大好きな歌で成り上がる!~元孤児でも、歌うことは諦めません~

kurimomo

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第二章 側仕え編

自分の役割を全力で

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何が何だかわからない状態で連れてこられたけど、神官長たちが話している内容から事情はなんとなくわかった。戦いの連続で疲弊している騎士団の方々に、せめてもの心の安らぎとまではいかないけど、気分転換となるような機会を与えたいということだろう。



私には、魔獣というものがどのような存在なのかわからない、騎士団の戦闘というものがどういうものかはわからない。だけど、連続して戦うということがどれだけ疲弊するのかはなんとなく想像できる。神官長たちが私の歌に価値があるのだと判断してくれたのなら、その期待にこたえたい。



そして何より、領のために戦っている騎士団の皆さんに感謝の気持ちを届けたい。騎士団の皆さんに神様のご加護がありますように。





足元しか見えない中私は、想いを頼りに全力で歌った。



胸のネックレスが熱い。熊と遭遇した時と同じ感じだ。院長先生には、この石が熱を帯びたらあらゆる行動を止めるように言われているが、この状況で歌を止めたら私がここに来た意味がなくなってしまう。



ごめんなさい、院長先生。私はまた、約束を破ってしまいます。









って、なにこれ? 

急に、周りが見えるようになってきたんだけど。フードが取れたわけでは……なさそうだ。

ということは、フードをかぶっていながらも、普通に周りが見えているということになる。





……え、どういうこと? 私が知っている常識では、考えられないことが起こっているようだ。

ま、まあ考えてもわからないことなら、自分の役目をしっかりとまっとうすることにしよう。周りが見えるようになって、目の前にいる騎士団の方々の顔が見えるようになった。殆どの人が、包帯を巻いていて、どことなく疲れている顔をしている人が多い気がする。

騎士団の皆さんに私の歌を届けたい。聞いてくれる人たちの顔は見えたことによって再びその思いが強まった私は、『一歩』を歌い切った。















……うん。なんだか、とても微妙な空気になっているね。歌い終わったものの、拍手やブーイングはなく、ただただ静寂が訪れている。騎士団の皆さんも、よくわからない小娘がいきなり歌を歌いだして、どのように反応していいのかわからないのかもしれない。





「もう1曲歌ってみよ。」





空気を読まない一言が聞こえてきたので、声のした方に少し視線を向けた。

……やっぱり、イングランド様だ。会話をしている声でなんとなく分かってはいたけど、イングランド様が領主ということか。なんかもう、驚きすぎてよくわからなくなってきたな。





「……其方の歌でいいから何でもいい。こちらは適当に合わせる。」





今度は神官長がそういった。何でもいいから歌え、適当に合わせるですって!? 聞いたことがない歌に、演奏を合わせると言い切るとは流石神官長。才能が溢れていて、羨ましい限りだ。拒否権がないのは承知しているけど、望むところだ。それに、歌う機会は逃したくない。



ネックレスは……熱いままだ。次の歌を歌えば、光り出してしまうかもしれない。幸いにも、自然な形で胸の前で手を組んでいるから、光り出したら手で包み込んで光が漏れないようにしよう。







新曲もいいけど、今日のように星がきれいな日にはやっぱりこの歌に限るよね。『星を織る街』





『遥か彼方 廃れきった街 人の記憶から忘れられていく 情熱もなくし ただうつむいていた』





私がそこまでアカペラで歌うと、静かに神官長の演奏が始まった。もちろん私たちのバンドの演奏とは異なるけど、歌にマッチしている。悔しいけど。



『まるで影のように消えかけた夢 何もかも嫌になり立ち止まった時に ふと見上げた空には あの日の無数星がある 』



すると、ワンテンポ遅れてイングランド様の演奏も聞こえてきた。

くっ……。この人も才能が有り余る人だったか。お貴族様というのは、こんな人たちばかりなのだろうか。お貴族様は傲慢で、偉ぶっているというイメージが強いけど、ここまで才能を見せつけられたら、しょうがないかなと思ってしまいそうだ。

いや、今はそんなことよりも、聞いてくれる騎士団の方たちに向けて、一生懸命歌うことの方が大切だ。





『夜に輝いている 瞳を閉じれば思い出される 無数の夢 星屑たち 何度も忘れかけた あの場所を思い出されるよ どんなに遠く離れていても 必ず帰ると誓うよ 星を織る街』







ちょ、ちょっと光り出してしまった。私は急いで、胸の光源を手のひらで包み込んだ。幸いにも、すぐに包み込んだおかげで光は外に漏れなかった。



それにしても、先程と同様に歌い終わったにも関わらず、何も反応のない静寂が訪れてしまった。静寂よりは、ブーイングとまではいかないまでも何かしらの反応があった方がありがたい。









「以上で、演奏を終了する。皆、残りの魔獣討伐もよろしく頼んだぞ。」





沈黙を再び破ったのはイングランド様だった。スルースキルがすごいのかそれとも、領主として堂々としているのか私にはわからないが、この場が進んでくれるのはありがたい。





「はっ! 承知しました!」





イングランド様の言葉にいち早く反応した人物が、跪いてそういった。きっと彼が、騎士団長なのだろう。後ろに控えている騎士団の人たちに比べても随分と若く見える。顔はとても整っているが、童顔というわけではないから、見たまんま若いのだろう。

騎士団の皆さんも、騎士団長に続いて跪いて首を垂れた。



私は神官長の合図を受けて、礼をしてその場をあとにした。すでにフードを通して周囲を見ることはできなくなっており、足元に注意しながら歩いた。



その後は馬車に乗って待機している様に言われたので、今は大人しくミーアお姉ちゃんと一緒に馬車に乗っている。神官長たちは、騎士団から何か受け取る者があるようで、外からは何か作業している音が聞こえてくる。馬車に何かをつみこんでいるのかな? まあ、私たちにはわからないものだろうね。

それよりも、今回の任務は成功したのだろうか? まあ今回命令されたのは、ただただ歌うことだから、成功というよりは達成したということになるだろうか。神官長からの命令をこなせたのならいいけど、やはり騎士団の皆さんから何も反応を得られなかったのが心残りだな。気持ちを込めてうたえたから、拍手の1つ2つくらいは、もらえてもよかったのになとは思う。騎士という人たちがどんな人たちかよく知らないけど、もしかするとイングランド様の前だったから、緊張していたのかもしれない。あとは気になることといえば……神官長って何者なの?
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