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6月5日 まどか視点
修学旅行の夜、二人で抜け出さない?
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「凄いね! 松本くんも、獣医さんになるの?」
「いや。俺は……」
「拓真?」
――松本くんとわたしの話す声が、聞こえたからかなぁ?
診療室のドアが開いて、中から彼にそっくりな男の人が顔を出したんだ。
松本くんを少しだけ老けさせたような感じ。
40代くらいに見えるけど、実際の年齢は聞かないとよくわかんないや。
渋めの顔をした彫りの深い男の人は、抱きかかえていた猫ちゃんと自分の息子を交互に見つめたんだ。
「父さん。こいつ、怪我してるみたいなんだ。見てやって」
「野良猫か」
「なぁん……」
「わかった。待合室で待ってろ」
松本くんから猫ちゃんを預かったお父さんは、そのまま診療室に消えちゃった。
ドアの上部に取りつけられていたランプはさっきまで暗かったけど、扉が閉まった瞬間に赤く点灯してる。
あれが消えるまで、わたし達は待合室で待っていなきゃいけないみたい。
「霧風。あんまり遅くなると、帰りが困るだろ。あいつのことは俺に任せて……」
「治療が終わるまでは、一緒にいるよ!」
わたしがあの子を見つけたんだもん。
松本くんにばっかり、任せておけないよ!
元気いっぱいに叫べば、松本くんは納得してないみたいで……。
露骨に嫌そうな顔をしてることに気づいたの。
考えてることが、すぐ態度に出るみたい。
隠し事ができないタイプなんだ……。
わたしと一緒だね!
なんだか、親近感が湧いてきちゃった。
今からでも、仲良くなれるかな……?
わたしは少しだけ松本くんとの関係が進展しないかなって期待しながら、誰も座っていなかった待合室のソファに腰かけたの。
「なぁ、霧風」
ぶらぶらと両足を揺らして猫ちゃんの治療が終わるのを待っていると、松本くんから話しかけられたんだ。
彼はずっと立ったまま。
壁に背中を預けて、気難しそうな顔をしてる。
あんまり、楽しい内容じゃないのかな……?
わたしはこれから何を言われるんだろうって身構えながら、松本くんの言葉を待ったの。
「修学旅行の夜、二人で抜け出さない?」
そしたら、思いがけない提案を受けたんだ。
二人で抜け出すって、一体なんのために?
『修学旅行の夜に誰にも知られず抜け出せれば、二人はどんな困難も乗り越え永遠に結ばれる』
そんなおマジないが代々、わたし達の学校で言い伝えられていることは、知ってるけど……。
それって……。
片思いしている女の子が、男の子に提案するのが一般的だよね?
男の子から誘われるなんて、聞いたことないけど……。
「……こんなこと、突然言われたって困るよな」
「えっ!? うんん、全然! 嬉しいよ!?」
声、裏返ってないかな!?
わたしは一生懸命笑顔を作って、松本くんに伝えたんだ。
だって彼は、今にも泣き出しそうな表情をしていたから……。
わたしが素直に困惑してるって伝えたら、松本くんが悲しい気持ちになっちゃう。
そんなの駄目だよ!
こんなお願いをされるなんて、思ってもみなかったから……すごく驚いたけど……。
嬉しかったのは、ほんとだもん。
自分の気持ちには、素直でいなくちゃ!
努力の甲斐あって、松本くんもわたしに微笑み返してくれたんだ。
ちょっぴり引きつっているようにも、寂しそうにも見えたけど……。
苦しそうな表情よりは、ずっといいよね!
「話したいことがあるんだ」
それって、今すぐじゃ駄目なのかな?
ほんとはそうやって問いかけたかったけど……。
わざわざ事前に約束を取りつけようとしてるってことは多分、修学旅行の日じゃなきゃ駄目なんだよね?
私は声に出して伝えたくなる気持ちを抑えながら、ゆっくりとうなずいたんだ。
「いや。俺は……」
「拓真?」
――松本くんとわたしの話す声が、聞こえたからかなぁ?
診療室のドアが開いて、中から彼にそっくりな男の人が顔を出したんだ。
松本くんを少しだけ老けさせたような感じ。
40代くらいに見えるけど、実際の年齢は聞かないとよくわかんないや。
渋めの顔をした彫りの深い男の人は、抱きかかえていた猫ちゃんと自分の息子を交互に見つめたんだ。
「父さん。こいつ、怪我してるみたいなんだ。見てやって」
「野良猫か」
「なぁん……」
「わかった。待合室で待ってろ」
松本くんから猫ちゃんを預かったお父さんは、そのまま診療室に消えちゃった。
ドアの上部に取りつけられていたランプはさっきまで暗かったけど、扉が閉まった瞬間に赤く点灯してる。
あれが消えるまで、わたし達は待合室で待っていなきゃいけないみたい。
「霧風。あんまり遅くなると、帰りが困るだろ。あいつのことは俺に任せて……」
「治療が終わるまでは、一緒にいるよ!」
わたしがあの子を見つけたんだもん。
松本くんにばっかり、任せておけないよ!
元気いっぱいに叫べば、松本くんは納得してないみたいで……。
露骨に嫌そうな顔をしてることに気づいたの。
考えてることが、すぐ態度に出るみたい。
隠し事ができないタイプなんだ……。
わたしと一緒だね!
なんだか、親近感が湧いてきちゃった。
今からでも、仲良くなれるかな……?
わたしは少しだけ松本くんとの関係が進展しないかなって期待しながら、誰も座っていなかった待合室のソファに腰かけたの。
「なぁ、霧風」
ぶらぶらと両足を揺らして猫ちゃんの治療が終わるのを待っていると、松本くんから話しかけられたんだ。
彼はずっと立ったまま。
壁に背中を預けて、気難しそうな顔をしてる。
あんまり、楽しい内容じゃないのかな……?
わたしはこれから何を言われるんだろうって身構えながら、松本くんの言葉を待ったの。
「修学旅行の夜、二人で抜け出さない?」
そしたら、思いがけない提案を受けたんだ。
二人で抜け出すって、一体なんのために?
『修学旅行の夜に誰にも知られず抜け出せれば、二人はどんな困難も乗り越え永遠に結ばれる』
そんなおマジないが代々、わたし達の学校で言い伝えられていることは、知ってるけど……。
それって……。
片思いしている女の子が、男の子に提案するのが一般的だよね?
男の子から誘われるなんて、聞いたことないけど……。
「……こんなこと、突然言われたって困るよな」
「えっ!? うんん、全然! 嬉しいよ!?」
声、裏返ってないかな!?
わたしは一生懸命笑顔を作って、松本くんに伝えたんだ。
だって彼は、今にも泣き出しそうな表情をしていたから……。
わたしが素直に困惑してるって伝えたら、松本くんが悲しい気持ちになっちゃう。
そんなの駄目だよ!
こんなお願いをされるなんて、思ってもみなかったから……すごく驚いたけど……。
嬉しかったのは、ほんとだもん。
自分の気持ちには、素直でいなくちゃ!
努力の甲斐あって、松本くんもわたしに微笑み返してくれたんだ。
ちょっぴり引きつっているようにも、寂しそうにも見えたけど……。
苦しそうな表情よりは、ずっといいよね!
「話したいことがあるんだ」
それって、今すぐじゃ駄目なのかな?
ほんとはそうやって問いかけたかったけど……。
わざわざ事前に約束を取りつけようとしてるってことは多分、修学旅行の日じゃなきゃ駄目なんだよね?
私は声に出して伝えたくなる気持ちを抑えながら、ゆっくりとうなずいたんだ。
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