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わたしは由緒正しい家の生まれらしい

旦那様の歌声

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「舞鶴ちゃん」
「なーに、お姉さん」
「わたしが、どうやって生まれたか。ちゃんとわかったよ」
「へえ?そうなんだ。お姉さん、わたしに謝って欲しくて呼んだの」
「…うん」
「性格悪いね!」

舞鶴は何がおかしいのか、タンバリンをシャラシャラと鳴らし、叩いて遊んでいる。その音を聞いた越碁が今にも爆発しそうだ。冷戦状態で睨み合っている二人は、互いの妻だけが大切で、互いの姉妹には興味がない。けして混じり合うことのない二人を気にしながらも、戦いの火蓋を切るべく、久留里は舞鶴に向かって口を開く。

「お母さんは、精子提供の利用者じゃなかったんだ。学生時代に、知り合ったみたい」
「そうなの?お姉さん、勝ち組なんだ」
「負けているだろ、どー見ても。愛人何人いると思っているんスか」
「愛人じゃなくて精子提供者!白峰太郎は精子を希望者に配布していただけ!そこに愛はなかった。セフレですらないよ。お姉さんのお母さんと白峰太郎が恋人だったら、お姉さんは正妻の子どもだよ?わたし達の仲で一番偉い人になっちゃう!一番偉いのは鞍馬なのに!」
「ツッコむところそこかよ。その感性、わかんねーなー」
「信楽くんはお姉さんが一番でいいの!?」
「お姉さんなんだろ?一番なのは仕方ねえじゃん。ま、今だけ姉ちゃんヅラを楽しめばいいんだよ。どうせ、すぐ姉さんよりも老けた奴が現れて、姉だか兄だか名乗りを上げてごたつくんだ」
「信楽くん、その予言はちょっと…」
「事後認知の期間終了後ならどれだけ湧いてきても構わないけど、事後認知期間中に発覚すると、面倒くさいよねえ。信楽、気をつけなきゃだめ!名字に白って付く人、性格とか容姿が、似ているなって感じた人全部兄弟だって疑って掛かるんだよ!」
「まー、おれは女とか興味ないんで。心配される言われはないっスね。お姉さんも、子作りに励むのはいいですけど、産むなら男にするんスよ。男なら、白姫はわざわざ声を掛けて来ることなんかないんで」

もし、越碁との間に子どもができたらーー久留里は、男女共に別け隔てなく育てたい。どちらも大切な家族であり、子どもには変わりないから。

「いいですか、白姫の奴らが来たら、近づかない、情報を提供しない。すぐに外部へ助けを求める。これを徹底してください。対応を間違えると、全員共倒れしますよ」
「危ねェのはどっちだか…」
「白姫程度、恐れるに足りません。ああ、老舗和菓子屋程度では、白姫には抗う自信がないのですね」
「あァ?」
「え、越碁さんっ。お、落ち着こう?鞍馬くんも!越後屋さんのこと悪く言わないの…っ!」

一触触発の雰囲気に慌てて止めに入るが、「お姉さん大袈裟~」と舞鶴はケタケタと笑っている。舞鶴は鞍馬のこと、心配ではないのだろうか。越碁は大人と見紛うほどの体格と外見しているのに、3人は全く恐れる様子もなく、越碁を当然のように受け入れている。

「みんな…越碁さんのこと、怖くないの?」
「怖い?なんで?どこにでもいるオジサンじゃん。お姉さんってファザコンなの?よく言うよね。お父さん知らないと、恋人をお父さんに見立てるって。ああ、オジコンかなあ」
「越碁さんはまだ23歳です…っ!」
「えっ、マジ?ヤバくないっスか!どう見ても40代でしょ。貫禄あるし」
「着物なのも悪いよねえ~。私服姿、どんな感じ?若く見える?」

久留里が携帯を取り出し、鶴海から送付された私服姿のツーショット写真を表示して2人に見せる。評判は着物姿と変わりなく、「老けている」「何着たって変わんないじゃん」と散々な言いようだった。越碁の着物姿が好きな久留里は散々な言われようにぷっくりと頬を膨らませたが、これも姉弟らしい会話なのかもと思ったら、段々と楽しくなってきた。

「わたし、旦那さんのことお父さんって呼ぼうかな」
「あ、いいっスね。お父さん。嫌味ったらしくお義兄さんと呼ぶよりよっぽど嫌がらせになる」
「誰がお父さんだ」
「きゃーお父さんが怒ったあ~」
「声、渋いっスよね。はい、マイク。あ、なんか歌います?歌声聞きたいなあ」
「あァ?ルリに歌わせろ」
「自信ないんですね。音痴とか?」
「…………」

越碁さんの歌声、聞いたことないなあ。

久留里は口に出さないものの、期待するような瞳で越碁を見遣る。他の3人に担がれたからではない。久留里に望まれたから、マイクを握るのだ。
越碁がカラオケボックス内部のスピーカーから曲を流すため、小さな端末を操った越碁は、巷で流行している恋の歌を歌い始めた。

「へえ、意外」
「流行りの歌とか知っているんだあ」
「演歌じゃないんスか、つまんねーの」
「越碁さん…っ」

越碁の低い声が好きな久留里はうっとりと耳を傾け、越碁の歌声に酔い痴れる。有名アイドルよりも、ずっとかっこよくて、大好きな越碁が歌っている姿に感動した久留里は、弟妹のブーイングなど諸共せずに越碁だけを見つめていた。
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