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理解のある旦那さまとわたしの秘密
異母兄弟?
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久留里に心当たりがあるのは1人だけだ。
「挵蝶舞鶴さんって…鈴鹿さんと、名字が…」
「妹なの。この手紙は、弁護士事務所から妹宛に送付された。母がゴミ箱に捨てたのを拾って、コピーしたものよ。それは氈鹿さんにあげる。手紙、来なかったんだ」
「手紙の日付ーー今年に入ってから、ですよね。私、母と暮らしていたマンションから引っ越して…二年経つんです。郵便物の転送サービスは一年間だから…」
今の久留里は越碁と婚姻したことで羊森久留里となっているが、この手紙に書かれた久留里の名前は旧姓の氈鹿だ。弁護士事務所がわざわざ久留里の戸籍を確認した上で書類を送付しているわけではないならば、久留里の手元に手紙が届かなかったのも無理はない。久留里は越碁と暮らすようになり、マンションの一室を引き払ってしまった。
「そう。舞鶴が私の妹でよかったね。氈鹿さんの妹でもあるかもしれないけど」
「それって、どう言う」
「書かれている通り。その手紙は、亡くなった白峰太郎に4人の子どもがいるかもしれないから、遺産分配のためにはっきりさせようと書かれている。血の繋がりがあれば、妹と氈鹿さんは異母姉妹、私と妹は異父姉妹になるかな」
「…妹?私の…?」
妹だけではない。この手紙に書かれている子どもたちが検査を受けて、血縁関係が証明されたならーー久留里には、3人の兄妹がいることになる。
ーー写真でしか見たことのないお父さん。お母さんが死んでしまってから、ずっと。私は一人になってしまったと思っていた。
けれどもし、この手紙が真実であるならばーー久留里と血の繋がった兄妹が3人も、何処かで生きている。
「突然のことだから、驚くよね。私と妹もそうだった。親子鑑定、受ける気があるなら、弁護士事務所に連絡して」
「あっ、あの!妹さんは、もうーー」
「ーーうちの妹、親子鑑定は受ける気ないの」
「えっ…?」
「複雑な事情があって。氈鹿さんが本当に白峰太郎の娘なら、その事情は話してもいいよ。妹にも、会わせてあげる」
「…わかりました」
「探偵に頼んでうちの住所調べたり、私を通さずに妹と会おうとするのはやめて。母は関わりたくないと言っている。氈鹿さんの名前を知っているから。警察呼ばれても…困るでしょ」
「た、探偵さん、ですか!?私、探偵さんに調べて欲しいとお願いするようなお金はありません…!」
ーー探偵さんって、浮気調査とかする人だよね?1回数十万はくだらないって聞いたことある…!
久留里は母の教えを忠実に守り、消費者金融と探偵には頼らないと決めているので、ぶんぶんと首を振った。鈴鹿は久留里がメイクを教えてほしいと勇気を出して問いかけた際「プチプラ限定で」との言葉を覚えていたのだろう。苦笑いしながら、真面目な顔で久留里に伝える。
「そうだった。旦那さんとよく相談して決めて。結果がわかったら、私にも教えて欲しい」
密室で襲われ越碁に助けを求めることはなかったが、違う意味で越碁に助けを求めることになりそうだ。
「氈鹿さん。次の授業。いいの?」
「はっ…!」
しばらく呆然としていた久留里も、鈴鹿に諭され慌てて暗室を飛び出す。
その日の授業は、まったく頭に入ってこなかった。
「越碁さん」
久留里は学校終わりに越碁屋の接客アルバイトとして閉店まで店頭に立っている。社会人となった越碁のシフトはマチマチだが、仕込みの関係もあり朝から夕方までのシフトが多かった。味覚障害時代の後れを取り戻す為、両親に休めと言われないと朝から晩まで働き続ける越碁は、越後屋の厨房から出て仕事を終えると、暇を見ては趣味の和菓子を象ったアクセサリー作りに精を出している。
「どうした」
久留里の顔が青白いことに気づいた越碁はすぐにアクセサリー作りを止め、久留里に問いかけた。付き合いが長くなければわからない些細な変化ではあるが、眉間に寄せられた皺は、久留里を心配してできた皺だ。思わず抱きつきたくなる気持ちを抑えながら、久留里は越碁に「見てほしいものがあるの」と鈴鹿とまったく同じ言葉を向け、支度を整えた越碁に鈴鹿から受け取った手紙を見せる。
「兄弟がいたのか」
「…そう、みたい…。一人は、鈴鹿さんーーええと、挵蝶さんの妹さんだって。異母姉妹かもしれないって言われたの。だから、亡くなった…この人は…」
「詐欺じゃねェだろうな」
越碁は久留里に3人の兄妹がいること、父親が亡くなったと手紙に書かれていると知るや否や、携帯電話を手繰り寄せなにやら熱心に調べ始めた。うずうずとじっとしてられない久留里は越碁の隣まで移動し、越碁の携帯を覗き込む。
「弁護士事務所…実在してはいるなァ。掛けてみるか…」
「越碁さんが!?わ、私が連絡撮らなきゃいけないのに…!」
「するか?うまく話せんなら、任せてもいい」
「じ、自信はない、けど…」
「…ルリの旦那だって言えばどうとでもなんだろ」
久留里は旦那、と名乗った越碁を見てぼんやりと熱を帯びた表情をするが、越碁は気にした様子もなく久留里の頭を撫でて弁護士事務所に連絡する。
