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第二章 側仕え編

お顔がよろしいようで

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私は今、神官長たちのあとを付いて歩いている。
神官長たちの「たち」とは、以前神殿の掃除をしている時に神官長の側にいた、帯剣しているまるで騎士のような人と人好きのしそうな笑顔を浮かべている地味顔の男性のことだ。
この3人は……仲がいいのかな? 単純なお友達には見えないけど……。

ま、まあどちらでもいいけどね。それよりも、このお口の悪い神官長に私の歌を認めさせることができたんだからね! 

いいや、それとも……いかがわしい目的で私を側仕えにしたとかもあるのかな? 私ったら可愛いから……何て言っている場合ではない! こんな大きな男性たちを相手にしたら、私にはどうにもできない。あの時の熊のように、私の歌で撃沈させる手もあるかとしれないけど……。


「ここが私の部屋だ。入れ。」


そうこうしているうちに、私の新しい仕事場に着いたようだ。
うん、孤児院の扉とは違って高級感あふれる扉だ。扉一つで、貧富の差を見せつけられてしまった。

扉が開かれ中を見渡すと、側仕えと思われる男性が2名事務仕事をしていた。
神殿内では、神官・巫女と側仕えの区別がはっきりつくようになっている。何で区別しているかというと、それは着用する衣服の色だ。神官・巫女は黒一色、私たち側仕えは灰色といった具合だ。ちなみに私は今、孤児院の時に着用していた麻の服を着ている。


「神官長、お戻りになられましたか。……その子どもはもしかして、側仕え見習でしょうか?」


20代後半と思われる側仕えが、神官長を出迎えて私のことについて質問した。選別に行っていたのだから、連れて帰ってくる子供なんて、側仕え見習いしかいないと思うんだけど……とは一概には言えないのかもしれない。
先程の部屋で聞こえてきた会話の中で、この神官長は殆ど側仕え見習いを召し上げたことがないと聞こえた気がする。おそらく、いつもは召し上げてこないのに、今回はどうしたのかという副音声がついているのだろう。


「ああ、そのとおりだ。この者を一人前の側仕えに育ててくれ。」

「かしこまりました。」


側仕えはすぐに了承の意を示した後に、私を一瞥した。何を思っているのかわからないけど、あなたの主が選んだ将来有望な歌姫ですよと言ってやりたい。


「それから、其方。名は……パイルと言ったな。其方には事務作業に加えて、私専属の楽師としても仕えてもらう。」


ga、楽師!!
なんてすばらしいの! まさか、公式に音楽に携わることができるなんて! 顔だけの男とか思って、ごめんなさい! 神官長は、とても素晴らしい人だよ!


「神官長、少しよろしいでしょうか?」

すると、人好きのしそうな笑顔を浮かべている地味顔の神官が神官長に声をかけた。側仕えの身で意見を申し付けることはできないが、神官同士ならば多少の意見は許されているのかもしれない。


「なんだ?」

「その者の歌の才を見ましたら、楽師にすることは私も賛成にございます。ただ、楽師というからには何かしらの楽器も人並み以上に出来なければいけません。そうしないと、あなた様の品位が下がってしまいます。」


地味顔の神官がそういうと、神官長は「ふむ。」と言って少し考えるそぶりを見せた。
楽器、楽器に触れるの! といっても、私がすぐにできそうな楽器といえばギターくらいだ。ギター……あったりしないかな?


