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偏見アンサー
突撃お宅訪問
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「わ、私…了承したら、お風呂に沈められるのでしょうか…」
「ないない。顔が怖いだけで、越碁に反社会的な知り合いはいないからね!?案外、うまくやっていけると思うよ?あれでも越碁、凪沙とは普通に話ができるし面倒見はいいから」
ーーよかったら越碁の実家にも顔見せてやってよ。話し通しとく。
和菓子越後屋、と書かれたお店の名刺を受け取った久留里は開いた口を塞ぐことができなかった。鶴海が言うには、あの今にも人を殺しそうな越碁は心優しい青年であるらしい。しかし、本人から友達になってくれと言われたわけでもないのにどこまで真に受けていいものか。
ーー友達の友達は他人と言うし…。
鶴海の言葉を信じていないわけではないが、これ程うまい話などあるのだろうかと疑ってはいる。越碁の話がなく、鶴海が「友達になってほしい」と誘うだけなら、久留里は喜んで友達1号の誕生を喜んだだろう。しかし、鶴海はどちらかと言えば「越碁が外見通りの人間ではないので、もっと中身を見てほしいから友達になってほしい」と久留里にお願いしているのだ。
ーーもしも、鶴海さんが勝手にやっていることで。越碁さんにその気がないなら…。
確かめてみようと思った。一方の話だけ聞いていたら、真実にはけして辿り着かない。蜂谷さんが嘘を言っていると疑うわけではないけれどーーもし、越碁さんにその気がないとしたら。勝手に舞い上がって、初めて友達ができたと勘違いして傷つくのは久留里だ。
問題は、久留里が越碁の受けている授業が何かを知らないことだろうか。知っているのは毎週水曜の3限目に入れ違いで久留里が2限に利用している教室の講義を受けていることだけ。常に鶴海が一緒にいる為、越碁の本音を聞き出すことはできそうにない。「友達になって欲しいなんて思ってねェ」と越碁と鶴海が喧嘩を始めたら、またわんわん泣き出してしまう。迷惑なことこの上ない。
『越後屋のおにーちゃんが受けてる授業の時間割?』
『できれば鶴海さんと一緒に授業を受けてない日にお話がしたくて…』
『越後屋に突撃したらよくない?』
『でも、私…持ち合わせがあまりなくて…』
『お店に顔見せなくたって、母屋に突撃すればいいんだよ!凪沙、お兄にナイショで仲介してあげよっか?』
『蜂谷さんにご迷惑をお掛けするわけには…』
『くるりんおねーさん、土日のご予定は?』
『土日なら、午前中は空いてます』
『おっけー!越後屋のおにーちゃん、日曜の11時なら開いてるって!カフェの前に20分前集合ね!凪沙迎えに行くよー!』
最悪の場合は空き時間を使って虱潰しに越碁を探し回るかと考えた所で、凪沙と連絡先を交換していたことに気づく。鶴海の話では、越碁と仲がいいらしい。もしかしたらと思いを込めて連絡を取り合えば、絵文字が山盛りのメッセージと共に越碁へ約束を取り付けたと返信が返ってきた。
ーー時間割を教えてさえ貰えたら、それでよかったのに…。
話が大きくなっている。くだらない理由で対して仲良くもないのに家に来るなんてと怒られたらどうしよう。怯えながらも日々を過ごしていたからか、夜のバイトではオーダーミスをしたり、打ち間違えを起こしたりと散々だった。たくさん怒られて、お客さんに嫌味を言われ…。落ち込みながらも、罰が当たったのだと思い込むことでどうにか立ち上がる。今日は日曜。越碁の真意を確かめる日だ。戦う気力をすでに失っている久留里の姿を見た凪沙は「くるりんおねーちゃん寝不足?すっごい隈だよ!」と心配してくれるが、今まで心配してくれる人なんていなかった久留里は人の暖かなぬくもりに触れて泣いてしまいそうだった。涙を堪え、「大丈夫だよ」と笑顔を作る。全部久留里が悪いのだ。うまく立ち回れなかった。お客様に迷惑をかけた。久留里が…。
「越後屋のおにーちゃーん!凪沙が来たよー!」
とんでもなく大きな純和風の、平屋建て古民家。歴史がありそう。お金持ち、と言葉が浮かんでは消えていく。インターホンは備え付けられていないのか、ガンガンとドアを叩いて大声を出した凪沙は当然のように玄関の引き戸を引いた。
鍵は掛かっていないようで、久留里は到底信じられなかった。こんな大きなお屋敷なのに、いくら人が住んでいるとはいえ内鍵を掛けないなんて。泥棒が侵入し放題ではないかと。現に凪沙はまるで自分の家のように慣れた様子で玄関に座り込みパタパタと足を動かしている。
「か、勝手に入っていいのかな…」
「許可なんていらないよ!だって凪沙と越後屋のおにーちゃんとの仲だもん」
「仲、いいんですね…?」
「ご先祖様が越後屋で働いてたんだって~。もう、親戚みたいなもんだよね。お兄と越後屋のおにーちゃんも仲良しだし。凪沙もね、もう一人のおにーちゃんだと思ってるよ!あ、そうだ。安心してね。くるりんおねーちゃん。凪沙、好きな男の子がいるの。同じクラスの男の子!越後屋のおにーちゃんはフリーだよ!たぶん、お付き合いしたこともないんじゃないかな?凪沙、越後屋のおにーちゃんが女の人と仲良くお話をしてる所なんて見たことーー」
「ーーナギ?誰か来てるのか」
「あっ!越後屋のおにーちゃん!」
人間は、驚くと悲鳴すら飲み込んでしまうらしい。腕を組んで現れた越碁は、なぜか和装だった。大学ではシンプルなパンツスタイルだった為、驚きでこれでもかと目を見開く。着慣れているからなのか、大学で見たときよりも見下されている感覚はない。とにかく、和装のインパクトが強すぎて、越碁がどんな顔をしているかすら窺うことを放棄していた。
「ないない。顔が怖いだけで、越碁に反社会的な知り合いはいないからね!?案外、うまくやっていけると思うよ?あれでも越碁、凪沙とは普通に話ができるし面倒見はいいから」
ーーよかったら越碁の実家にも顔見せてやってよ。話し通しとく。
和菓子越後屋、と書かれたお店の名刺を受け取った久留里は開いた口を塞ぐことができなかった。鶴海が言うには、あの今にも人を殺しそうな越碁は心優しい青年であるらしい。しかし、本人から友達になってくれと言われたわけでもないのにどこまで真に受けていいものか。
ーー友達の友達は他人と言うし…。
鶴海の言葉を信じていないわけではないが、これ程うまい話などあるのだろうかと疑ってはいる。越碁の話がなく、鶴海が「友達になってほしい」と誘うだけなら、久留里は喜んで友達1号の誕生を喜んだだろう。しかし、鶴海はどちらかと言えば「越碁が外見通りの人間ではないので、もっと中身を見てほしいから友達になってほしい」と久留里にお願いしているのだ。
ーーもしも、鶴海さんが勝手にやっていることで。越碁さんにその気がないなら…。
確かめてみようと思った。一方の話だけ聞いていたら、真実にはけして辿り着かない。蜂谷さんが嘘を言っていると疑うわけではないけれどーーもし、越碁さんにその気がないとしたら。勝手に舞い上がって、初めて友達ができたと勘違いして傷つくのは久留里だ。
問題は、久留里が越碁の受けている授業が何かを知らないことだろうか。知っているのは毎週水曜の3限目に入れ違いで久留里が2限に利用している教室の講義を受けていることだけ。常に鶴海が一緒にいる為、越碁の本音を聞き出すことはできそうにない。「友達になって欲しいなんて思ってねェ」と越碁と鶴海が喧嘩を始めたら、またわんわん泣き出してしまう。迷惑なことこの上ない。
『越後屋のおにーちゃんが受けてる授業の時間割?』
『できれば鶴海さんと一緒に授業を受けてない日にお話がしたくて…』
『越後屋に突撃したらよくない?』
『でも、私…持ち合わせがあまりなくて…』
『お店に顔見せなくたって、母屋に突撃すればいいんだよ!凪沙、お兄にナイショで仲介してあげよっか?』
『蜂谷さんにご迷惑をお掛けするわけには…』
『くるりんおねーさん、土日のご予定は?』
『土日なら、午前中は空いてます』
『おっけー!越後屋のおにーちゃん、日曜の11時なら開いてるって!カフェの前に20分前集合ね!凪沙迎えに行くよー!』
最悪の場合は空き時間を使って虱潰しに越碁を探し回るかと考えた所で、凪沙と連絡先を交換していたことに気づく。鶴海の話では、越碁と仲がいいらしい。もしかしたらと思いを込めて連絡を取り合えば、絵文字が山盛りのメッセージと共に越碁へ約束を取り付けたと返信が返ってきた。
ーー時間割を教えてさえ貰えたら、それでよかったのに…。
話が大きくなっている。くだらない理由で対して仲良くもないのに家に来るなんてと怒られたらどうしよう。怯えながらも日々を過ごしていたからか、夜のバイトではオーダーミスをしたり、打ち間違えを起こしたりと散々だった。たくさん怒られて、お客さんに嫌味を言われ…。落ち込みながらも、罰が当たったのだと思い込むことでどうにか立ち上がる。今日は日曜。越碁の真意を確かめる日だ。戦う気力をすでに失っている久留里の姿を見た凪沙は「くるりんおねーちゃん寝不足?すっごい隈だよ!」と心配してくれるが、今まで心配してくれる人なんていなかった久留里は人の暖かなぬくもりに触れて泣いてしまいそうだった。涙を堪え、「大丈夫だよ」と笑顔を作る。全部久留里が悪いのだ。うまく立ち回れなかった。お客様に迷惑をかけた。久留里が…。
「越後屋のおにーちゃーん!凪沙が来たよー!」
とんでもなく大きな純和風の、平屋建て古民家。歴史がありそう。お金持ち、と言葉が浮かんでは消えていく。インターホンは備え付けられていないのか、ガンガンとドアを叩いて大声を出した凪沙は当然のように玄関の引き戸を引いた。
鍵は掛かっていないようで、久留里は到底信じられなかった。こんな大きなお屋敷なのに、いくら人が住んでいるとはいえ内鍵を掛けないなんて。泥棒が侵入し放題ではないかと。現に凪沙はまるで自分の家のように慣れた様子で玄関に座り込みパタパタと足を動かしている。
「か、勝手に入っていいのかな…」
「許可なんていらないよ!だって凪沙と越後屋のおにーちゃんとの仲だもん」
「仲、いいんですね…?」
「ご先祖様が越後屋で働いてたんだって~。もう、親戚みたいなもんだよね。お兄と越後屋のおにーちゃんも仲良しだし。凪沙もね、もう一人のおにーちゃんだと思ってるよ!あ、そうだ。安心してね。くるりんおねーちゃん。凪沙、好きな男の子がいるの。同じクラスの男の子!越後屋のおにーちゃんはフリーだよ!たぶん、お付き合いしたこともないんじゃないかな?凪沙、越後屋のおにーちゃんが女の人と仲良くお話をしてる所なんて見たことーー」
「ーーナギ?誰か来てるのか」
「あっ!越後屋のおにーちゃん!」
人間は、驚くと悲鳴すら飲み込んでしまうらしい。腕を組んで現れた越碁は、なぜか和装だった。大学ではシンプルなパンツスタイルだった為、驚きでこれでもかと目を見開く。着慣れているからなのか、大学で見たときよりも見下されている感覚はない。とにかく、和装のインパクトが強すぎて、越碁がどんな顔をしているかすら窺うことを放棄していた。
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