明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月6日 まどか視点

猫の恩返し?

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「拓真! 持ってきな!」
「サンキュ」

 わたしは遠慮しようとしたんだけど。
 海斗くんはもしものためにって、松本くんにスマホを貸してくれたの。
 さすが親友!
 大事なものを預けてくれるなんて、すごく信頼してるんだね!
 わたしは自分のことみたいに嬉しくなって、ニコニコしちゃったんだ。

「行こう」
「う、うんっ!」
「にゃあ」

 こっちに来た松本くんは、わたしの手を引いて近くの空き教室に案内してくれる。

 腕の中に抱かれてるノワールは、松本くんが近くにいるからかな?

 とっても喜んでるみたい。
 尻尾が左右に揺れて、耳がピョコピョコ上下に動いてる。

「あのさ。霧風に、ずっと聞きたいことがあったんだ」
「なぁん?」
「――夢で見たって、うそだよな」

 わたしが問いかけるより先に、不思議そうな鳴き声をノワールが上げた直後のことだったんだ。

 松本くんはわたしの秘密を、暴こうとしてきたの。

「どうして、うそだと思うの……?」
「霧風は三日前、俺に聞いたよな。バスが事故に遭ったこと、覚えてるかって」
「それは……」
「夢で見たなら、そんなこと聞かない。霧風は……体験してきたんじゃないのか」
「……例えば……?」
「……時間が戻った、とかさ」

 松本くんは、確信があるみたい。

 ――今なら素直に打ち明けても、信じてもらえるかな?

「ねぇ、ノワール。どう思う?」
「なぁん」

 わたしはノワールに、聞いてみたの。
 相変わらず、黒猫の言葉はわからなかったけど……。
 松本くんはなんとなく、理解してるみたい。

「霧風の好きにすればいいって、言ってるけど」
「……そっか。あのね、松本くん。わたし、ずっと黙ってたことがあって……」
「ああ」

 この先の言葉を告げたら、そんな人だと思わなかったとか、幻滅されちゃうかもしれない。

 でも……。

 ここでごまかすのは、違うと思うから。
 逃げないで、立ち向かおう。

「――松本くんの、言う通りだよ。わたし、過去に戻ってきたの」
「そっか」
「うん。一回死んじゃった、はずなのに……。松本くんが、普通に登校してたのを見て……」
「ああ」
「わたし、すっごく驚いたんだよ! でも、同時にホッとした。あの時のことを覚えていれば、みんなを助けられるって……」

 松本くんはわたしの告白を、邪魔することなく淡々と相槌を打って聞いてくれてる。
 それが何よりも、ありがたくて。
 わたしは安心して、続きを話せたんだ。

「あのね。ほんとはノワールと、中庭で出会ったんだよ。この子は怪我をしてて……。松本くんのお父さんが、治療してくれたの」
「父さんが?」
「うん。松本くんのお家で一時保護されてた、野良猫だったはずなのに……。いつの間にかうちの子になってて、ノワールって呼ばれてる。不思議なこともあるんだね」
「そっか」
「なぁん」

 ノワールの鳴き声を聞いた松本くんは、心当たる節があったみたい。
 はっと顔を上げてわたしに聞いてきたのは、意外なことで……。

「猫の恩返しって、信じる?」
「それって……」
「その可能性もあるってこと」
「ノワール……!」

 私は松本くんから、過去の事故を覚えていたのはノワールのおかげかもって教えてもらえたの。

 それが嬉しくて、もふもふとした毛並みに顔を埋めたんだ。
 わたしの飼い猫はそれが嫌だったみたいで、バタバタ両手足を動かして松本くんの方へ逃げて行っちゃった。

「ノワールはほんとに、松本くんが好きだね」
「にゃぁん」
「うちの子よりも、松本くんちの子になる?」
「なーん?」
「……こいつは、今のままでもいいってさ」
「そうなの? わたしはてっきり……」
「にゃー」

 ノワールが、ちょっぴり怒ってるような声音で鳴く。
 それは間違っていなかったみたいで、すぐに松本くんの解説が飛んできた。
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