。おいおい、マジかよ。俺達は丸腰だぜ?
ガキに大人がマジになって、ぶっ殺そうとしてくるとか。冗談じゃねぇ。
「……っ、クソが……!」
俺はどうなっても構わねぇけど、皇女様だけは守らねぇと。
俺を庇おうと手を伸ばした皇女様の腕には、唐草模様が刻まれている。
肌の色が見えないほどに刻まれたその唐草模様からは、黒い靄みたいなものがゆらゆらと漂っていた。
どう見たって禍々しいその紋章を触ったら、絶対にヤバイ。
皇女様に手を上げてきた奴にこのまま殺されるか、皇女様の腕に刻まれた唐草模様の紋章に触れて死ぬか──どっちも嫌だとしか言えねぇけど、どっちにしろ死ぬなら。男としては、皇女様を庇って死ぬのが正解だろ?
「キサネ、前に出るな!」
「あ……っ。呪いが……!」
呪いなんて知るかよ。刺されて無様に死ぬか、皇女様を守るため呪いに侵食されて死ぬかを選べるならば、俺は後者を選ぶ。
そうして皇女様の紋章に触れた俺は──皇女様の腕に刻まれた唐草模様から浮かび上がってきていた黒い靄に包まれ、白昼夢を見た。
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