明日君に、伝えたいこと

桜城恋詠

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6月5日 まどか視点

傷ついた黒猫

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 ――恵麻ちゃん、居ないなぁ。

 キョロキョロとあたりを見渡してみるけど、彼女の姿は見当たらない。
 追いかけるのが、ちょっと遅かったかも。

 私と恵麻ちゃんは、自転車通学だから。
 駐輪場の近くまで行けば、出会えると思ったんだけどなぁ……。

「にゃあ……」

 わたしが肩を落として。
 恵麻ちゃんとお話できなかったことに、しょんぼりと肩を落としてしている時のことだったの。

 どこからか、弱々しい猫の鳴き声が聞こえてきたのは。

 どうしたんだろ?

 迷子になって、学園の中へ迷い込んで来ちゃったのかなぁ……?

 心配になった私は、恵麻ちゃんを追いかけるのは諦めて。
 声のした方向へ、歩みを進めたの。

「猫ちゃん?」
「にゃあ……」

 呼べば応えては、くれるけど……。

 弱々しい鳴き声を頼りに居場所を特定しようとしても、うまくいかなくて……。
 私はその場にしゃがみ込むと、近くの草むらをかき分けて、猫の姿を探したの。

 どこにいるんだろう……?

 見落としがないよう、入念に。

 ガサガサと、音を立てて。
 草むらの中をくまなく捜索していると、真っ黒なもふもふとした毛並みが、楕円状に丸まっているのが見えたんだ。

「猫ちゃーん?」
「なぁ……」

 ゆっくりと黒い毛に指を這わせて、問いかける。
 すると……。

 猫ちゃんは、私の呼びかけへ応えるように。
 か細い鳴き声を上げたんだ。

 丸めていた耳と尻尾を外に出して、動かそうとしているみたいだけど……。
 全身が小刻みに震えてる……。

「無理しなくて、大丈夫だよ……」
「にゃあん……」

 黒い毛を優しく撫でれば。
 猫ちゃんは耳や尻尾を無理に動かそうとするのは、止めたみたい。

 よかった……。

 もしも怪我とかをしていて、体力を無駄に消耗したら大変だもん。
 弱っている時は、安静にしていなくちゃね!

「動けなくなっちゃったの……?」
「にゃあ……」
「……そっか……。私の力でも抱っこして、獣医さんのところに連れて行けるかなぁ……?」

 バケツの底と同じくらいの横幅がある猫ちゃんの身体は、上から見ているだけでもとっても重そう。

 男の子だったら、持ち上げられるかもしれないけど……。
 私が抱っこしようとして、高いところから落としちゃったら大変だよね?

 誰か、呼んできた方がいいかも……。

 でも、誰を呼ぼう?

 私には、連絡先を知っている仲のいい男の子なんていないし……。

 教室に戻ってもいいけど、みんなは委員長を慰めるのに必死だった。
 手を貸してくれる人がいるとは、思えなくて……。

 頼れるのは、職員室にいる先生くらいしかいないかも……。

 そう、思ったんだけどね?

 わたしは、大事なことを思い出したの。
 学校の中には、ペットを連れてきちゃいけませんって校則があるってこと……!

 先生に助けを求めたら、わたしが怒られちゃう!

 うーん。
 困ったなぁ……。

 でも。
 このままには、しておけないし……。

「あ!」

 ――その時わたし達の近くを、同じクラスの男子生徒が通りかかったんだ。

 彼の名前は、松本拓真くん。

 海斗くんと仲良しさんで、口数がちょっぴり少ないかな?
 机に突っ伏して寝てることが多い……。

 わたしと同じ、中学三年生だよ!

「松本くーん!」
「……霧風?」

 わたしは両手をブンブンと振って、松本くんに存在をアピールしたんだ!

 そしたらね?
 不思議そうな彼と、目が合ったの。

 闇夜みたいな黒髪と、神経質そうな瞳が、訝しげに細められてる。

 機嫌があんまりよくないのかなって、ちょっぴり心配だけど……。
 こっちも緊急事態だもん!

 猫ちゃんを助けるためにも、協力してもらわなきゃ……!
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