明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

文字の大きさ
上 下
38 / 58
<2回目>6月5日 まどか視点

証拠

しおりを挟む
「あの!」
『お客様?』
「松本。彼女を黙らせてくれ」
「……ごめん」
「えっと……むぐっ」
「ヤバ! やっぱ委員長ってば、やっぱり頼りになるぅ~!」

 松本くんの人差し指がわたしの唇に伸びて、ピッタリとくっつく。
 静かにしてろってことみたい。

 松本くんの指示に従って黙れば。
 恵麻ちゃんの手からスマホを受け取った委員長が、電話に向かって話し始めたの。

「――僕達は、いつ取り返しのつかないことが起きてもおかしくない運営状況であることを知っている」

 それは脅しにしか聞こえない発言で……。
 わたし達は目を丸くして、委員長を見つめたの。

「バスの運転手は、随分劣悪な環境で働いているようだな」
『仰っている意味が、よく……』
「今まで事故が起きていないのは、奇跡に近い」
『そのようなことは、けして!』
「見た目だけは随分にしているようだが、内部の点検はきちんとしているのか。もしも整備不良が発覚し、中学生を乗せたバスが事故にでも遭ったら……」
『弊社のバスは安全です!』
「断言したな。今の発言は、録音させてもらった」

 委員長は、自分のスマートフォンを取り出して、ひらひらと振った。
 恵麻ちゃんのスマホを使って通話してたのは、内容を録音するためだったみたい!
 さすがは、委員長だね!
 わたしがそう感心している間にも、彼は電話越しに畳みかける。

『弊社のバス運用にご不満をお持ちのようでしたら、キャンセル手続きを取らせていただきます』
「都合が悪くなると逃げるのか。ろくにメンテナンスもしていないと、打ち明けているようなものだな」
『ですから……!』
「録音データをSNSで拡散されたくなければ、今すぐ責任者を出せ」

 委員長は強い口調で、電話に出てくれた受付のお姉さんへ凄んだの。

 なんかもう、やり方がとんでもない。

 わたし達では思いつかないような、難しい言葉がポンポン出てきて……。
 委員長がいてくれてよかったって、思ったんだ。

『少々お待ちください』
「恵麻。鍵をかけろ」
「りょ!」

 スピーカーから保留音が流れたタイミングで。
 委員長は恵麻ちゃんへ、教室のドアについてる内鍵を施錠するように命じたの。
 なんでそんなことするんだろう?

 わたし達は、不思議で堪らなかったけど……。
 その理由は、すぐ明らかになったんだ。

「手の空いている奴らは、協力してくれ。バリケードを作るぞ」
「おいおい。随分と大事じゃねぇか。これから何が起こるんだ?」
「職員室に連絡が行くはずだ。恐らく、教師が様子を見に来る」
「ええっ!?」

 委員長は恵麻ちゃんと協力して、テキパキと椅子と机を扉の前まで動かすと、それらを積み重ねて行ったんだ。

 二人の連携プレーは、幼馴染コンビ以上に息ぴったりで……。

 時間が戻る前。
 ホームルームの最中にスマホを使うなって怒ってたとは思えないくらい、仲良しさんに見えたんだ!

 わたしは思わず、そんな二人の光景を羨ましそうに見つめてしまったの。

「委員長! こっちは準備オッケーだよ!」
「わかった。君達の中で、スマートフォンを所持している奴は」
「はいよ」
「加賀か……」

 あざかちゃんはいつも海斗くんと一緒。
 松本くんは家が近いから、学校で自宅へ連絡する必要はないでしょ?
 わたしは通学距離が結構遠いけど、高校生になってからってお母さんに言われているから……。

 わたし達四人の中で、スマホを持っているのは海斗くんだけなんだ。

 委員長はお調子者の海斗くんに、データを渡すのが嫌だったみたいだけど……。

 多分、一人でも多くの人に預けておきたかったんだと思う。
 最終的にはスマホ同士を通信させて、データを移動させてた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...