明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月5日 まどか視点

電話、かけちゃった

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「ただ……。脅しをかけておけば、あちらは隠蔽する可能性が高い。当日、それを摘発さえできれば、修学旅行の中止は可能なはずだ」
「……あっ! そっか! 運転手さんに異常がないか、保健室の先生に見てもらえば……!」
「――なぜそうなる。養護教諭は医師免許を持っていない。大人の体調不良の診断など、できるわけがないだろう」
「そうなの……?」
「なぜ彼女を、先頭に立たせているんだ……」

 委員長はうんざりとした声を出すと、これ以上は話したくないとばかりに口を閉じちゃった。

 ええ? わたしはもっと、委員長くんのお話が聞きたいのに……!

「あんさー? こんだけ委員長がヒント出してくれたら、このあとどうするべきかくらいわかるんじゃない?」
「そうだな。まとめよう」

 恵麻ちゃんから促された松本くんは、これからわたし達がやるべきことをまとめてくれたの。

「このあと、みんなには当日の動きを指示する。そのあと、バス会社に接触を図ろう」
「まどか。どこの会社かわかる?」
「あのね、黄色いバスだったよ!」
「黄色って言うと、東京の有名な観光バスかー?」
「そうだな。電話で怪しい問い合わせをしたところで、大人達がどう動くかはわからない」
「いいじゃん! やろーよ。うち、スマホ貸したげる!」

 松本くんが今後のやるべきことをまとめてる途中で、恵麻ちゃんが手に持ってたスマホを貸してくれることになったの。

 画面には黄色い観光バスで有名な、東京のバス会社の電話番号が表示されてる。
 わたし達は顔を見合わせて、誰が電話に出るか悩んだんだ。

「どうする」
「んじゃ、オレが――」
「却下! 海斗は大人の神経を逆なでするでしょ!? ここは松本くんが適任よ。ね? まどか!」
「う、うん。わたし達じゃ、うまく説明できるかわからないし……」
「いや、俺は……」
「あっ。いっけなーい。手が滑って、電話かけちゃったー」

 松本くんはあんまり、乗り気じゃないみたい。
 わたし達の申し出を、断ろうとしてたからかなぁ?

 恵麻ちゃんがわざとらしく声を上げて、通話ボタンを押しちゃったの。

「ちょっと! 何やってんのよ!?」
「だって~。押し問答してる時間がもったいないじゃん?」
「こっちは誰が説明するか決まってないのに! どうするのよ!?」

 あざかちゃんが凄い剣幕で恵麻ちゃんを怒ってるけど、全然堪えてない。
 メンタル強いなぁ……。

 プルル、プルルル。

 わたしが感心している間にも、呼び出し音が聞こえてくる。
 恵麻ちゃんがスマホを操作してスピーカーに変更した瞬間――。
 電話は、バス会社につながっちゃったんだ。

『お電話ありがとうございます。イエロー観光バスです』

 ど、どうしよう……!

 わたしは助けを求めるように、松本くんへ視線を向けたんだけど……。
 彼は、委員長の背中をじっと見つめてる。

 これって、電話に出るつもりはないって意思表示かな!?

 この状況なら、仕方ないよね!

 電話が切られる前に、わたしが時間を稼がなきゃ……!

「あ、あの! 明日修学旅行でバスを借りる、きらめき中学校の生徒です!」
『お世話になっております』
「あの! 偉い人と、お話がしたくて……!」
『どういったご用件でしょうか?』
「えっ!? ええっと……」

 今すぐ電話越しに、本題へ入ってもいいのかなぁ……?

 変なことを言ったら、きっとすぐに切られちゃう。
 わたしはどうすればいいかわからなくて、大パニックになっていて……。
 あわあわと大慌てで、もごもご口を動かすことしかできなかったの。
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