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第二章 側仕え編

大好きな歌で成り上がる!

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「イングランド様。私がイングランド様の養女となることは決定事項でしょうか。」



「そうだな。決定事項だ。」



「かしこまりました。それでは、私の発言が領主の養女としてものとみなされるのはいつからでしょうか? 私が正式にイングランド様の養女となってからでしょうか?」



私の質問に周囲の空気は一瞬張り詰めたが、イングランド様は私の真意を探るように私のことを観察した。



「……うむ。今から、其方の発言を私の養女としてのものとみなそう。」



「おい、イングランド! 自分が何を言っているのかわかっているのか?」



「わかっている。だが、先ほども言った通りパイルとは協力関係を築いていきたいのだ。……それに、領主の養女として弁えた発言をしてくれるとのことだ。下手な発言はしないだろう。」



イングランド様はそういうと、不敵に笑って見せた。

私にくぎを刺すために、養女として弁えた言動を白ということだ。



神官長は苦い顔をして鼻を鳴らした。





「神官長、ウィルの能力について疑問があるということでよろしいでしょうか?」



「……ああ、そうだな。品のない小汚い小僧に見える。」



「平時ではない状況が続いたため、荒っぽい部分が多く見えてしまったものと思います。……ですが、皆様に「お願い」を口にしてからのウィルの皆様への態度はいかがでしたでしょうか? 神殿の側仕えとして、不合格なものでしたでしょうか?」



神官長は忌々し気にウィルを見た後に、腕を組んで壁に寄りかかった。



「……私はいらないが、側仕えとするものもいるのではないか?」



「1年前まで、ウィルは字を読むことができませんでした。それに、1日中布団にくるまり外とのかかわりの拒絶していました。私は、私が知る中で最も成長したと思うのがウィルです。ウィルの成長速度には目を見張るものがあります。」



「孤児院レベルであれば、ものすごいのであろうな。まあ、我々が話しているのは貴族についてであるがな。」



「……大きな熊の魔獣が現れたとき、ウィルはその身一つで攻撃をかわしました。身体能力がかなり高いものと思われます。」



「それは、其方が遭遇したレッドグリズリーの話か? 低級とはいえ、魔物の攻撃を身体強化なしでかわしたのか? ……偶然であろうな。」



「私には魔獣の強さや身体強化なるものが何なのかわかりませんが、魔獣とは10歳にも満たない少年が攻撃をかわせるほどの存在なのですね。」



私がそういうと、神官長は冷たい視線を私に向けて、1つ舌打ちをした。



「先程からウィルのことを小汚いの連呼しておられますが、確かに前髪がとても長く、肌や衣服が少し汚れていますね。さらに、充分な食事をとることができない状況でした。しかし、こちらをご覧ください。」



私はそこで言葉を区切ると、ウィルの額に手を当てて、ゆっくりと前髪を上にあげた。



ウィルはものすごく整った顔立ちをしていた。

昔は少年味が強かったけども、今は10歳を迎え、少年であるもののその顔立ちの良さは更に際立っていた。





「……ふむ。私ほどではないが、なかなか整った顔立ちをしているな。十分、社交時の武器となるだろう。」





イングランド様はあごに手を当てて、頷きながらそう言った。

確かに上位貴族ということで、かなり顔立ちはいい。





「だが、それ以上にその瞳の色は……。これは、波乱の予感がするな。なあ、ハルウォーガン?」



「……ああ、そうだな。投げ飛ばしたくなる。」



神官長が不敵に笑って見せると、ウィルがびくりと肩を震わせた。

私はウィルを庇うように、前に出た。



「投げ飛ばさないでください。……ウィルの潜在能力については以上となります。私には上位の貴族に求められるものというものがわかりません。ですが、チャンスを与えてはいただけないでしょうか。どうか、よろしくお願いいたします。」





私が頭を下げると、ウィルも続いて頭を下げた。

少しの沈黙が流れた。

何も言葉を発していないにもかかわらず、緊迫した空気に包まれていた。



「……顔を上げろ。魔力回路が半身しかない其方は、心無い言葉を多くかけられるだろう。それでも逃げ出さずにいられるか?」



「……はい。物心ついたときから言われているので慣れています。それに、俺はパイルを守るために貴族になりたいのです。すべての悪意を引き受けて見せます。」





ウィルがそういうと、神官長は長い息を一つはいた。

そして、イングランド様に目配せをして、一つ頷いた。





「2年だ。2年で、私たちが求めるレベルまですべてを身につけられたら、其方をパイルの側近とする。できなければ、孤児院に戻す。」



「「ありがとうございます!」」



「そのようにうれしそうにしていられるのも今の内だ。貴族教育が始まってから、後悔するといい。」



神官長は眉間にしわを寄せて、そう言った。

2年という期間は、おそらくとてつもなく短い。教育がどのようなもので誰が行うのかはわからないけど、ここはしっかりとくぎを刺しておきたい。



「イングランド様、私のもう1つのお願いをここで申し上げてもよろしいでしょうか?」



「うむ。言ってみろ。」



「ありがとうございます。それでは、最後のお願いになりますけど、ウィルのことをよろしくお願いいたします。……たとえ、貴族となれなくてもその後の人生を自身をもって生きていけるように、五体精神満足の状態でよろしくお願いいたしますね。」



「……はー。何も伝わっていない。」



ウィルのため息が聞こえてきた。

貴重なお願い枠を使って身の安全をお願いしたというのに、ご不満のようだ。





「それでは、細かいことはこちらでやっておく。今日はとりあえず、スイートベルを神の元へ送り届けよう。」





イングランド様の主導で、院長先生のお見送りが行われた。

私とウィルは孤児院のみんなと一緒に、祈りをささげた。











ーー









後日、神殿長が更迭されたと神殿内で情報が飛び交った。

ウィルは貴族となるべく、養父の元へと出発した。私には養父となる人の情報は知らされていない。



私はというと、貴族街へと移動する馬車の中にいる。

これから私は、上級貴族の娘となり、、領主の養女となる。



聖女として、領主の養女としての生活がスタートする。

そして、私の「歌を世界中に届ける」という目標も実現に向けて動き出すんだ。



大好きな歌で成り上がって見せるから!









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