明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月6日 まどか視点

修学旅行、中止のお知らせ

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「整備不良のバスに乗って、このまま子ども達が修学旅行に向かったっていたらと思うと……恐ろしくて堪らない」
「ああ。本当だ。先生! 修学旅行は、中止にしてください。いいですね?」
「私の一存では……」
「3号車しか使えない状態で、どうやって修学旅行をする気なんですか?」
「別のバスを……」
「この会社のバスを使うのは、やめてください。すべて整備不良の危険性がある」
「……確認してきます」

 恵麻ちゃんと委員長のパパが、先生に詰め寄ってるけど……。

 自分が判断することじゃないって、先生は校長先生に判断を仰ぎに行っちゃった。

 これからわたし達、どうなるんだろう?

「まどかー!」

 わたしが少しだけ不安に思っているところへ、あざかちゃんがクラスのみんなと一緒に戻ってきたんだ!

 全部終わったら、呼びに行くつもりだったのに!
 どうやってわかったんだろ?

「あざかちゃん!」
「海斗。どうして……」
「委員長がさ、連絡くれたんだよ」
「あっ! そっか! メール……!」

 委員長と海斗くんは昨日、音声データのやり取りをするために、メールアドレスを交換してた。

 その連絡先を使って、みんなを呼び寄せたんだね!

「みんな生きてるわ!」
「うん……! 本当によかったよ……!」

 わたしはあざかちゃんと抱き合って、作戦の成功を喜び合ったの。
 瞳からはいつの間にか、涙が溢れ出て来てる。

「なぁん」
「ノワール!」
「にゃあ」
「うわーん! ノワールも、ちゃんと生きてるよ……!」

 嬉しそうに尻尾を揺らすノワールを抱き上げると、人目を憚ることなくわんわん泣いたの。

 黒猫はわたしの頬から伝い落ちる涙を、小さな舌でペロリと拭い取ってくれた。

「……霧風……」
「ひっく……っ。松本くん……!」
「にゃあん~」

 ノワールが甘えた鳴き声を上げると同時に、わたしは泣き止もうと必死に目を擦りながら、松本くんと向かい合ったんだ。

「みんなも……! 本当に、ありがとう……!」
「……俺は何もしてないよ」
「なぁん?」

 わたしは左右に首を振って、そんなことないよって伝えたんだけど……。
 松本くんは、そう思えなかったみたい。

 せっかく命が助かったのに、暗い表情で唇をかみ締めてるのが印象的だった。

「にゃあ~」
「……ごめんな」
「なぁーん?」

 ノワールはなんで松本くんが謝ってるのか、理解できないみたい。
 耳を撫でつけられながら不思議そうな鳴き声を上げたの。

「松本くん……」
『えー。きらめき中学校の三年生にお知らせします。今日の修学旅行は、中止となりました』

 わたしが松本くんに、詳しい話を聞こうとした時だった。
 校内放送で校長先生から正式に、修学旅行の中止が伝えられたんだ。

 そこからはもう、お祭り騒ぎ。

 他のクラスの子達は怒ったり、泣いたり。
 わたし達は命が助かったことを喜んで、先生達はこれからについて緊急会議をすることが決まったみたい。

 わたし達はいつまでも、校門の前で立ってるわけにはいかないから……。
 教室へ行くことになったんだけど……。

「霧風。猫を連れて、教室に入ってくるな」

 委員長に、止められちゃった。
 猫は勉強に必要ないから、教室に入る資格はないって言われちゃったの。

 バス事故に遭った時、具合が悪くなる子はいなかったけど……。
 猫アレルギーの子がいるかもしれないもんね。
 ノワールと一緒にいる限り、わたしは教室へ入らない方がいいかも。

「じゃあ、わたし。廊下に居ようかな……?」
「一人だけ廊下で過ごすなんて、絶対に駄目よ!」
「でも……ノワールを放し飼いにはしておけないし……」
「……俺が一緒にいるよ」
「松本くん?」

 あざかちゃんに反対されたわたしは、ノワールを抱きしめてどうしようか迷ってたんだけど……。
 松本くんが気を利かせて、声をかけてくれたんだ。
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