溺愛ネクストオールディーズ

桜城恋詠

文字の大きさ
上 下
4 / 9

鵜飼忍

しおりを挟む
「お兄ちゃん!見て!キービジュアルが出揃ったの!!!」
「おー…」
「お兄ちゃん、反応薄い!」

高校生の鵜飼忍うかいしのぶは愛の従兄妹いとこだ。数年に1度顔を出す程度だったのに、愛が余命宣告をされたことを両親から聞いたのだろう。最近は2、3ヶ月に一度学校帰りに病室へ顔を出すようになった。1年に1回が、多いと1年に6回も会いに来るようになったのだ。めんどくさがりなあの忍が見せた変化に、愛は、人って変わるものだなあと思わずにはいられない。

「お兄ちゃんもめっちゃイケメンにしてもらえたんだよ!嬉しくないの!?」
「まー、利益出なきゃ出す意味ねーし…そりゃ、なあ?」
「お兄ちゃんってばお金のことばっかり!」
「そりゃそうだろ。素人の可哀想な女の子の妄想を商品化します、とか。病気盾にした炎上商法かよ。売る方も売る方だし、買う方も買う方だ」
「お兄ちゃん。あのね、原案が余命幾許もない女の子だってことは伏せてもらう約束なの。お金も気にしなくていいって言われてるし、売上の一部はここの小児病棟でも比較的症状が軽い子達の手術費に当ててもらう約束で」
「は?慈善活動のつもりなわけ?」
「違うよ。わたしはただ…」
「あのさ。愛は残されたみんなのためとか言って走り回ってるけど、全然周りにいる奴らの事考えてないよな。俺、この間いい所の坊っちゃんに喧嘩売られたんだけど。付き合ってもないのに年頃の娘さんの病室に入り浸るな、とか。大きなお世話。つーかさ。愛は何人の男誑かしてるわけ?やっぱ死期が近づくと子どもを残したいと思うんかね。よくわかんねーや」
「お兄ちゃん」
「俺を含めたら5人だよな?俺は別に、愛とどうこうなりたいとかねーけど。どいつもこいつも、ゲームの中だけでも添い遂げたいとかさ、キモすぎなんだよ。意味ねえだろ。妄想の中でなら、いくらでもやりたい放題できんのに。わざわざゲームにして全世界に売り捌くたって、死人への冒涜だろ」

忍は愛を元としたゲームの登場人物として出演することにそれほど興味はないらしく、今まで文句の一つも言うことなく静観していたが、ここに来て不満が爆発したらしい。

彼に恋人と勘違いされたことが忍の逆鱗に触れたのか、ここにきてゲームの発売を中止するべきだと怒りを露わにする忍に対して、男性関係についてはどう納得させればいいのか、愛には見当もつかない。「死人への冒涜」に関してだけは当事者である愛にしか向き合えないことなので、しっかりと訂正して納得させなければと声を上げる。

「死人への冒涜じゃないよ。わたしがそうやって望んだんだ。一人でも多くの人に、わたしが生きた証を残したいって」
「だったら!他にもっと方法があったろ!?なんで恋愛シミュレーションゲームなんだよ!なんでゲームの中でも、愛が他の男とイチャイチャしてる所を見せつけられなきゃなんねーの?」
「…イチャイチャ?それは仕方ないよ。そういうゲームだもん」
「ゲームだったら何しても許されんだ」
「ゲームだからね」
「なら、俺との話は俺が1から全部考える」
「それは…どうなんだろう?スタッフさんと相談しないとーー」
「他の奴らをあっと驚かせる仕掛けとインパクト残してケチョンケチョンにしてやんねーと気がすまないんだよ!俺はずっと逃げてばっかで、愛に顔向けできなかった。やっと、逃げてばっかじゃ後悔するって気づいて…行動したって、愛にとって俺はいつまで経ってもお兄ちゃんのままだもんな。恋愛対象じゃない。やってられるか。絶対潰す。特にあの喧嘩売ってきたクソガキだけは絶対許さん」
「お兄ちゃん…?」

なんだかよくわからないけどゲーム制作について意欲を見せたお兄ちゃんは、その場でスタッフに連絡を取り、いかに彼との差を見せつけるかについてを力説してスタッフをドン引きさせていた。

ゲームの制作は順調だ。
愛の病状もまた、急速に悪くなることはなくとも緩やかに進行している。
ゲームが完成するまではどうにか持ってほしい。いや、完成を見届けるまでは死んだりしない。協力してくれたみんなの為にも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

ヤンデレ彼氏の扱い方

小梅
恋愛
ヤンデレ彼氏高橋くんと男前彼女真木さんの話。

乙女ゲームの敵役の妹兼悪役令嬢に転生したので、今日もお兄様に媚を売ります。

下菊みこと
恋愛
自分だけ生き残ろうとしてた割にフラグクラッシャーになる子のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

アンリお兄様は度を超えた心配性

下菊みこと
恋愛
・ヤンデレ ・運命の番 ・王子様 そんな短いお話です。小説家になろう様でも投稿しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

処理中です...