偏見アンサー 理解のある彼くんとわたし

桜城恋詠

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理解のある旦那さまとわたしの秘密

挵蝶舞鶴

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ーー三週間後。検査の結果を越碁と共に見つめた久留里は、ほっとするやら緊張するやらで、さっそくコピーを取って鈴鹿に連絡する。

『検査の結果が出ました。妹さんに会わせてください』

羊森久留里は、白峰太郎の娘であることが証明された。

久留里の戦いはこれからだ。
何度も越碁に仕事を休ませ、付き合わせるのは忍びなかったが、「ルリは危機感がねェ。良いように丸め込まれても困んだろ」と言って、当然のようにお目付け役として隣へ並んだ。断る方が悪いと遠慮せずに受け入れた久留里は越碁と共に指定された場所へ向かった。

指定された場所は、アパートの一室だった。久留里からしてみれば築50年ほどの古めかしい外観は、母親と暮らしていたマンションの一室を思い出して懐かしいと感じるが、越碁からしてみればセキュリティ面で即刻引っ越せと言いかねない外観なのだろう。不機嫌そうに腕組をすると、越碁は「さっさと終わらせて帰るぞ」と久留里に声を掛け、指定された一室の呼び鈴を鳴らした。

「こら、ともちゃん!引っ張っちゃだめ!」
「あー、あー!」
「だめだってば!口に入れたら!お姉ちゃん!ともちゃんが…」
「どうにかして阻止して」
「ともちゃん、だめだよ!」

赤子の声にならない大声と、若い少女の声、玄関を開けながら後ろを振り返り少女に向かって静かに声を掛ける鈴鹿が羊森夫妻を出迎えた。声まで叫び声が丸聞こえだ。小さな子どもと暮らして、よく苦情がこないなと他人事まがら考えていた久留里は、赤子を抱えた異母妹と、初めて顔を合わせる。

「あ、あの。は、はじめまして…!」
「はじめまして!お姉ちゃんのお友達で、わたしのお姉さん。挵蝶舞鶴です。こっちは知世ともよ。1歳になったばかりなの」
「妹さん、ですか…?」
「娘だよ?」

誰との子どもなのか、と聞いていいのか悩む久留里は何度も口を開くべくまごついている。越碁も今回は黙って見守るつもりらしく、圧倒的に女子が多い場所で静かに目を瞑っていた。突っ込みどころが多すぎて頭が痛いのかもしれない。相手が久留里であれば、怖がられない程度に説教をしていただろう。

「舞、ちゃんと氈鹿さんに説明してあげて。何も知らないみたいよ」
「鞍馬が教えたんじゃないの?ドン引きしていたから、会いに来ないだろうって言ってたのに…男の人と一緒で驚いちゃった。旦那さんなんだって?」
「は、はい。羊森越碁さんです」
「舐め腐ってんなァ」
「あはっ。口悪いね?お姉ちゃんから噂は聞いていたけど、ほんとにお爺ちゃんみたーい」
「舞、年上には敬意を払って」
「なんで?鞍馬はトコトン嫌われろってアドバイスしてくれたよ?」
「舞…」
「う…?」

話し合いの邪魔になると判断したのか、舞鶴から娘の知世を抱き上げた鈴鹿は、「この子馬鹿なの」とフォローになっていない言葉を呟いた。越碁はきっと、久留里そっくりと考えたに違いない。久留里は馬鹿ではないが、世間知らずだった。言っていいことと悪い事の区別がつかないのだ。さすが、同じ血が流れているだけはある。越碁は鼻で笑い、舞鶴もまた笑顔で越碁に立ち向かう。

「わたしと鞍馬は、異母兄妹だけど愛し合っているの。ママはお姉ちゃんが一人っ子だとかわいそうだから、鞍馬は不妊治療で子どもを作ろうとしたけど、数百万使ってもできなくて、信楽くんはお母さんの不倫だったかな?お姉さんは?どうやって白峰太郎の精子提供を受けてうまれたの?」
「…わからないんだ。私のお母さん。高校の時に亡くなっているから…」
「そうなんだぁ。怪しい人に追いかけられなかった?わたし達ね、不審者に追いかけ回されたんだよ。鞍馬が調べたら、その人は探偵で、白峰太郎に言われてわたし達が本当に実在しているか調べたみたいなの。わたし達はその時初めて、自分たちが異母兄妹であることを知った」
「告白は鞍馬から。いずれ異母兄妹だってことは露呈してしまうから、その前に子どもを作って、蔵馬が18歳になったら結婚する。結婚した事実さえあれば、変な噂を流されても、わたし達が異母兄妹なんて信じない。日本は近親婚が禁止されている。結婚できたってことはデマだって、みんなわたし達を信じてくれるって…」
「それで、生まれたのが知世だよ。鞍馬の誕生日に籍を入れたの。大変だったんだぁ。わたし達が異母兄妹だって手紙が送付されたせいで、結婚していることバレちゃって。鞍馬のパパとママは泣いちゃうし、うちのママも白峰太郎なんかに頼るんじゃなかったって後悔するし…」
「親の同意を得ずに婚姻したのか」
「お姉ちゃんと、鞍馬の叔父さんに協力してもらったんだ。両親の同意は、代筆でどうにかなっちゃった」

ザルだよねえ。ケラケラ笑う舞鶴に罪の意識はないらしい。ルールを破ったもん勝ちと言わんばかりの態度に、黙っていた越碁も口を挟まずにはいられなかったようだ。久留里が二の句を紡げない代わりに、厳しい言葉を投げかける。
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