56 / 58
<2回目>6月6日 委員長視点
君に伝えたかった言葉
しおりを挟む「もー。委員長パパと私のパパに何かあったら、どうしようかと思ったんだけど!」
僕達が乗ったバスが暴走した際、肝が冷えた。
霧風の最終目標は中学生達が事故に遭うことなく命をつなぐことであり、大人たちに生死に関しては二の次だ。
そもそも彼女達は大人を頼ろうとしていなかったので、当然ではあるのだが……。
「全員無事でよかった」
「ほんとだよ! ありがとね、委員長!」
「僕は何もしていない」
「えー? うそだぁ。大活躍だったじゃん!」
恵麻は満面の笑みを浮かべて、僕を褒め称えた。
それはとても喜ばしいことではあるのだが……。
このあとのことを考えると、素直に喜べない部分が大きかった。
なぜならば……。
このあと僕は、恵麻に長年の想いをぶつけるつもりであったからだ。
――柄にもなく、緊張している。
おそらく僕の告白は、受け入れられることなく玉砕するだろう。
最悪の場合嫌われて、恵麻と言葉を交わす最後の日になるかもしれない。
悔いが残らないようにしなければと思うのだが、何を話せばいいのかすらよくわからないほどに。
僕は緊張しすぎて、口から魂が飛び出てしまいそうだった。
「委員長? なんか、具合悪い?」
「いや……」
「顔、真っ青だよ? 休憩しよっか」
「通常運転だ」
「絶対うそでしょ! 昨日の話も、そろそろ聞かせてほしいしさ?」
――来たか。
その話題を切り出されないようにと逃げ続けていた僕は、死刑宣告を受けたような気分になった。
握りしめた拳が緊張で震え、いよいよ立っていられなくなる。
「ちょっと!? 委員長!? 大丈夫!?」
――情けないところなど、見せるつもりはなかったのだが……。
僕はその場にしゃがみ込み、下を向く。
背中を擦る恵麻と顔を上げて視線を合わせた時が、長年の想いをぶつける瞬間だ。
そして、この世の終わりでもある。
こんな状態で想いを伝えられたところで、いい返事など返ってくるはずがないとわかっているのに。
昨日予告をしてしまった手前、なんでもないと誤魔化すわけには行かなかったのだ。
だから。僕は……。
「ねぇ。委員長。あのさ……?」
「――好きだ」
顔を上げ、恵麻の瞳を見つめ伝えた。
そう。伝えてしまったのだ。
「今、なんて……?」
彼女の瞳がみるみるうちに、見開かれる。
やはり、駄目だったか。
落ち込むことではないとわかっていても、頭が追いつかない。
「わかっている。僕はそう言う対象として、見られていなかったことくらい」
「委員長?」
「あれだけ君のやることなすことに、苦言を呈してきたんだ。嫌われていてもおかしくはない……」
「ちょっと待ってよ」
「忘れてくれ。冗談だ」
「取り消さないでよ!」
僕が先程の告白を、なかったことにしようとした時だった。
恵麻は大声で叫んだかと思えば、立ち上がった僕の胸に飛び込んでくる。
「恵麻。声のトーンを……」
「仕方ないじゃん!」
ここをどこだと思っているのだろう。
住宅街の、ど真ん中だ。
近所迷惑にも程がある。
思わず眉をひそめて苦言を呈すれば、恵麻は大声で反論してきた。
「委員長が私のこと、好きなんて言うから!」
「忘れてくれと、言ったはずだ」
「なんでよ!?」
「迷惑だろう」
「私は嬉しかったのに!?」
「嬉しい……だと……。なぜだ。君は僕のことなど……」
「好きだよ!」
「な……」
呼吸が止まるかと思った。
きっとこれは、何かの間違いだ。
自分の都合がいいように、解釈してしまった。
僕はなんて不誠実な男なんだろう。
そう自己嫌悪に陥る僕を引っ張り上げてくれたのは、恵麻だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
佐藤さんの四重奏
makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
【完結】てのひらは君のため
星名柚花
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。
彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。
無口、無表情、無愛想。
三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。
てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。
話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。
交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。
でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?
ご当地アイドルなんか、余裕だし!
りりぃこ
児童書・童話
有名プロデューサーによるアイドルオーディションを楽しみにしていた小学六年生の牧村コノハ。しかし田舎への引っ越しにより、そのオーディションは断念するしか無かった。
しかし、引っ越し先で、ボーイッシュな同級生の爽香から、ご当地アイドルのオーディションに誘われる。
爽香と、上がり症の中学生・小波と共にオーディションに合格したコノハは、ご当地アイドルとして、当初の予定とは少し違う、地元密着型のご当地アイドルとしての道を進んでいくことになる。
表紙 イラストACより
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
おばあちゃんのおかず。
kitahara
児童書・童話
懐かしい…
懐かしいけれど、作れない…。
懐かしいから食べたい…。
おばあちゃんの思い出は…どこか懐かしくあたたかいな…。
家族のひとくくり。
想いを。
幽霊鬼ごっこ
西羽咲 花月
児童書・童話
このキズナ小学校には「幽霊鬼ごっこ」の噂がある
放課後になると学校のどこかで幽霊との鬼ごっこが始まって
それは他者には見えないらしい
そんな噂がまさか本当だったなんて!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる