明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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6月5日 拓真視点

電話相談

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『よお! 拓真! そっちはどうだ? こっちはもう、えらいこっちゃで……』
「それはどうでもいい」
『おっ。うまく行ったか?』
「明日。伝えたいことがあると、約束を取りつけた」
『すげーじゃん! やったな!』

 自分から話しかけられない俺が勇気を出して行動した件を、まるで自分のことみたいに喜んでくれた。
 やはり海斗は、いい奴だ。

 異性だったら惚れていたかもしれないが、海斗はこの世に生を受けた瞬間から、小高と結ばれることが定められている。

 あの二人は喧嘩ばかりしているが、仲がいいからこそ減らず口をたたき合うのだろう。

 羨ましい限りだ。

 家が隣同士だからこそ。
 会いたいときに顔を合わせられて、たくさんの思い出を作れるのだから……。

『あとは霧風の反応次第かー』
「このまマジゃ、間違いなく断られるだろうな」
『昨日の今日だもんな。あざかの話じゃ、拓真の好意に全然気づいてないっぽいし』

 霧風が俺の気持ちに、気づけるはずがないだろう。
 まともに話したことすらなかったのだから。
 それで俺の好意に気づけるのならば、逆に驚きだ。

 俺は多分、そう言う子は好きになっていないと思う。

 霧風は誰に対しても、別け隔てなく。
 嫌な顔一つせずに接する。
 いつも明るく、ニコニコ笑っているかと思えば、朝は遅刻するのが嫌なのか。
 鬼の形相で自転車を必死に漕いでいる。

 そんなギャップにやられて、俺は彼女とずっと一緒にいたいと思ってしまっていた。

「明日、告白して」
『おう』
「いい返事をもらえなくても、構わない」
『いいのかよ?』
「ああ。少しでも、俺のことを意識してくれたら……」

 それだけで、俺は一歩前進したように思う。

 最初から両思いなんて、贅沢は言わない。
 なれるはずがないのだ。
 だから。
 委員長のように、嫌われなければいい。

『ハードル低すぎだろ……』
「恋愛初心者に、無茶言うな」
『想いの強さなら、誰にも負ける気はしないくせに』
「当然」

 早く行動しないと、誰かに霧風を取られてしまう。
 そう思うだけで、胸が締めつけられて、どうにかなってしまいそうだ。

 俺は委員長のように、豊洲がいないと生きていけないと思うほどの異常な愛を、霧風に向けているわけではない。

 海斗のように、つき合っていなくたって、小高が一緒にいるのが当たり前な関係を築けてはいなかったが……。

「この世界で一番、霧風を想っているのは俺だ」

 そう胸を張って宣言できるくらいには、霧風のことが好きだった。

『それ。ちゃんと、まどかに言いなさいよ……』

 遠くから、あきれた小高の声が聞こえてくる。

 こう言う時、幼馴染は面倒だ。
 どちらかに伝えると、全部筒抜けになってしまう。

 今のところ、俺が霧風に並々ならぬ想いを抱いていることは、黙ってくれているみたいだが……。

「言えるわけないだろ」
『言いなさい』
「無理」
『まどかは、喜ぶから!』
「気味悪がられるだけだろ」
『あー、もう! あんたといい、委員長といい、どうしてこう……』

 短気な小高は、すぐキレる。

 俺は疲れるから、あんまり話したくないけど。
 海斗はこうやって、ワーキャー騒ぐ小高を見ているのが、好きらしい。
 きっと今頃、嬉しそうにしてるんだろうな……。

「なぁん?」

 俺の胸に抱きかかえた黒猫が、心配そうに首を傾げてきた。
 ため息を溢したことに、反応したのかもしれない。

 安心させるように耳を撫でれば、気持ちよさそうに目をつぶった。

 ああ、癒やされる。

 親の敷いたレールの上なんて、歩きたくない。
 獣医にはなりたくないが、動物は好きだ。

 こいつは傷がよくなったら、野生に戻る。
 ずっとうちにいるわけではない。

 黒猫がいる生活が、当たり前になってはいけないと。
 わかっていたが……。
 もふもふとした毛並みに指を這わせるのは、やめられなかった。

「海斗。あとは頼んだ」
『りょーかい。んじゃ、また明日。頑張れよ~』
『ちょっと! あたしはねぇ、あんたに言いたいことが山程……!』

 騒がしい小高の相手を、これ以上していられない。
 通話を切った俺はスマートフォンを手放し、ゆっくりと目をつぶる。

「にゃあん」

 黒猫を抱いていたら、眠くなってしまった。

 今日は、霧風と想いを通じ合わせた時のこととか……。
 そんな感じの、いい夢が見られそうだ。

「夢が、現実になったらといいのにな」

 ――その何気ない一言が。
 俺達の運命を変えることになるなど、思いもせず……。

 俺は目をつぶると、意識を手放した。
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