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<2回目>6月4日(2) 拓真視点
黒猫とまどか
しおりを挟む『警戒しないでよ。ぼくは、君達の仲を引き裂くつもりはない。むしろ、恋のキューピッド役のつもりさ』
「どこが……」
『ぼくは拓真とまどかの、幸せを願っている。あとの二組は、おまけのようなものさ』
「それって……」
まさか、ノワールの口から二組なんて言葉が出てくるとは思わない。
該当する男女のペアは、あいつらしか居ないだろう。
「あの四人にも、不思議な力を分け与えたのか」
『どうかな。それはそのうち、わかるかもしれないし、気づかないまま終わるかもね』
この言い方では、本人達が知らず知らずのうちに、不思議な特殊能力的なものを授けられていると判断したほうがいいな……。
猫の鳴き声が、人間の言葉に聞こえるくらいなら。
日常生活においても大した支障はない。
「わかった。ノワールの主張を、全面的に受け入れる」
元に戻せと大騒ぎするのも面倒で。
俺はひとまず、あり得ない現実を受け入れることにした。
『さすがはまどかを愛する男。物わかりがいい子は、好きだよ』
「猫に好かれるより、霧風に好意を持ってほしいんだけど」
『ぼくを味方につけたなら、悪いようにはならないさ』
ゴロニャンと甘えるようにノワールが胸元へ身体をくるりと回転させながら、押しつけてくる。
めんどくさいなと思いながら、相手をしてやれば。
パタパタと足音が響き、息を切らした霧風が戻ってきた。
「お待たせ! 松本くん! ノワールの面倒を見ていてくれて、本当にありがとう!」
「なぁん」
彼女は俺からノワールを引きはがしにかかるが、嫌だと甘えるような鳴き声を上げた黒猫は、離れたくないと爪を立てて霧風の指先から逃れようとする。
「こら! 駄目でしょ、ノワール!」
「なあん!」
霧風家で暮らす彼女の日常を、俺に教えてくれるんじゃなかったのか?
さっさと戻れと、無言で圧をかけながらにらみつけてやれば。
抵抗を止めた黒猫は渋々、主人公の元へ戻って行った。
「ごめんね。松本くんのことが、大好きみたいで……」
「……いや。別に。俺は気にしてないけど……」
――うそだ。
こいつとは絶対、二人きりにはなりたくないと思っている。
霧風が戻ってきてから、本来の猫らしさを取り戻したノワールは、人間の言葉を話さなくなっていた。
あいつと意思疎通ができるのは、二人きりの時だけだと知ったからだ。
「松本くん? なんだか、顔色が悪いような……?」
「いや。全然。そんなこと、ないけど」
「ごめんね! 気づかなくて! 早く帰った方がいいよ!」
「ああ、うん……」
俺が暗い顔で、じっと霧風の腕へ不貞腐れた様子で収まっていた黒猫を見つめていたからか。
大袈裟に騒いだ彼女は、俺の背中を肩でグイグイと押し、早く帰るようにと促してきた。
偶然にも彼女と触れ合えた喜びに打ち震えていれば。
釘を刺すかのように。
先程まで聞こえなくなっていたはずの、声が響いた。
『じゃあね、拓真。ぼくはいつでも、君を見守っているよ』
大きなお世話だと、はっきり宣言できればよかったのだが――。
ノワールを一瞥するだけに留めた俺は、霧風に別れを告げて。
折り畳み自転車を漕いで、帰路へついた。
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