偏見アンサー 理解のある彼くんとわたし

桜城恋詠

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閑話休題(番外編)

鶴海の彼女(前編)

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「越碁、ごめん!場所貸して!」
「あァ?」

蜂谷鶴海が、意中の女性を連れて来た。

酔っているのか足取りが覚束ない彼女を支えた鶴海を出迎えた越碁は、「何言っているんだこいつ」と腕を組む。久留里は鶴海の様子よりも、彼女の方が気になっていた。

ーーすごく…大きい。

苦しいのかワイシャツのボタンを3つも開いた女性の胸元からは豊かな胸の膨らみが覗いている。自分の胸元と比べた久留里は虚しくなりながら、離れの一室に鶴海と女性を案内しベッドに寝かせた。

「で?」
「いや~。話が弾みすぎて、寝落ちしちゃってさぁ。俺、自宅知らないから。越碁の所ならいつでも部屋、余裕あるじゃん?」
「うちは無料の宿泊部屋じゃねェ。ホテル行け」
「いかがわしい関係じゃなくてね?オレの片思いなんだ。お付き合いするまでは時間が掛かる。好感度、下げたくないんだよね~」
「ーーどう思う」
「ひえっ。私ですか…?」

意見を求められても困る。
鶴海に意中の相手がいる話は聞いたことはあるがーー眠る彼女と言葉を交わしたことすらないのに。いいか悪いかを聞かれても、久留里は反応に困ってしまった。

「今からタクシーで移動するのも…、大変、だし…」
「警戒心ねェな」
「へ、変な人じゃないよね!?女の人だよ?蜂谷さんが連れてきた人だから…!」
「サンキュー、シカちゃん。そんなに嫌がることないじゃん。ねえ?」
「ルリに何かあったらどうする」
「ないない。殺人事件とか…あー、けど、愛媛《えひめ》さん。気性が激しいからなぁ。ありえなくもな…い…?」
「ひえっ。そ、そんなこわ…っ。あ!な、なんでもありません」

そんな怖い人を連れてくるなんて。

言葉を交わしたことのない女性を見た目や鶴海の話を真に受けて判断するのはいけないことだ。上辺だけで判断されて越碁と久留里の2人はとても苦労した。自分がやられて嫌なことは、他人にしないと決めた久留里は、勇気を出して、色眼鏡で見たりしないぞと決意を新たに鶴海の彼女と接する。

「あ、あの!徳島《とくしま》さん…!」

彼女の名は徳島愛媛とくしまえひめ。鶴海曰く、政治家の娘であり、父親の後を継ぐべく秘書として父親の仕事を支えているーーはずだったのだが。どうにも、雲行きが怪しい。議員秘書を辞めるかどうか迷っていると鶴海が相談を受け、再就職先に越後屋を指定したらしいのだ。久留里は越碁からの又聞きで、「後輩になるかも」と言われている。年齢からしてみれば7つも年上のお姉さんが、後輩。しかも、外見だけなら久留里と真逆の「強い女」だ。強い女に何かと不利になる噂を流され、存在を無視され続けた久留里にとって、苦手意識のあるタイプだがーー愛媛から直接嫌がらせを受けたわけでではない。苦手に思うのは、彼女の人となりを確かめてからにするべきだ。

「何かしら」
「あ、あの…っ。今度、じょ、女子会!しませんか!凪沙ちゃんと一緒に、3人で…っ!」

何をそんなに緊張する必要があるのかと久留里を見つめた愛媛は、「未成年がいると酒が飲めないじゃない」と吐き捨てた。愛媛は現在、蜂谷兄妹と3人で暮らしている。凪沙が飲酒に憧れを持たないように、凪沙が居ない所で飲酒をしているのだろうか。

ーーやっぱり、外見だけで判断したらいけないんだ。

「じゃあ、夜に。2人で…っ。お話、したい、です。私、お酒はあまり強くない、ですが…」

久留里は勇気を出して愛媛へ提案する。愛媛に断られるのは覚悟の上であったが、意外にも愛媛は「飲食代を貴女が負担してくださるなら構わないわよ」と言った。宅飲みを想定していた久留里は缶チューハイの一本や二本ならお安い御用だと頷いたが、ここで愛媛が想定していたのは宅飲みではなくおしゃれなバーだった。どこの店を予約するか、愛媛に聞かれて、「外で飲むのは越碁さんが許してくれないと思うので…」と答えた久留里に、愛媛は吐き捨てる。

「未成年でもあるまいし。門限があるの?」
「は、はい。2年ほど前に…終電間際まで劣悪な居酒屋バイトをしていたのですが…越碁さんが、危ないからやめろと仰って。それからは、夜の外出は越碁さんと同伴でないと、怒られてしまうんです」
「…過保護な旦那さまだこと。あなたの家に行けばいいのね。旦那に盗聴される危険性は?」
「そ、それはないと…っ!越碁さん、プライバシーにはしっかりと配慮してくださる方なので」
「どこまで信頼できるかしら」
「えっ…?」

越碁には何度も「警戒心がない」と言われ続けて来たが、愛媛もまた難しい顔で似たようなことを吐き捨てている。「どこまで信頼できるか」、など。久留里からしてみれば考えるまでもない。越碁のプロポーズを了承し妻になった以上、久留里は越碁を信頼しているし、越碁だって同じ気持ちのはずだ。
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