スピーカーにしているお陰で、久留里にも相手側の声がはっきりと聞こえた。
「挵蝶舞鶴さんって…鈴鹿さんと、名字が…」
「妹なの。この手紙は、弁護士事務所から妹宛に送付された。母がゴミ箱に捨てたのを拾って、コピーしたものよ。それは氈鹿さんにあげる。手紙、来なかったんだ」
「手紙の日付ーー今年に入ってから、ですよね。私、母と暮らしていたマンションから引っ越して…二年経つんです。郵便物の転送サービスは一年間だから…」
今の久留里は越碁と婚姻したことで羊森久留里となっているが、この手紙に書かれた久留里の名前は旧姓の氈鹿だ。弁護士事務所がわざわざ久留里の戸籍を確認した上で書類を送付しているわけではないならば、久留里の手元に手紙が届かなかったのも無理はない。久留里は越碁と暮らすようになり、マンションの一室を引き払ってしまった。
「そう。舞鶴が私の妹でよかったね。氈鹿さんの妹でもあるかもしれないけど」
「それって、どう言う」
「書かれている通り。その手紙は、亡くなった白峰太郎に4人の子どもがいるかもしれないから、遺産分配のためにはっきりさせようと書かれている。血の繋がりがあれば、妹と氈鹿さんは異母姉妹、私と妹は異父姉妹になるかな」
「…妹?私の…?」
妹だけではない。この手紙に書かれている子どもたちが検査を受けて、血縁関係が証明されたならーー久留里には、3人の兄妹がいることになる。
ーー写真でしか見たことのないお父さん。お母さんが死んでしまってから、ずっと。私は一人になってしまったと思っていた。
けれどもし、この手紙が真実であるならばーー久留里と血の繋がった兄妹が3人も、何処かで生きている。
「突然のことだから、驚くよね。私と妹もそうだった。親子鑑定、受ける気があるなら、弁護士事務所に連絡して」
「あっ、あの!妹さんは、もうーー」
「ーーうちの妹、親子鑑定は受ける気ないの」
「えっ…?」
「複雑な事情があって。氈鹿さんが本当に白峰太郎の娘なら、その事情は話してもいいよ。妹にも、会わせてあげる」
「…わかりました」
「探偵に頼んでうちの住所調べたり、私を通さずに妹と会おうとするのはやめて。母は関わりたくないと言っている。氈鹿さんの名前を知っているから。警察呼ばれても…困るでしょ」
「た、探偵さん、ですか!?私、探偵さんに調べて欲しいとお願いするようなお金はありません…!」
ーー探偵さんって、浮気調査とかする人だよね?1回数十万はくだらないって聞いたことある…!
久留里は母の教えを忠実に守り、消費者金融と探偵には頼らないと決めているので、ぶんぶんと首を振った。鈴鹿は久留里がメイクを教えてほしいと勇気を出して問いかけた際「プチプラ限定で」との言葉を覚えていたのだろう。苦笑いしながら、真面目な顔で久留里に伝える。
「そうだった。旦那さんとよく相談して決めて。結果がわかったら、私にも教えて欲しい」
密室で襲われ越碁に助けを求めることはなかったが、違う意味で越碁に助けを求めることになりそうだ。
「氈鹿さん。次の授業。いいの?」
「はっ…!」
しばらく呆然としていた久留里も、鈴鹿に諭され慌てて暗室を飛び出す。
その日の授業は、まったく頭に入ってこなかった。
「越碁さん」
久留里は学校終わりに越碁屋の接客アルバイトとして閉店まで店頭に立っている。社会人となった越碁のシフトはマチマチだが、仕込みの関係もあり朝から夕方までのシフトが多かった。味覚障害時代の後れを取り戻す為、両親に休めと言われないと朝から晩まで働き続ける越碁は、越後屋の厨房から出て仕事を終えると、暇を見ては趣味の和菓子を象ったアクセサリー作りに精を出している。
「どうした」
久留里の顔が青白いことに気づいた越碁はすぐにアクセサリー作りを止め、久留里に問いかけた。付き合いが長くなければわからない些細な変化ではあるが、眉間に寄せられた皺は、久留里を心配してできた皺だ。思わず抱きつきたくなる気持ちを抑えながら、久留里は越碁に「見てほしいものがあるの」と鈴鹿とまったく同じ言葉を向け、支度を整えた越碁に鈴鹿から受け取った手紙を見せる。
「兄弟がいたのか」
「…そう、みたい…。一人は、鈴鹿さんーーええと、挵蝶さんの妹さんだって。異母姉妹かもしれないって言われたの。だから、亡くなった…この人は…」
「詐欺じゃねェだろうな」
越碁は久留里に3人の兄妹がいること、父親が亡くなったと手紙に書かれていると知るや否や、携帯電話を手繰り寄せなにやら熱心に調べ始めた。うずうずとじっとしてられない久留里は越碁の隣まで移動し、越碁の携帯を覗き込む。
「弁護士事務所…実在してはいるなァ。掛けてみるか…」
「越碁さんが!?わ、私が連絡撮らなきゃいけないのに…!」
「するか?うまく話せんなら、任せてもいい」
「じ、自信はない、けど…」
「…ルリの旦那だって言えばどうとでもなんだろ」
久留里は旦那、と名乗った越碁を見てぼんやりと熱を帯びた表情をするが、越碁は気にした様子もなく久留里の頭を撫でて弁護士事務所に連絡する。
スピーカーにしているお陰で、久留里にも相手側の声がはっきりと聞こえた。
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