12 / 31
閑話休題(番外編)
鶴海の彼女(前編)
しおりを挟む
「越碁、ごめん!場所貸して!」
「あァ?」
蜂谷鶴海が、意中の女性を連れて来た。
酔っているのか足取りが覚束ない彼女を支えた鶴海を出迎えた越碁は、「何言っているんだこいつ」と腕を組む。久留里は鶴海の様子よりも、彼女の方が気になっていた。
ーーすごく…大きい。
苦しいのかワイシャツのボタンを3つも開いた女性の胸元からは豊かな胸の膨らみが覗いている。自分の胸元と比べた久留里は虚しくなりながら、離れの一室に鶴海と女性を案内しベッドに寝かせた。
「で?」
「いや~。話が弾みすぎて、寝落ちしちゃってさぁ。俺、自宅知らないから。越碁の所ならいつでも部屋、余裕あるじゃん?」
「うちは無料の宿泊部屋じゃねェ。ホテル行け」
「いかがわしい関係じゃなくてね?オレの片思いなんだ。お付き合いするまでは時間が掛かる。好感度、下げたくないんだよね~」
「ーーどう思う」
「ひえっ。私ですか…?」
意見を求められても困る。
鶴海に意中の相手がいる話は聞いたことはあるがーー眠る彼女と言葉を交わしたことすらないのに。いいか悪いかを聞かれても、久留里は反応に困ってしまった。
「今からタクシーで移動するのも…、大変、だし…」
「警戒心ねェな」
「へ、変な人じゃないよね!?女の人だよ?蜂谷さんが連れてきた人だから…!」
「サンキュー、シカちゃん。そんなに嫌がることないじゃん。ねえ?」
「ルリに何かあったらどうする」
「ないない。殺人事件とか…あー、けど、愛媛《えひめ》さん。気性が激しいからなぁ。ありえなくもな…い…?」
「ひえっ。そ、そんなこわ…っ。あ!な、なんでもありません」
そんな怖い人を連れてくるなんて。
言葉を交わしたことのない女性を見た目や鶴海の話を真に受けて判断するのはいけないことだ。上辺だけで判断されて越碁と久留里の2人はとても苦労した。自分がやられて嫌なことは、他人にしないと決めた久留里は、勇気を出して、色眼鏡で見たりしないぞと決意を新たに鶴海の彼女と接する。
「あ、あの!徳島《とくしま》さん…!」
彼女の名は徳島愛媛。鶴海曰く、政治家の娘であり、父親の後を継ぐべく秘書として父親の仕事を支えているーーはずだったのだが。どうにも、雲行きが怪しい。議員秘書を辞めるかどうか迷っていると鶴海が相談を受け、再就職先に越後屋を指定したらしいのだ。久留里は越碁からの又聞きで、「後輩になるかも」と言われている。年齢からしてみれば7つも年上のお姉さんが、後輩。しかも、外見だけなら久留里と真逆の「強い女」だ。強い女に何かと不利になる噂を流され、存在を無視され続けた久留里にとって、苦手意識のあるタイプだがーー愛媛から直接嫌がらせを受けたわけでではない。苦手に思うのは、彼女の人となりを確かめてからにするべきだ。
「何かしら」
「あ、あの…っ。今度、じょ、女子会!しませんか!凪沙ちゃんと一緒に、3人で…っ!」
何をそんなに緊張する必要があるのかと久留里を見つめた愛媛は、「未成年がいると酒が飲めないじゃない」と吐き捨てた。愛媛は現在、蜂谷兄妹と3人で暮らしている。凪沙が飲酒に憧れを持たないように、凪沙が居ない所で飲酒をしているのだろうか。
ーーやっぱり、外見だけで判断したらいけないんだ。
「じゃあ、夜に。2人で…っ。お話、したい、です。私、お酒はあまり強くない、ですが…」
久留里は勇気を出して愛媛へ提案する。愛媛に断られるのは覚悟の上であったが、意外にも愛媛は「飲食代を貴女が負担してくださるなら構わないわよ」と言った。宅飲みを想定していた久留里は缶チューハイの一本や二本ならお安い御用だと頷いたが、ここで愛媛が想定していたのは宅飲みではなくおしゃれなバーだった。どこの店を予約するか、愛媛に聞かれて、「外で飲むのは越碁さんが許してくれないと思うので…」と答えた久留里に、愛媛は吐き捨てる。
「未成年でもあるまいし。門限があるの?」
「は、はい。2年ほど前に…終電間際まで劣悪な居酒屋バイトをしていたのですが…越碁さんが、危ないからやめろと仰って。それからは、夜の外出は越碁さんと同伴でないと、怒られてしまうんです」
「…過保護な旦那さまだこと。あなたの家に行けばいいのね。旦那に盗聴される危険性は?」
「そ、それはないと…っ!越碁さん、プライバシーにはしっかりと配慮してくださる方なので」
「どこまで信頼できるかしら」
「えっ…?」
越碁には何度も「警戒心がない」と言われ続けて来たが、愛媛もまた難しい顔で似たようなことを吐き捨てている。「どこまで信頼できるか」、など。久留里からしてみれば考えるまでもない。越碁のプロポーズを了承し妻になった以上、久留里は越碁を信頼しているし、越碁だって同じ気持ちのはずだ。
