明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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<2回目>6月4日(2) まどか視点

黒猫がお出迎え

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 松本くんに急かされたわたしは、どうにか幼馴染コンビが到着する前に自宅へ戻って来た。

「ただいまー!」
「なぁん~」

 勢いよく玄関のドアを開ければ。
 わたしの挨拶へ返事をするように、ノワールが甘えた声を出しながら。
 お出迎えしてくれたの!

「ノワール!」
「……この黒猫……」

 わたしはいつの間にか飼い猫になってたノワールを、抱き上げようとしたんだけど……。
 松本くんが心当たりのあるような声を出したから、思わずそっちの方へ振り返っちゃった。

「松本くん?」
「にゃあ」

 松本くんの声に反応したのは、わたしだけじゃなかったみたい。
 ノワールはわたしの横を通りすぎると、勢いよく松本くんへ飛びかかったの!

「うわっ!?」

 松本くんは上半身を仰け反らせながらも、嬉しそうに尻尾を振るノワールをしっかりと抱き留めてる。
 さすがは獣医さんの息子! 手馴れてるね!

 ――なんて、感心してる場合じゃない。
 飼い猫が迷惑をかけたら、謝らなきゃ……!

「松本くん! 大丈夫!?」
「俺は平気。なぁ、触ってもいいか?」
「なぁん~」

 ノワールはゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすと、松本くんに触れられることを受け入れたの。
 松本くんはノワールの毛並みに触れると、足のつけ根をつかんで納得した声を出したんだ。

「……ああ、やっぱり。こいつ、学校の中庭でよく昼寝してた黒猫だ」

 その声を聞いたわたしは、もしかして事故のことを思い出したのかなって思ったけど……。

 ――違ったみたい。

 ちょっぴり残念な気持ちになりながら。
 わたしは気を取り直して、松本くんへ問いかけたの。

「そうなの?」
「ああ。足のつけ根に、特徴的な傷がある。霧風の飼い猫になったんだな」
「なーん」
「よかったな。ずっと心配してたんだ。突然、姿が見えなくなったから……」
「にゃあ」
「霧風と一緒なら、心配しなくても大丈夫だな」
「にゃぁん……」

 優しく微笑む松本くんの声を聞いたノワールは、そんなことないよって、彼の胸元へ頬擦りしたの。

 本当は……。
 松本くんの飼い猫に、なりたかったのかな……?

 事故に遭う前は、松本総合病院で保護されていたもんね。
 わたしの家にいるよりも、松本くんと一緒に暮らした方が……。
 ノワールも、幸せだったかもしれない……。

「松本くん。あのね……」

 ――これからは松本くんが、ノワールの面倒を見てもらえないかな?
 その方がノワールも嬉しそうだし……この子の為にもなるよね?

 そう提案しようとした言葉は、声にならなかったの。

「なんで立ち話してんの?」
「中に入ればいいじゃない。それとも、あたし達のことを待っててくれたのかしら?」
「海斗」
「あざかちゃん!」

 一回お家に帰った幼馴染コンビが、私服に着替えてわたしの家へ遊びに来てくれたからだよ!

「なぁん~」
「あらノワール。今日もプリティね?」
「にゃあ」
「いい子で何よりだわ」

 ノワールはあざかちゃんとも、会ったことがあるみたい。
 猫ちゃんは耳を撫でられて、嬉しそうに目を細めてる。

 ノワールを抱きかかえてる松本くんは、あざかちゃんと距離が近くなったのが嫌だったのかな?

 唇をかみ締めて、何か言いたそうな視線を海斗くんに向けてた。

「あざかー。後ろがつっかえてんぞー」
「あたしがまどかよりも先に、ご自宅へ上がるわけには行かないでしょ!?」

 海斗くんは松本くんのヘルプコールを受けて、あざかちゃんへ肩越しに声をかけたんだ。
 勢いよく振り返った親友は、海斗くんに無茶言うなって声を張り上げたの。

 その言葉を聞いて、わたしは慌てて靴を脱ぐ。

 そうだった!
 玄関にいつまでも、一緒にいるわけにはいかないよね!?
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