偏見アンサー 理解のある彼くんとわたし

桜城恋詠

文字の大きさ
上 下
4 / 31
偏見アンサー

突撃お宅訪問

しおりを挟む
「わ、私…了承したら、お風呂に沈められるのでしょうか…」
「ないない。顔が怖いだけで、越碁に反社会的な知り合いはいないからね!?案外、うまくやっていけると思うよ?あれでも越碁、凪沙とは普通に話ができるし面倒見はいいから」

ーーよかったら越碁の実家にも顔見せてやってよ。話し通しとく。

和菓子越後屋、と書かれたお店の名刺を受け取った久留里は開いた口を塞ぐことができなかった。鶴海が言うには、あの今にも人を殺しそうな越碁は心優しい青年であるらしい。しかし、本人から友達になってくれと言われたわけでもないのにどこまで真に受けていいものか。

ーー友達の友達は他人と言うし…。

鶴海の言葉を信じていないわけではないが、これ程うまい話などあるのだろうかと疑ってはいる。越碁の話がなく、鶴海が「友達になってほしい」と誘うだけなら、久留里は喜んで友達1号の誕生を喜んだだろう。しかし、鶴海はどちらかと言えば「越碁が外見通りの人間ではないので、もっと中身を見てほしいから友達になってほしい」と久留里にお願いしているのだ。

ーーもしも、鶴海さんが勝手にやっていることで。越碁さんにその気がないなら…。

確かめてみようと思った。一方の話だけ聞いていたら、真実にはけして辿り着かない。蜂谷さんが嘘を言っていると疑うわけではないけれどーーもし、越碁さんにその気がないとしたら。勝手に舞い上がって、初めて友達ができたと勘違いして傷つくのは久留里だ。

問題は、久留里が越碁の受けている授業が何かを知らないことだろうか。知っているのは毎週水曜の3限目に入れ違いで久留里が2限に利用している教室の講義を受けていることだけ。常に鶴海が一緒にいる為、越碁の本音を聞き出すことはできそうにない。「友達になって欲しいなんて思ってねェ」と越碁と鶴海が喧嘩を始めたら、またわんわん泣き出してしまう。迷惑なことこの上ない。

『越後屋のおにーちゃんが受けてる授業の時間割?』
『できれば鶴海さんと一緒に授業を受けてない日にお話がしたくて…』
『越後屋に突撃したらよくない?』
『でも、私…持ち合わせがあまりなくて…』
『お店に顔見せなくたって、母屋に突撃すればいいんだよ!凪沙、お兄にナイショで仲介してあげよっか?』
『蜂谷さんにご迷惑をお掛けするわけには…』
『くるりんおねーさん、土日のご予定は?』
『土日なら、午前中は空いてます』
『おっけー!越後屋のおにーちゃん、日曜の11時なら開いてるって!カフェの前に20分前集合ね!凪沙迎えに行くよー!』

最悪の場合は空き時間を使って虱潰しに越碁を探し回るかと考えた所で、凪沙と連絡先を交換していたことに気づく。鶴海の話では、越碁と仲がいいらしい。もしかしたらと思いを込めて連絡を取り合えば、絵文字が山盛りのメッセージと共に越碁へ約束を取り付けたと返信が返ってきた。

ーー時間割を教えてさえ貰えたら、それでよかったのに…。

話が大きくなっている。くだらない理由で対して仲良くもないのに家に来るなんてと怒られたらどうしよう。怯えながらも日々を過ごしていたからか、夜のバイトではオーダーミスをしたり、打ち間違えを起こしたりと散々だった。たくさん怒られて、お客さんに嫌味を言われ…。落ち込みながらも、罰が当たったのだと思い込むことでどうにか立ち上がる。今日は日曜。越碁の真意を確かめる日だ。戦う気力をすでに失っている久留里の姿を見た凪沙は「くるりんおねーちゃん寝不足?すっごい隈だよ!」と心配してくれるが、今まで心配してくれる人なんていなかった久留里は人の暖かなぬくもりに触れて泣いてしまいそうだった。涙を堪え、「大丈夫だよ」と笑顔を作る。全部久留里が悪いのだ。うまく立ち回れなかった。お客様に迷惑をかけた。久留里が…。

「越後屋のおにーちゃーん!凪沙が来たよー!」

とんでもなく大きな純和風の、平屋建て古民家。歴史がありそう。お金持ち、と言葉が浮かんでは消えていく。インターホンは備え付けられていないのか、ガンガンとドアを叩いて大声を出した凪沙は当然のように玄関の引き戸を引いた。

鍵は掛かっていないようで、久留里は到底信じられなかった。こんな大きなお屋敷なのに、いくら人が住んでいるとはいえ内鍵を掛けないなんて。泥棒が侵入し放題ではないかと。現に凪沙はまるで自分の家のように慣れた様子で玄関に座り込みパタパタと足を動かしている。

「か、勝手に入っていいのかな…」
「許可なんていらないよ!だって凪沙と越後屋のおにーちゃんとの仲だもん」
「仲、いいんですね…?」
「ご先祖様が越後屋で働いてたんだって~。もう、親戚みたいなもんだよね。お兄と越後屋のおにーちゃんも仲良しだし。凪沙もね、もう一人のおにーちゃんだと思ってるよ!あ、そうだ。安心してね。くるりんおねーちゃん。凪沙、好きな男の子がいるの。同じクラスの男の子!越後屋のおにーちゃんはフリーだよ!たぶん、お付き合いしたこともないんじゃないかな?凪沙、越後屋のおにーちゃんが女の人と仲良くお話をしてる所なんて見たことーー」
「ーーナギ?誰か来てるのか」
「あっ!越後屋のおにーちゃん!」

人間は、驚くと悲鳴すら飲み込んでしまうらしい。腕を組んで現れた越碁は、なぜか和装だった。大学ではシンプルなパンツスタイルだった為、驚きでこれでもかと目を見開く。着慣れているからなのか、大学で見たときよりも見下されている感覚はない。とにかく、和装のインパクトが強すぎて、越碁がどんな顔をしているかすら窺うことを放棄していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...