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偏見アンサー
小動物と見た目が怖い男
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「…」「…っ!」
忘れ物をした授業から1週間後。2限の授業を終えた久留里は今度こそ忘れ物をしないぞと入念にチェックをしてから教室を出ると、授業が終わるのを待っていたらしい男子生徒と目が合った。
「あ、あの子…。ほら、越碁!声かけて!」
「…」
「ああもう!越碁が掛けないなら俺が行く!」
ーーあ、あの人。先週見た…怖い人とフレンドリーな人だ…。
背が高く体付きもがっしりしているから、見下されると震え上がるほど怖い。友人なのか、人が良さそうな笑みを浮かべて久留里を指差す男性は、目つきの悪い男の隣に座っていた男子生徒だ。先週も隣に座っていた辺り、友人関係なのかもしれない。
ーーあんなに恐ろしい外見をしてる人なのに、お友達がいるんだ…。
偏見に塗れた久留里は男子生徒達に失礼なことを考えながら、ピシャッと身体を硬直させて小動物のようにちょこまかと足を動かしその場を後にしようとするが、「ちょっと待って!」と声を掛けられた。無視するわけにもいかず振り返れば、声を書けてきた人の顔は見知ったものでーー
「先週、忘れ物探してた子、だよね?よかった。また会えた。実は、忘れ物をーー越碁が預かってるんだ。あ、越碁は、あっちにいる図体がでかい奴ね」
「わ、わざわざ!保管してくださったのですか…?ありがとう…ございます」
「うん。それで、よかったら…忘れ物、渡そうと思って待ってたんだ。次の授業って混む所?もしよかったら一緒にお昼でもどう?奢るよ?」
「えっ!?いや、そんな。ご迷惑をお掛けしているのは私なので…!そういうのは…」
「ナンパしてんじゃねェよ」
「痛っ!蹴りつけることないじゃんか!」
「ほら」
「あ、ありがとう、ござい、ましゅ…っ!」
「うさぎちゃんみたいでかわいい~」
「ひゃっ!?」
「こう、口窄めてるのめっちゃかわいいよね。名前何ちゃん?どう?お兄さんと一杯ーー」
「ゲス野郎が…」
「だから痛いって!うさぎちゃんがビビッてんじゃん!」
地を這うようなドスの利いた低い声が男の口から紡がれる度にフレンドリーな男子生徒の頭にドカドカと踵落としが飛んでいる。恐ろしい音と共に繰り出される蹴りを見て思わず「ぴぎゃっ」とまるで自分が攻撃を受けたときのように両手で頭を抑えた。
うさぎちゃん、なんて。よくわからないニックネームで呼ばれるのは…いや、だなあ。
「わ、私。うさぎちゃん、なんて可愛い名前じゃありません。私は、氈鹿久留里、です」
「へー、うさぎちゃんじゃなくてシカちゃんか!それはおっきな違いだ。正したくもなるよね。俺は
蜂谷鶴海で、こっちのいかついのが羊森越碁。か弱い羊なんて見た目してないの気にしてるから、越碁って名前で呼んでやって。喜ぶよ」
「えっ?それは…」
久留里が戸惑っていると、越碁が鞄から久留里の忘れ物であるペンケースを取り出して久留里に差し出した。手が触れ合う距離で、見知らぬ男性と手渡しで物を受け取るのは、すごく緊張する。バイト中は「頑張ればお金を貰えるから」と自身を鼓舞して我慢しているが、金銭が発生しないのに頑張る理由が久留里にはないのだ。
「警戒心ねェな…」
「…へっ!?」
「信頼できねェ相手に名乗んな。殺られんぞ」
「やら…?」
「むふふなのと絞め殺されちゃう感じ、どっちかな~。越碁が言うとどっちもシャレにならないからさ~」
「…そうかよ。殺られてェのか」
「いたたた!暴力反対!ギブギブ!ロープロープ!」
本気で羽交い締めにして首を締め始めたから、本当に殺してしまうのではないかと怖くて仕方がなくて久留里はその場にへたり込んでしまった。
越碁と呼ばれている男性は、怖い。
本当に大学生なのだろうか?声や容姿だけなら30代から40代のように見えるし、威厳がある。ふざけて友達の首を締める男だ。久留里もいつか…。
「ちょ、ちょっとシカちゃん!?大丈夫!?こら、越碁!泣いちゃったじゃん!」
「俺が悪ィのか」
「越碁も悪いし俺も悪い!」
「…いちいちピーピー泣いてたらキリねェ。付け入る隙与えてどうすんだ」
「だ、だって…こ、こわい…」
「…やってらんねェ」
「ええ!?最後まで面倒見てあげなよ!シカちゃん泣かせたの越碁だよね!?」
越碁が尻もちをついた久留里を同じようにしゃがみ込み視線を合わせてまっすぐ見つけた結果、「こわい」と久留里がみっともなく泣きじゃくったからだろう。深いため息をついた越碁は立ち上がり、鶴海の反論にヒラヒラと手を振ると教室の中に入ってしまった。
「あー…ごめんね。悪いやつじゃないんだ。見た目がめちゃくちゃ怖いせいで、見た目判断されること多いから。越碁も…今のは大分…ダメージ受けてそうだな」
「ごめんなさい…っ!」
「シカちゃんのこと責めてるわけじゃなくてね?ほんとに時間、大丈夫?お昼食べる時間ないよね。越碁の事情も説明した上でお近づきになりたいんだけど…」
「え、ええと!だ、大丈夫です!ご、ごめんなさい…!」
また来週、正式に謝罪しよう。
ーー知らない人に、みっともない姿を見せてしまった。子どもみたいにピーピー泣いて。羊森さんが怒るのも当然だ。
越碁は久留里の落とし物を親切に保管し、久留里に渡してくれただけだ。見た目で怖がられ、泣かれて。悪者にされるなら、久留里が越碁の立場ならば二度と人助けをしようなんて思わないトラウマを植え付けてしまった。謝罪しても謝罪しきれないことをしてしかっているのだから。
ーーどうしよう…。
来週の授業で顔、合わせたとき。菓子折りを持参したとして、許してくれるだろうか。鶴海は「気にしなくていいのに」と笑い飛ばしそうだが、越碁の反応は想像できそうにない。
あの、射抜くような視線が。
何もかも見透かされているようで、怖くて怖くて仕方ないーー
忘れ物をした授業から1週間後。2限の授業を終えた久留里は今度こそ忘れ物をしないぞと入念にチェックをしてから教室を出ると、授業が終わるのを待っていたらしい男子生徒と目が合った。
「あ、あの子…。ほら、越碁!声かけて!」
「…」
「ああもう!越碁が掛けないなら俺が行く!」
ーーあ、あの人。先週見た…怖い人とフレンドリーな人だ…。
背が高く体付きもがっしりしているから、見下されると震え上がるほど怖い。友人なのか、人が良さそうな笑みを浮かべて久留里を指差す男性は、目つきの悪い男の隣に座っていた男子生徒だ。先週も隣に座っていた辺り、友人関係なのかもしれない。
ーーあんなに恐ろしい外見をしてる人なのに、お友達がいるんだ…。
偏見に塗れた久留里は男子生徒達に失礼なことを考えながら、ピシャッと身体を硬直させて小動物のようにちょこまかと足を動かしその場を後にしようとするが、「ちょっと待って!」と声を掛けられた。無視するわけにもいかず振り返れば、声を書けてきた人の顔は見知ったものでーー
「先週、忘れ物探してた子、だよね?よかった。また会えた。実は、忘れ物をーー越碁が預かってるんだ。あ、越碁は、あっちにいる図体がでかい奴ね」
「わ、わざわざ!保管してくださったのですか…?ありがとう…ございます」
「うん。それで、よかったら…忘れ物、渡そうと思って待ってたんだ。次の授業って混む所?もしよかったら一緒にお昼でもどう?奢るよ?」
「えっ!?いや、そんな。ご迷惑をお掛けしているのは私なので…!そういうのは…」
「ナンパしてんじゃねェよ」
「痛っ!蹴りつけることないじゃんか!」
「ほら」
「あ、ありがとう、ござい、ましゅ…っ!」
「うさぎちゃんみたいでかわいい~」
「ひゃっ!?」
「こう、口窄めてるのめっちゃかわいいよね。名前何ちゃん?どう?お兄さんと一杯ーー」
「ゲス野郎が…」
「だから痛いって!うさぎちゃんがビビッてんじゃん!」
地を這うようなドスの利いた低い声が男の口から紡がれる度にフレンドリーな男子生徒の頭にドカドカと踵落としが飛んでいる。恐ろしい音と共に繰り出される蹴りを見て思わず「ぴぎゃっ」とまるで自分が攻撃を受けたときのように両手で頭を抑えた。
うさぎちゃん、なんて。よくわからないニックネームで呼ばれるのは…いや、だなあ。
「わ、私。うさぎちゃん、なんて可愛い名前じゃありません。私は、氈鹿久留里、です」
「へー、うさぎちゃんじゃなくてシカちゃんか!それはおっきな違いだ。正したくもなるよね。俺は
蜂谷鶴海で、こっちのいかついのが羊森越碁。か弱い羊なんて見た目してないの気にしてるから、越碁って名前で呼んでやって。喜ぶよ」
「えっ?それは…」
久留里が戸惑っていると、越碁が鞄から久留里の忘れ物であるペンケースを取り出して久留里に差し出した。手が触れ合う距離で、見知らぬ男性と手渡しで物を受け取るのは、すごく緊張する。バイト中は「頑張ればお金を貰えるから」と自身を鼓舞して我慢しているが、金銭が発生しないのに頑張る理由が久留里にはないのだ。
「警戒心ねェな…」
「…へっ!?」
「信頼できねェ相手に名乗んな。殺られんぞ」
「やら…?」
「むふふなのと絞め殺されちゃう感じ、どっちかな~。越碁が言うとどっちもシャレにならないからさ~」
「…そうかよ。殺られてェのか」
「いたたた!暴力反対!ギブギブ!ロープロープ!」
本気で羽交い締めにして首を締め始めたから、本当に殺してしまうのではないかと怖くて仕方がなくて久留里はその場にへたり込んでしまった。
越碁と呼ばれている男性は、怖い。
本当に大学生なのだろうか?声や容姿だけなら30代から40代のように見えるし、威厳がある。ふざけて友達の首を締める男だ。久留里もいつか…。
「ちょ、ちょっとシカちゃん!?大丈夫!?こら、越碁!泣いちゃったじゃん!」
「俺が悪ィのか」
「越碁も悪いし俺も悪い!」
「…いちいちピーピー泣いてたらキリねェ。付け入る隙与えてどうすんだ」
「だ、だって…こ、こわい…」
「…やってらんねェ」
「ええ!?最後まで面倒見てあげなよ!シカちゃん泣かせたの越碁だよね!?」
越碁が尻もちをついた久留里を同じようにしゃがみ込み視線を合わせてまっすぐ見つけた結果、「こわい」と久留里がみっともなく泣きじゃくったからだろう。深いため息をついた越碁は立ち上がり、鶴海の反論にヒラヒラと手を振ると教室の中に入ってしまった。
「あー…ごめんね。悪いやつじゃないんだ。見た目がめちゃくちゃ怖いせいで、見た目判断されること多いから。越碁も…今のは大分…ダメージ受けてそうだな」
「ごめんなさい…っ!」
「シカちゃんのこと責めてるわけじゃなくてね?ほんとに時間、大丈夫?お昼食べる時間ないよね。越碁の事情も説明した上でお近づきになりたいんだけど…」
「え、ええと!だ、大丈夫です!ご、ごめんなさい…!」
また来週、正式に謝罪しよう。
ーー知らない人に、みっともない姿を見せてしまった。子どもみたいにピーピー泣いて。羊森さんが怒るのも当然だ。
越碁は久留里の落とし物を親切に保管し、久留里に渡してくれただけだ。見た目で怖がられ、泣かれて。悪者にされるなら、久留里が越碁の立場ならば二度と人助けをしようなんて思わないトラウマを植え付けてしまった。謝罪しても謝罪しきれないことをしてしかっているのだから。
ーーどうしよう…。
来週の授業で顔、合わせたとき。菓子折りを持参したとして、許してくれるだろうか。鶴海は「気にしなくていいのに」と笑い飛ばしそうだが、越碁の反応は想像できそうにない。
あの、射抜くような視線が。
何もかも見透かされているようで、怖くて怖くて仕方ないーー
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