「其方の言うことにも一理あるな。ならば、楽器もやらせよう。」

「……恐れながら、この者は孤児院育ちのため楽器に触れたことは無いと思いますが……。指導はどうするおつもりです?」

「独学に決まっているだろう。私はこの者に才があるといった。ならば、楽器もできて当然だろう。」


……はい? さっきは、いい人かと思ったけど、訂正しよう。顔だけがいい自己中で傲慢な、性格最低男だ。自分が才能あると言ったから、出来て当然ですって!? 私をほめているようで、自分の目には狂いがないと言っているようなものだ。こっちの楽器の世界も知らないのに、まだ10才の可憐な少女の私になぜ軽々しく無理難題を押し付けているのか。
まあ、孤児に対する貴族の言動としては、こんなものなのかもしれないけど。

「左様ですね。神官長がおっしゃるのならばそうなのでしょう。」

「ふむ。では、どの楽器にするかくらいは選ばせてやろう。マール、神殿にある楽器をこの部屋に持ってきてくれ。」

「……。」


マールと呼ばれた、もう一人の年若い側仕えは目礼した後に、機敏な動きで部屋を退出した。返事をしないとは、大胆なスタイルである。
孤児院で見かけたことがないから、おそらく私と1回も孤児院で生活をしたことがない人だ。つまり、21歳以上の人というわけだ。……あと、そろそろ自己紹介をしてほしいな。名前くらいは知っておきたいけど、ペーぺーの側仕えなんかの私に自己紹介なんてしてくれないんだろうな。


「では先に、事務仕事の面で使えるかみてみよう。机の上の勉強はそこそこだったようだが、正直楽師だけできる側仕えなどいらぬ。アルミ―、何かやらせてみよ。」


もう一人の側仕えの名前は、アルミ―ね。
というか、先程からかなり馬鹿にされているようだけど、そろそろ憤慨してもいいかな? 私みたいな大人女子でなかったら今頃、グーパンの一つや二つしていてもおかしくはない。


「……では、軽い経理の仕事をさせてみましょう。ちょうど、先月分の支出総額を計算していたところです。速さと正確さをみてみましょう。」


経理なんて、前世も含めてやったことがないけど、支出総額ということは計算をすればいいということかな。計算だけなら大丈夫そうだ。

私は促された席について、資料に目を通した。途中までやっていたという言葉のとおり、食費、人件費など項目ごとの1か月分の支出額がすでに算出されていた。つまり、この項目のすべてを合計すればいいということらしい。まあ、この程度の計算なら大丈夫だ。


「計算にはこちらの算術盤をご利用ください。その他質問はありますか?」

「いいえ、ございません。算術盤の使用方法も孤児院で習っているので、大丈夫です。」

「わかりました。では、始めてください。」

「……すみません。もう、答え出ているんですけど空いてるところに答えをかけばよろしいですか?」

「……はい? 答えが出ているって、え?」


私がそういうと、気真面目そうなアルミ―は思考がフリーズしてしまったようで、固まってしまった。私は前世を含めて、勉強ができた。というかできるようになるまで頑張った。下手な成績をとって、歌の時間が減るくらいなら最初から文句が出ないようにすればいいと思ったからだ。この計算は7桁の足し算だ。ギリギリ暗算でも行ける。


「適当なところに答えを書きなさい。アルミ―算術盤で検算をしなさい。」

「か、かしこまりました。」


私は空きスペースに答えをかいて、アルミ―算術盤で検算を始めた。それにしても、項目ごとに計算するのにもかなりの時間がかかりそうだ。こんな大変な仕事を側仕え2人で回しているのは、異常事態だろう。他にも人事とかを担当していると言っていたし……。もしかして、神官長の事務処理スキルは、常軌を逸しているのだろうか。
そんなことを考えているうちに、アルミ―の検算が終了した。ちなみに、アルミ―の算術盤さばきはめちゃめちゃすごかった。

「……合っています。」

「ほう。其方、どのように計算したのだ?」


どのように計算したと言われても、資料に書かれている数次を暗算しただけなんだけどな。うふふふふ。私の歌にかける思いって、すごいでしょ?


「資料に書かれてある数字を頭の中で計算しました。7桁までは、暗算で対応できます。」

「なるほど。成績が歴代トップクラスだという評価は、本当だったようだな。無能でなくて何よりだ。」


……いちいち、カチンとくるなこの人。余計な一言をつけないと、死ぬ呪いにでもかかっているのかもしれない。
まあ、いいや。どんな楽器が来るのか、楽しみだな。

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