明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月5日 委員長視点

明日君に、伝えたいこと

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「明日君に、伝えたいことがある」
「えー? なんで明日? 今でいいじゃん」

 この状態で告白など、冗談ではない。

 明日いいところをもっと見せてから、気持ちを伝えるのが理想だ。
 だが恵麻は、今すぐ言えとゴネてくる。

「ねー! 委員長! 何を伝えるつもりなわけー?」
「明日までは言わない」
「ええー? なんでよー!」
「物事には、タイミングがある」
「そんなのないし!」
「あるんだ」
「ないってば!」
「明日まで待て」
「やだー!」

 言い争っている間に、恵麻の自宅が見えてきた。
 僕と彼女の家は、ご近所さんと呼ぶに相応しい距離感だ。
 加賀や小高のようにお隣さんとまではいかないが、大きい自治会の端から端と言うべきか。
 歩いてなら、十分とかからなかった。

「もー! なんで、意地悪するわけ!?」
「明日のこの時間まで、待っていればいいだけだ。なぜそれができない」
「……だってさ。もったいぶるってことは、私達にとっては結構重要なことでしょ?」
「さぁな」

 僕にとっては重要なことだが、恵麻にとってはどうかまではわからない。
 彼女はモテるからな。
 告白だって、経験済みだ。
 一度も交際しているところは、見たことなどないが……。

 恵麻にとって異性から想いを告げられることなど、日常茶飯事なのだ。
 だから明日僕が告白したところで、冗談だと笑い飛ばされて終わるような気がしている。

 だから、今すぐには言いたくない。
 断られたら、どんな顔をして明日登校すればいいか、わからなくなってしまうからだ。

「――わかった。じゃあ、私もパパに協力を依頼してみる!」
「……なんの話だ」

 この状況で、なぜ父親の話が出てくるのだろう。
 さっぱり理解できずに問いかければ、恵麻はあっけらかんと言い放つ。

「私のパパ、警察官なんだー! だからね? 悪いことしてたら、逮捕しちゃうぞっ!」

 恵麻は謎のポーズを決めると、ぱちんとウインクをした。
 そんな姿も大変かわいらしい……が、警察官には管轄と言うものがある。
 頼りになるかは、なんとも言えないところがあった。

「今どう言う状況なのか、ご両親に説明できるのか」
「え? バスの運転手が居眠りするくらい、めちゃくちゃ働かされてんでしょ? 簡単じゃん!」

 その雑な説明で、恵麻のご両親に理解してもらえるかは疑問が残る。
 明日の朝、僕から話をするか……。
 いや、駄目だな。間に合わない。
 協力を依頼するなら、今日中であるべきだ。

「恵麻。連絡先を、交換しよう」
「いいの!?」

 僕の提案に、恵麻がキラキラと瞳を輝かせながらスマホを取り出した。
 ここまで喜ぶとは思わず、口元が緩みそうになってしまう。

 僕の売りは、真面目な委員長だ。
 ここで恵麻の笑みに引っ張られようものなら、その仮面がはがれ落ちる。

 それだけは駄目だとぐっと眉間にしわを寄せて耐えたら、連絡先の交換を嫌々行っている人のような反応になってしまった……。

 僕は反省しながらも、恵麻の名前が記載された連絡帳を見て、心の中で微笑んだ。

「ご両親の手が空いたら、連絡してくるように」
「パパにお話してくれんの?」
「その方が確実だろう」
「さすが委員長! 頼りになる~!」
「当然だ」

 僕は恵麻のためなら、なんでもしてやれる。
 彼女のためでなければ、ここまで手を貸してなどいなかった。

 ――素直な気持ちを伝えたら。
 恵麻はもう二度と、僕のことを凄いと褒めることなどなくなるのだろうな。

 そう、考えながら。

「じゃーね! 委員長! またあとで!」
「ああ」

 僕は恵麻と別れ、帰路についた。
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