「あァ?」
蜂谷鶴海が、意中の女性を連れて来た。
酔っているのか足取りが覚束ない彼女を支えた鶴海を出迎えた越碁は、「何言っているんだこいつ」と腕を組む。久留里は鶴海の様子よりも、彼女の方が気になっていた。
ーーすごく…大きい。
苦しいのかワイシャツのボタンを3つも開いた女性の胸元からは豊かな胸の膨らみが覗いている。自分の胸元と比べた久留里は虚しくなりながら、離れの一室に鶴海と女性を案内しベッドに寝かせた。
「で?」
「いや~。話が弾みすぎて、寝落ちしちゃってさぁ。俺、自宅知らないから。越碁の所ならいつでも部屋、余裕あるじゃん?」
「うちは無料の宿泊部屋じゃねェ。ホテル行け」
「いかがわしい関係じゃなくてね?オレの片思いなんだ。お付き合いするまでは時間が掛かる。好感度、下げたくないんだよね~」
「ーーどう思う」
「ひえっ。私ですか…?」
意見を求められても困る。
鶴海に意中の相手がいる話は聞いたことはあるがーー眠る彼女と言葉を交わしたことすらないのに。いいか悪いかを聞かれても、久留里は反応に困ってしまった。
「今からタクシーで移動するのも…、大変、だし…」
「警戒心ねェな」
「へ、変な人じゃないよね!?女の人だよ?蜂谷さんが連れてきた人だから…!」
「サンキュー、シカちゃん。そんなに嫌がることないじゃん。ねえ?」
「ルリに何かあったらどうする」
「ないない。殺人事件とか…あー、けど、愛媛《えひめ》さん。気性が激しいからなぁ。ありえなくもな…い…?」
「ひえっ。そ、そんなこわ…っ。あ!な、なんでもありません」
そんな怖い人を連れてくるなんて。
言葉を交わしたことのない女性を見た目や鶴海の話を真に受けて判断するのはいけないことだ。上辺だけで判断されて越碁と久留里の2人はとても苦労した。自分がやられて嫌なことは、他人にしないと決めた久留里は、勇気を出して、色眼鏡で見たりしないぞと決意を新たに鶴海の彼女と接する。
「あ、あの!徳島《とくしま》さん…!」
彼女の名は徳島愛媛。鶴海曰く、政治家の娘であり、父親の後を継ぐべく秘書として父親の仕事を支えているーーはずだったのだが。どうにも、雲行きが怪しい。議員秘書を辞めるかどうか迷っていると鶴海が相談を受け、再就職先に越後屋を指定したらしいのだ。久留里は越碁からの又聞きで、「後輩になるかも」と言われている。年齢からしてみれば7つも年上のお姉さんが、後輩。しかも、外見だけなら久留里と真逆の「強い女」だ。強い女に何かと不利になる噂を流され、存在を無視され続けた久留里にとって、苦手意識のあるタイプだがーー愛媛から直接嫌がらせを受けたわけでではない。苦手に思うのは、彼女の人となりを確かめてからにするべきだ。
「何かしら」
「あ、あの…っ。今度、じょ、女子会!しませんか!凪沙ちゃんと一緒に、3人で…っ!」
何をそんなに緊張する必要があるのかと久留里を見つめた愛媛は、「未成年がいると酒が飲めないじゃない」と吐き捨てた。愛媛は現在、蜂谷兄妹と3人で暮らしている。凪沙が飲酒に憧れを持たないように、凪沙が居ない所で飲酒をしているのだろうか。
ーーやっぱり、外見だけで判断したらいけないんだ。
「じゃあ、夜に。2人で…っ。お話、したい、です。私、お酒はあまり強くない、ですが…」
久留里は勇気を出して愛媛へ提案する。愛媛に断られるのは覚悟の上であったが、意外にも愛媛は「飲食代を貴女が負担してくださるなら構わないわよ」と言った。宅飲みを想定していた久留里は缶チューハイの一本や二本ならお安い御用だと頷いたが、ここで愛媛が想定していたのは宅飲みではなくおしゃれなバーだった。どこの店を予約するか、愛媛に聞かれて、「外で飲むのは越碁さんが許してくれないと思うので…」と答えた久留里に、愛媛は吐き捨てる。
「未成年でもあるまいし。門限があるの?」
「は、はい。2年ほど前に…終電間際まで劣悪な居酒屋バイトをしていたのですが…越碁さんが、危ないからやめろと仰って。それからは、夜の外出は越碁さんと同伴でないと、怒られてしまうんです」
「…過保護な旦那さまだこと。あなたの家に行けばいいのね。旦那に盗聴される危険性は?」
「そ、それはないと…っ!越碁さん、プライバシーにはしっかりと配慮してくださる方なので」
「どこまで信頼できるかしら」
「えっ…?」
越碁には何度も「警戒心がない」と言われ続けて来たが、愛媛もまた難しい顔で似たようなことを吐き捨てている。「どこまで信頼できるか」、など。久留里からしてみれば考えるまでもない。越碁のプロポーズを了承し妻になった以上、久留里は越碁を信頼しているし、越碁だって同じ気持ちのはずだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる