偏見アンサー 理解のある彼くんとわたし

桜城恋詠

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理解のある旦那さまとわたしの秘密

わたしが長女?

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「白峰太郎さんの弁護士ですね。氈鹿久留里の旦那で、羊森越碁と申します。手紙の件、詳細を伺えますか」

弁護士は電話では長くなるので、久留里と一緒に弁護士事務所へ来てほしいと言われる。約束を取り付けた越碁が電話を終えると、手紙を見つめて深く息を吐く。

「ルリの親父が亡くなった。ルリを含め4人子どもがいて、全員母親が異なるらしい。うち1人は友達の妹。他にわかっていることは」
「鈴鹿さんが言っていた内容と手紙の内容は、それで…あっ!妹さん、検査を受けるつもりはないみたいだよ。私が検査を受けて、娘だってわかったら…会わせてくれるとは言っていたけど…。事情があるって」
「…事情か」
「うん。どんな事情なのかは教えてもらえなかった」

これは久留里の問題ではあるが、越碁は親身になって深く考え込んでいる。久留里の為に。久留里一人ではこの手紙を受け取った後、どうすればいいのかわからずパニックになっていただろう。

「ルリは父親に会ったこと、ねェんだろ」
「うん。お母さんとお父さんが学生時代に撮影した写真が1枚、残っているだけ。どこで何しているとか、連絡先とかもお母さんは知らなかったみたい。携帯に、残ってなかったの。連絡先」
「父親は子どもを認識しているのに、母親と連絡取っていた形跡ねェのは妙だなァ…」
「お父さん、無責任な人だったのかな」
「母親違いの子どもが四人。ろくなもんじゃねェのは確かだな。期待して裏切られるより、覚悟決めて会いに行くべきだ」
「…そう、だね」

全員名字が異なる4人の子どもたち。
白峰太郎に婚姻履歴があるかすらわからないのだ。どのような状況で子どもたちが生まれたかについては、どんな状況であろうとも受け止める覚悟をしなければ。

「俺がついてる」

ーー越碁さんと一緒なら。たとえ私が不倫の末に生まれた子どもだとしても、受け入れられる。久留里はもう、一人ではない。越碁がいて、たくさんの知人に囲まれ、顔も知らない兄妹が3人いる。

「私のお父さんが、本当にこの人だったとしてもーー私、絶望したりしない。私には、越碁さんがいるから」
「ああ」

何かと後ろ向きな久留里がどんな状況であろうとも前を向いて歩くと決意したのは大きな進歩である。越碁は久留里の成長を喜び、久留里を安心させるように微笑んだ。

「氈鹿久留里さんですね」
「は、はい。今は…羊森、久留里です。結婚…したので…」
「そうでしたか。羊森さんとお呼びした方が…」
「あ、ええと。越碁さんも羊森なので…呼びづらくないでしょうか」
「ルリのことは羊森と呼んでください」

越碁は久留里の名を弁護士とはいえ、見知らぬ男に呼ばれたくないらしくきっぱりと横から口を出す。不機嫌そうに圧をかける越碁は、目線だけで「久留里に手を出したら殺す」と訴えかけている。弁護士はやりづらくて仕方ないだろう。久留里はあわあわと越碁と弁護士を見比べながらも、優しい笑みを称える弁護士が了承し、何事もなかったかのように話を続ける姿にほっとした様子を見せた。

「承知致しました。本日はお忙しい。中ご足労頂きまして誠にありがとうございます。手紙を送付した所、宛先不明で差し戻されてしまい、探偵に頼むか判断に迷っていた所でして…ご連絡を頂きまして大変助かりました。手紙を拝見したとのことですが…その手紙は、どちらで?」
「ええと、こちらに記載されている挵蝶さん…お姉さんと、大学が同じで。私の旧姓が記載されていると連絡を貰ったんです」
「なるほど。では、挵蝶舞鶴さんとは面識が…?」
「いえ、鈴鹿さんーーお姉さんからは、白峰太郎さんとの血縁関係が認められた場合のみ、会ってもいいと言われています。それで、弁護士さんはどこまで把握していらっしゃるかを知りたくて」
「把握、ですか。こちらも御本人からの話と、手紙を送付した際羊森さん以外の3名からは、検査拒否の連絡を頂いたことくらいしかお話できる情報はないのです」
「検査、拒否?全員と連絡、取れているんですか…?」
「ええ。御本人からではなく親御さんたちから拒否の連絡を頂いております。羊森さん以外の3名は全員未成年ですので。故人のお話ですとーー現在、牛熊鞍馬さんが18歳、挵蝶舞鶴さんは16歳、亀倉信楽さんが最年少の15歳。中学3年生です」

ーーわ、わたしが長女ってこと…?

久留里はずっと一人っ子として誰にも頼ることなく生きてきた。兄妹がいる、と言われて。姉や兄がいたら、こんなに苦労することはなかったかもしれないと考えていたが、どちらにせよ弟と妹が3人もいるなら、一緒に暮らしていた所で久留里の苦労が絶えることはなかっただろう。

ーーこんな頼りない長女だって知ったら。みんな、知りたくなかったって言うのかな…。

久留里は後ろめたい気持ちに苛まれながら、3人が親子鑑定を拒絶している以上、久留里が姉として名乗り出る機会はないかもしれないと考える。
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