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約3か月後 まどか視点
明日拓真くんに、伝えたいこと!
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真っ暗闇の中で、一匹の黒猫が光に照らされてる。
『よかった。君達なら、運命を乗り越えられると信じていたよ』
君達って、誰のことを言っているの?
『拓真がぼくに、願ってくれたおかげだ』
拓真くん?
わたしが過去に戻って来る直前にも、あなたの声を聞いた気がする。
『まどかだけじゃない。遠野圭吾と豊洲恵麻。加賀海斗と小高あざか――みんな、未来に向かって歩き出した』
どうしてみんなの名前を、知っているの?
『ぼくはまどかと拓真が結ばれるまで、そばでずっと見守っている』
わたしと拓真くんが、恋人になるまでなんて……。
すごく長いよ? いいの?
『命の危機が訪れた時は、ぼくの名前を呼んでほしい』
またわたし達、命の危機が訪れるの!?
そんなの嫌だよ……!
『ぼくは何度だって、君たちの力になるから』
何度だって?
じゃあ、わたしを過去に戻してくれたのは……。
『それじゃあ、また話そう』
ちょっと待って!
あなたの名前は?
『ぼくの名前は――』
*
「にゃあん」
――なんだかまた、変な夢を見ていた気がする……。
わたしの顔面にはノワールがへばりついていて、何寝ぼけてるんだって顔してる。
もふもふとした毛並みは、とっても気持ちがいいけど……。
うぅ、すごく重いよ……!
「の、ノワール……」
「にゃーん?」
「離れて……ほしいかな……?」
「にゃあ!」
「わっ!? 違うって! 舐めてほしいわけじゃないの……!」
ノワールは何を思ったのか、わたしの頬をペロペロと舐めつけて来たんだ。
もう、やだって言ってるのに……!
黒猫に手を焼いているわたしを、みんなが遠くからあきれたように見守っている声が聞こえてきたんだ。
「あの子は一体、何をやってるのよ?」
「飼い猫と戯れてんじゃね?」
「えー。いーなぁ。私もノワールと遊びたーい!」
「恵麻。野菜も食べろ」
「俺、止めてくる」
――今日は八月三十一日。
夏休み最終日!
みんなで、バーベキューをしているの!
こんな時でも真面目な委員長は、みんなが均等にお肉へありつけるように、トングを片手に目を光らせながら鉄板の目に陣取ってる。
その姿は正しく、職人技!
恵麻ちゃんは委員長の焼いたお肉を取皿へ山盛りにしながら、満面の笑みを浮かべておいしい料理に舌鼓を打っていた。
あの二人は結局、喧嘩することもなく。
収まるところに収まったみたい。よかったぁ。
過去へ戻る前みたいに、大喧嘩したらどうしようかと思ったよ。
あ、それとね?
あざかちゃんと海斗くんも、想いを通じ合わせたんだって!
「ほら。あざか。あーん」
「い、いいわよ! そんなの! 一人で食べるから……!」
「ふーん?」
「う……っ」
「素直になればいいのに」
「う、うるさい……!」
あざかちゃんは相変わらずツンツンしてる時の方が多いけど、海斗くんと二人きりの時は、デレデレしてることが多いんだってさ。
あとはわたしと拓真くんだけ、なんだけど……。
「こら。ノワール。いつまでまどかの上に、乗ってるんだ」
「なぁん……」
「おいで」
「にゃあ!」
拓真くんに呼ばれたノワールは、元気な鳴き声を上げて彼の胸元へ飛び込んで行った。
ほんとに、拓真くんのことが大好きなんだから……。
修学旅行が中止になってから、もうすぐ三か月が経とうとしてる。
その間わたしと拓真くんは、友達以上恋人未満な関係として、暇さえあればたくさんお話をしたんだよ。
お母さんが亡くなっていること。
本当は獣医さんになりたくないけど、病院を継がないと行けないから、絶対にならなきゃってプレッシャーを抱えていること。
わたしのことが大好きで、ずっと一緒に居たいって思ってくれてること。
一年生の時から、見守っていてくれたこと、とか。
たくさんお話したら、拓真くんと一緒にいるのが、当たり前になっちゃった。
告白は保留にしていたけど……。
高校生になる前までに、ちゃんと伝えないと後悔するなぁって思ったの。
だからね?
わたしは思い切って、拓真くんを呼び止めることにしたんだ。
「拓真くん! あのね!」
わたしが大きな声で、呼んだからかな?
拓真くんは目を丸くして、こっちを見てる。
でもね? ここでひるんだら、声をかけた意味がないから!
わたしは勇気を出して。拓真くんへ伝えたの。
「明日、伝えたいことがあるの!」
「今じゃ、駄目なのか?」
「えへへ。明日までの、お楽しみ!」
今すぐ伝えてもいいけどね?
今日のバーベキューは、修学旅行の代わりだから……。
やっぱり、言い伝えにはあやかりたいよね?
拓真くんは、覚えてないけど……。
明日伝えたいことがあるって約束して、わたし達は命を落としてる。
だからその嫌な出来事を、今度は。
いい思い出に、塗り替えたいんだ。
――拓真くん。大好きだよ。
この想い。
ちゃんと、伝えられるといいな。
「なぁん」
松本くんの胸に収まってたノワールも、心配ないよって甘えた声で鳴いてる。
きっと、大丈夫だよね?
「まどかー! 全部食べちゃうわよー!」
「はーい!」
あざかちゃんに呼ばれたわたしは、
拓真くんの腕を取って走り出す。
「拓真くん! 行こう!」
「ああ」
――わたし達の未来が、なんの憂いもなく。
希望に満ち溢れていることを、信じて――。
『よかった。君達なら、運命を乗り越えられると信じていたよ』
君達って、誰のことを言っているの?
