明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月6日 まどか視点

告白

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「捨てられるんじゃないかって、不安がってるみたいだけど」
「ええ!? そんなことしないよ! わたしはノワールの為を思って……!」
「なぁん」
「言葉が通じなくても、こいつは霧風が好きだよ。俺が保証する」
「松本くん……」

 松本くんはどうして、ノワールの言葉がわかるんだろう?

 わたしは首を傾げながらも、あんまり乗り気じゃない彼に黒猫を預けるのは違う気がして。
 もう無理に、松本くんの家の子になれば、なんて言わないようにしようって決めたんだ……。

「――あのね。バス事故が起きる前の松本くんと、約束したことがあるの」
「俺と、約束?」
「うん。修学旅行の夜に、二人で抜け出そうって言われたんだ」
「霧風と……」
「うん。言いたいことがあるんだって」

 その代わりと言っては、難だけど。
 わたしは松本くんに、過去へ戻ってくる前言われたことに、心当たりはないかって聞いたんだ。

「ねぇ、松本くん。心当たり、ある?」

 バスが事故に遭う前……。
 松本くんは私に、何を伝えたかったのかな……?

 今の松本くんは、あの時の松本くんじゃない。

 経験してきたことだって違うから、本人でもわからないこともあると思うんだ。

「さぁ……。過去の俺が何を考えてたかなんて、知らないけど」

 最初から、駄目元だったの。
 だからね?
 当然としか思えない言葉が返ってきた時。
 落胆よりも、安堵の気持ちが大きかったんだ。

 ――あの日にはもう、戻れない。

 わたし達は、未来に向かって歩いていく。
 聞けなかった言葉は、二度と……。

 わたしが知ることはできないんだろうなって、諦めにも似た感情が、頭の中を駆け巡ったの。

「取られたくないと思ってる」
「え……?」
「他の奴に。かっこいいところ、見せるチャンスだったのにさ。全部、委員長に持ってかれて……。全然駄目だった」
「そんなこと……!」
「お世辞なんかいらない。霧風は、俺のことなんて、クラスメイトとしか思ってないだろうけどさ」
「松本くん……?」

 だけど……。
 松本くんは遠くを見つめながら。
 ノワールの毛並みを撫で、覚悟を決めたような真剣な眼差しで伝えてきたんだ。

「俺は好きだよ。明るく元気で、キラキラ輝いてる。自分のことよりも他人を優先する、霧風のことが」

 ――松本くんが、わたしのことを好き。

 その告白を受けたわたしは、どうしようって思ったの。

 松本くんは、とってもいい人だよ。
 でも、ずっと一緒にいたいとかは、思ったことはないような気がして……。
 恋人になりたいって、強く思うことはできないから……。

 まずは気持ちを伝えてくれたお礼を、言おうって決めたんだ。

「ありがとう。松本くんの気持ちは、とっても嬉しい」
「……振られるくらいなら、返事は必要ない」
「ええと。わたし、好きとかあんまり、わかんなくて……」
「そうだろうと思った」
「でもね? 松本くんのこと、もっと知りたいの!」
「俺を……?」
「うん。だからね? すぐにはお付き合いとかは、無理だと思うけど……。わたし達のペースで、ゆっくりと。互いを知れたらいいと思ってるの。それじゃ駄目かな?」
「駄目じゃない」

 松本くんも最初から、わたしとお付き合いするのは無理だって諦めていたみたい。
 でもね? わたしの提案には、とっても乗り気だった。
 よかった! せっかく仲良くなったんだもん。
 このまま絶好なんて、そんなのやだよ!

 これからも。
 お友達として、一緒にいられそう!

「これからも、よろしくね! 拓真くん!」

 名字呼びから名前に変えたら、拓真くんは顔を何度もうなずいて同意してくれたの。
 ギクシャクしなくて、本当によかった……!
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