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理解のある旦那さまとわたしの秘密
白峰太郎
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ーー氈鹿久留里様
突然の手紙、驚いたと思う。
この手紙を手にしたならば、君は俺との親子関係が科学的に認められたことになる。
残念ながら、君は俺の娘だ。
本当に、申し訳ないことをした。
俺にあの子と添い遂げる勇気があれば、君は今頃白姫の血縁として輝かしい生活を送っていたことだろう。
俺があの子と添い遂げる勇気がなかったせいで、君は受けるべき祝福を得ることなく、まるで白姫の男に産まれたような酷い環境で生きることになってしまった。俺のことは許さなくてもいいが、あの子のことはどうか責めないでやって欲しい。あの子は白姫や俺に頼ることなく、立派に君を育て上げたのだから。
さて。
君に手紙を書いたのは、君の出生だけは他の子どもたちとは異なることを知って欲しかったからだ。
あの子は学生時代、俺のことを好きだったらしい。彼女は貧乏で、俺のような人間に告白するような身分の人間ではないと遠慮していた。白姫は確かに由緒正しい血縁ではあるが、白姫の男は劣悪な環境で奴隷同然に扱われる。俺はけして裕福でなければ、崇められるような人間ではない。
実際、精子提供を始めたのは俺の意志ではなく、白姫の意志だ。
俺は人よりも健康な精子を持っているらしい。精密検査で気づいた白姫は、血縁の女児を増やそうとした。
最初のうちは無理矢理身体を重ねるように脅してきたが、身体を重ねるのは疲れる。面倒になって放置していたら、出すだけ出して女性に提供しろと言われるようになった。
暴行を受けるより素直に従った方がいいと思い、それからは毎日のように精子提供をしてきたんだ。なんで俺は生きているんだろうかと自暴自棄になった時期、受け渡し現場をあの子に見られた。
あの子とは一度だけしか関係を持ってはいない。その時にできたのが君だ。
あの子は俺に結婚を求めなかった。俺から言うべきだったんだろう。あの子の手を引き、白姫から逃げて、共に生きるべきだった。それができなかったのは、白姫に何人俺の子どもが存在しているかわからなかったからだ。
俺のことを気にしてくれた女性は、あとにも先にもあの子だけだった。どいつもこいつも俺を求めるのは精子が欲しいからで、精子の受け渡しが終われば、誰も俺のことなんか気にも止めない。
死期を宣告されてから、時折夢に見る。あの子と君の3人で、幸せに暮らす家族の夢だ。俺は選択を誤り、俺の価値には精子しかないと、自らSNSで精子提供を呼びかけ、罪を重ねた。
俺を愛してくれた唯一の女。
他の子どもなどどうでもいいが、あの子の子どもである君にだけはどうか、幸せになってほしいと願わずには居られない。
もしも今の境遇に苦しんでいるなら、白姫を頼るといい。白姫は何よりも女子を重んじる家系だ。きっと生活環境は改善されることだろう。人並みの幸せを得るのは難しいかもしれないが。
俺が死んだら、あの子と一緒の場所に行けるだろうか。死後の世界があるならば、行けたらいいとは思う。できる限り長生きしてほしいが、もしも君がこちらに来たその時は。家族三人、叶わなかった夢を、叶えてみたいと思う。
今更、好きであることに気づいたと言ったら、あの子は驚くだろうか。
もしも再び巡り合えたなら、あの子に言ってほしい。
俺の気持ちはどうやら本物らしいと。
娘が言えば、きっと受け入れてくれるだろう。仲良し親子だと勝手な妄想を膨らませているがもし違うなら、今度会った時に教えてほしい。
それじゃあ、後の事は頼む。
厄介でしかない父親で、何もできずに済まなかったーー
「クズが…」
この手紙を久留里に向けて書いた父親は、久留里の母親と結婚しなかったことを酷く後悔していたのだろう。母親の名前は記載されていなかったが、自分に好意を向けてくれる人間がどれほど貴重な人物であったかを、大人になってから気づいた、と懺悔するような内容だった。
ぼんやりと手紙を見つめた久留里は、越碁の押し殺した低い唸り声を聞き、パチパチと瞬きをした。どうしてそんなに怒っているか、久留里には理解できなかったからだ。
「越碁さん?」
「ルリは誰にも渡さねェ」
「…私は、越碁さんの奥さんだよ?越碁さん以外のものにはならないから…」
「この手紙。今更、ルリの元に大金が転がり込んでくると書いてある」
「…お金?そんなこと、書いてあった?遺産じゃなくて…?」
「名字で気づくべきだった。白姫の血縁は、名字に白の名を冠する。ルリ…白峰太郎の血を引く子どもは、全員白姫の血縁だ」
「…白姫って…?」
「色の五家が一つ。テレビでよく報道されている。色の姫が揃って公務に参加したとか、どうのこうの」
「あ…っ!」
久留里の家にテレビはない。羊森家の一員となって初めてテレビを見るようになった久留里は、時折越碁と並んでニュース番組を見る。その際、五家の姫と称される、きらびやかなドレスを纏った5人の少女が公務を行い、報道陣に手を振る姿がカメラに収められていた。
突然の手紙、驚いたと思う。
この手紙を手にしたならば、君は俺との親子関係が科学的に認められたことになる。
残念ながら、君は俺の娘だ。
本当に、申し訳ないことをした。
俺にあの子と添い遂げる勇気があれば、君は今頃白姫の血縁として輝かしい生活を送っていたことだろう。
俺があの子と添い遂げる勇気がなかったせいで、君は受けるべき祝福を得ることなく、まるで白姫の男に産まれたような酷い環境で生きることになってしまった。俺のことは許さなくてもいいが、あの子のことはどうか責めないでやって欲しい。あの子は白姫や俺に頼ることなく、立派に君を育て上げたのだから。
さて。
君に手紙を書いたのは、君の出生だけは他の子どもたちとは異なることを知って欲しかったからだ。
あの子は学生時代、俺のことを好きだったらしい。彼女は貧乏で、俺のような人間に告白するような身分の人間ではないと遠慮していた。白姫は確かに由緒正しい血縁ではあるが、白姫の男は劣悪な環境で奴隷同然に扱われる。俺はけして裕福でなければ、崇められるような人間ではない。
実際、精子提供を始めたのは俺の意志ではなく、白姫の意志だ。
俺は人よりも健康な精子を持っているらしい。精密検査で気づいた白姫は、血縁の女児を増やそうとした。
最初のうちは無理矢理身体を重ねるように脅してきたが、身体を重ねるのは疲れる。面倒になって放置していたら、出すだけ出して女性に提供しろと言われるようになった。
暴行を受けるより素直に従った方がいいと思い、それからは毎日のように精子提供をしてきたんだ。なんで俺は生きているんだろうかと自暴自棄になった時期、受け渡し現場をあの子に見られた。
あの子とは一度だけしか関係を持ってはいない。その時にできたのが君だ。
あの子は俺に結婚を求めなかった。俺から言うべきだったんだろう。あの子の手を引き、白姫から逃げて、共に生きるべきだった。それができなかったのは、白姫に何人俺の子どもが存在しているかわからなかったからだ。
俺のことを気にしてくれた女性は、あとにも先にもあの子だけだった。どいつもこいつも俺を求めるのは精子が欲しいからで、精子の受け渡しが終われば、誰も俺のことなんか気にも止めない。
死期を宣告されてから、時折夢に見る。あの子と君の3人で、幸せに暮らす家族の夢だ。俺は選択を誤り、俺の価値には精子しかないと、自らSNSで精子提供を呼びかけ、罪を重ねた。
俺を愛してくれた唯一の女。
他の子どもなどどうでもいいが、あの子の子どもである君にだけはどうか、幸せになってほしいと願わずには居られない。
もしも今の境遇に苦しんでいるなら、白姫を頼るといい。白姫は何よりも女子を重んじる家系だ。きっと生活環境は改善されることだろう。人並みの幸せを得るのは難しいかもしれないが。
俺が死んだら、あの子と一緒の場所に行けるだろうか。死後の世界があるならば、行けたらいいとは思う。できる限り長生きしてほしいが、もしも君がこちらに来たその時は。家族三人、叶わなかった夢を、叶えてみたいと思う。
今更、好きであることに気づいたと言ったら、あの子は驚くだろうか。
もしも再び巡り合えたなら、あの子に言ってほしい。
俺の気持ちはどうやら本物らしいと。
娘が言えば、きっと受け入れてくれるだろう。仲良し親子だと勝手な妄想を膨らませているがもし違うなら、今度会った時に教えてほしい。
それじゃあ、後の事は頼む。
厄介でしかない父親で、何もできずに済まなかったーー
「クズが…」
この手紙を久留里に向けて書いた父親は、久留里の母親と結婚しなかったことを酷く後悔していたのだろう。母親の名前は記載されていなかったが、自分に好意を向けてくれる人間がどれほど貴重な人物であったかを、大人になってから気づいた、と懺悔するような内容だった。
ぼんやりと手紙を見つめた久留里は、越碁の押し殺した低い唸り声を聞き、パチパチと瞬きをした。どうしてそんなに怒っているか、久留里には理解できなかったからだ。
「越碁さん?」
「ルリは誰にも渡さねェ」
「…私は、越碁さんの奥さんだよ?越碁さん以外のものにはならないから…」
「この手紙。今更、ルリの元に大金が転がり込んでくると書いてある」
「…お金?そんなこと、書いてあった?遺産じゃなくて…?」
「名字で気づくべきだった。白姫の血縁は、名字に白の名を冠する。ルリ…白峰太郎の血を引く子どもは、全員白姫の血縁だ」
「…白姫って…?」
「色の五家が一つ。テレビでよく報道されている。色の姫が揃って公務に参加したとか、どうのこうの」
「あ…っ!」
久留里の家にテレビはない。羊森家の一員となって初めてテレビを見るようになった久留里は、時折越碁と並んでニュース番組を見る。その際、五家の姫と称される、きらびやかなドレスを纏った5人の少女が公務を行い、報道陣に手を振る姿がカメラに収められていた。
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