『拓真がぼくに、願ってくれたおかげだ』
拓真くん?
わたしが過去に戻って来る直前にも、あなたの声を聞いた気がする。
『まどかだけじゃない。遠野圭吾と豊洲恵麻。加賀海斗と小高あざか――みんな、未来に向かって歩き出した』
どうしてみんなの名前を、知っているの?
『ぼくはまどかと拓真が結ばれるまで、そばでずっと見守っている』
わたしと拓真くんが、恋人になるまでなんて……。
すごく長いよ? いいの?
『命の危機が訪れた時は、ぼくの名前を呼んでほしい』
またわたし達、命の危機が訪れるの!?
そんなの嫌だよ……!
『ぼくは何度だって、君たちの力になるから』
何度だって?
じゃあ、わたしを過去に戻してくれたのは……。
『それじゃあ、また話そう』
ちょっと待って!
あなたの名前は?
『ぼくの名前は――』
*
「にゃあん」
――なんだかまた、変な夢を見ていた気がする……。
わたしの顔面にはノワールがへばりついていて、何寝ぼけてるんだって顔してる。
もふもふとした毛並みは、とっても気持ちがいいけど……。
うぅ、すごく重いよ……!
「の、ノワール……」
「にゃーん?」
「離れて……ほしいかな……?」
「にゃあ!」
「わっ!? 違うって! 舐めてほしいわけじゃないの……!」
ノワールは何を思ったのか、わたしの頬をペロペロと舐めつけて来たんだ。
もう、やだって言ってるのに……!
黒猫に手を焼いているわたしを、みんなが遠くからあきれたように見守っている声が聞こえてきたんだ。
「あの子は一体、何をやってるのよ?」
「飼い猫と戯れてんじゃね?」
「えー。いーなぁ。私もノワールと遊びたーい!」
「恵麻。野菜も食べろ」
「俺、止めてくる」
――今日は八月三十一日。
夏休み最終日!
みんなで、バーベキューをしているの!
こんな時でも真面目な委員長は、みんなが均等にお肉へありつけるように、トングを片手に目を光らせながら鉄板の目に陣取ってる。
その姿は正しく、職人技!
恵麻ちゃんは委員長の焼いたお肉を取皿へ山盛りにしながら、満面の笑みを浮かべておいしい料理に舌鼓を打っていた。
あの二人は結局、喧嘩することもなく。
収まるところに収まったみたい。よかったぁ。
過去へ戻る前みたいに、大喧嘩したらどうしようかと思ったよ。
あ、それとね?
あざかちゃんと海斗くんも、想いを通じ合わせたんだって!
「ほら。あざか。あーん」
「い、いいわよ! そんなの! 一人で食べるから……!」
「ふーん?」
「う……っ」
「素直になればいいのに」
「う、うるさい……!」
あざかちゃんは相変わらずツンツンしてる時の方が多いけど、海斗くんと二人きりの時は、デレデレしてることが多いんだってさ。
あとはわたしと拓真くんだけ、なんだけど……。
「こら。ノワール。いつまでまどかの上に、乗ってるんだ」
「なぁん……」
「おいで」
「にゃあ!」
拓真くんに呼ばれたノワールは、元気な鳴き声を上げて彼の胸元へ飛び込んで行った。
ほんとに、拓真くんのことが大好きなんだから……。
修学旅行が中止になってから、もうすぐ三か月が経とうとしてる。
その間わたしと拓真くんは、友達以上恋人未満な関係として、暇さえあればたくさんお話をしたんだよ。
お母さんが亡くなっていること。
本当は獣医さんになりたくないけど、病院を継がないと行けないから、絶対にならなきゃってプレッシャーを抱えていること。
わたしのことが大好きで、ずっと一緒に居たいって思ってくれてること。
一年生の時から、見守っていてくれたこと、とか。
たくさんお話したら、拓真くんと一緒にいるのが、当たり前になっちゃった。
告白は保留にしていたけど……。
高校生になる前までに、ちゃんと伝えないと後悔するなぁって思ったの。
だからね?
わたしは思い切って、拓真くんを呼び止めることにしたんだ。
「拓真くん! あのね!」
わたしが大きな声で、呼んだからかな?
拓真くんは目を丸くして、こっちを見てる。
でもね? ここでひるんだら、声をかけた意味がないから!
わたしは勇気を出して。拓真くんへ伝えたの。
「明日、伝えたいことがあるの!」
「今じゃ、駄目なのか?」
「えへへ。明日までの、お楽しみ!」
今すぐ伝えてもいいけどね?
今日のバーベキューは、修学旅行の代わりだから……。
やっぱり、言い伝えにはあやかりたいよね?
拓真くんは、覚えてないけど……。
明日伝えたいことがあるって約束して、わたし達は命を落としてる。
だからその嫌な出来事を、今度は。
いい思い出に、塗り替えたいんだ。
――拓真くん。大好きだよ。
この想い。
ちゃんと、伝えられるといいな。
「なぁん」
松本くんの胸に収まってたノワールも、心配ないよって甘えた声で鳴いてる。
きっと、大丈夫だよね?
「まどかー! 全部食べちゃうわよー!」
「はーい!」
あざかちゃんに呼ばれたわたしは、
拓真くんの腕を取って走り出す。
「拓真くん! 行こう!」
「ああ」
――わたし達の未来が、なんの憂いもなく。
希望に満ち溢れていることを、信じて――。
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