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第三章 ウェルカムキャンプ編
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俺達はアルベルト殿下おすすめの癒しスポットに向かうため、早朝に馬で出発した。
場所を知っているキルによると、2時間ほど馬でかけていけば着けるらしい。
しかしあいにく、俺は乗馬経験がないため、キルの馬に相乗りさせてもらっている。
俺が前でキルが後ろにいるため、キルに包み込まれているような格好になっている。
大変心臓に悪い。
「こうしてみんなで、馬で出かけるなんて初めてッスね! 天気にも恵まれて、最高のピクニック日和ッスよ!」
「これはピクニックというのか? アルベルト殿下は、俺達に自然浴で心身の疲れをいやしてくるようにおっしゃったんだぞ。」
「昼食も持ってきたし、ピクニックと呼んでも別に問題ないと思うッスよ!」
ジールとキースの気の抜けるようなやり取りを聞きながら、俺は周りの風景に視線を向けた。
王都の華やかな風景とは違い、のどかでどこか懐かしいような自然が広がっている。それに、肌をなでる初夏を感じる爽やかな風が心地いい。それに、ものすごく大好きで落ち着く香りが近くにあって……。
「アース?」
「な、なに!?」
いつもより近く感じるキルの声に、いつも以上に過敏に反応してしまう。
突然大声をあげた俺にキルは少し驚いたようで、少し目を見開いた後に、ふっと笑って穏やかな笑みを浮かべた。
「アースがなにやらボーっとしていたから気になったんだ。初めての乗馬だからな。具合を悪くしたり、どこかいためたりしていないか?」
「……い、いや、大丈夫だよ。周りの風景を眺めていたんだ。急に大きな声を出して、ごめんね。」
「そうか、それならいいんだ。……ね、眠くなったらいつでも言ってくれ。俺がしっかりと支えるから。」
キルはそういうと、俺が落ちないようにためらいがちに俺の腰に手をまわした。
ちょ、ちょちょちょっと待って!
この状況は色々な意味でまずい気がする……。近いし、しっかりと触れられているし、それに……長い間眠っていたせいで、あっちの処理が全然できていないんだよ……。
そうして、落ち着かない気持ちを何とか抑え込みながら馬で駆けていくこと数十分、何かに気づいた様子のキルが俺の肩を叩いた。
俺が「どうしたの?」と言いながら振り向くと、そこには少年のように屈託のない笑顔を浮かべたキルがいた。
「アースの肩にとまっていたんだ。見てみろよ、ほら。テントウムシ。」
その瞬間、俺の何かがはじけ飛んだ。
こんな不意打ちのようなものを食らっては、ギリギリの均衡を保っていた俺の理性がもたない。
……だけど、決め手になったものが「テントウムシ」って……。虫だぞ、虫。
「……キル、ちょっと、止まってくれる?」
「あ、ああ。わかった。」
キルは心配そうな表情を浮かべながらも、側近のみんなに指示を出して、近くを流れていた小川の近くで小休憩をとってくれた。
「……ちょっと、新鮮な空気を吸ってくるね。」
新鮮な空気をたくさん吸える状況であったにもかかわらず、わけのわからない言葉を言い放った俺を、みんなは静かに送り出してくれた。
途中でキルが追いかけてこようとしていたが、ローウェルに引き留められていた。
ーー
「なんで引き留めたんだ、ローウェル?」
不機嫌を隠そうともしない声音で件の人物に話を振ると、当の本人はどこ吹く風で飄々と返事をした。
「そんなに怒らないでくださいよ、主。アースが少し、前傾姿勢になっていたのはお気づきでしょう?」
「ああ。それがなんだというんだ?」
「俺たちもアースと同じ男でしょう? ならわかるはずです。乗馬を始めたばかりのころに経験した奴もこの中にいるんじゃないですかね? 乗馬初心者のアースが、1時間以上も馬に乗っていたんです。」
ローウェルはそこで言葉を区切ると、「お判りでしょう?」と言いたげな表情で、再び口を開いた。
「痛くなったんですよ。」
ローウェルがそういうと、その場にいる思春期男子たちは、そろって何とも言えない表情でアースが消えていった茂みの方を向いた。
ーー
あらぬ誤解を受けているとも知らないアースは、新鮮な森の空気で心を浄化した後にみんなと合流した。
馬での移動を再開した後に、先程よりも移動のペースが落ちたような感覚を覚えたが、気のせいだと判断して周りの景色を楽しんだ。
そうして、目的の場所へとたどり着いた。
「青い空、広がる緑!! 心地い風も最高だね!」
俺はそう叫びながら、大草原の上に寝転んだ。
こちらの世界に来てから、自然を満喫するというのは初めてかもしれない。
「ああ、そうだな。緊張した心身がほぐれていくようだ。今も心地いいが、もう少しすると一面にヒマワリが咲きほこるんだ。その季節になったら、またみんなでこよう。」
「もちろん!」
そうして俺たちは、豊かな自然とおいしい昼食を満喫して、公務と学園生活の日常へと戻っていった。
ーー
これにて、「ウェルカムキャンプ編」終了です!
長い期間、お付き合いいただきありがとうございました!
次回は、「人狼編」を予定しています。
いよいよ、アースとキルの関係に進展が?
引き続きよろしくお願いいたします!
〇お知らせ
本作とは別の作品である「大好きな歌で成り上がる!」という作品が完結いたしました。
お時間のある方は、覗いていただけると幸いです。
場所を知っているキルによると、2時間ほど馬でかけていけば着けるらしい。
しかしあいにく、俺は乗馬経験がないため、キルの馬に相乗りさせてもらっている。
俺が前でキルが後ろにいるため、キルに包み込まれているような格好になっている。
大変心臓に悪い。
「こうしてみんなで、馬で出かけるなんて初めてッスね! 天気にも恵まれて、最高のピクニック日和ッスよ!」
「これはピクニックというのか? アルベルト殿下は、俺達に自然浴で心身の疲れをいやしてくるようにおっしゃったんだぞ。」
「昼食も持ってきたし、ピクニックと呼んでも別に問題ないと思うッスよ!」
ジールとキースの気の抜けるようなやり取りを聞きながら、俺は周りの風景に視線を向けた。
王都の華やかな風景とは違い、のどかでどこか懐かしいような自然が広がっている。それに、肌をなでる初夏を感じる爽やかな風が心地いい。それに、ものすごく大好きで落ち着く香りが近くにあって……。
「アース?」
「な、なに!?」
いつもより近く感じるキルの声に、いつも以上に過敏に反応してしまう。
突然大声をあげた俺にキルは少し驚いたようで、少し目を見開いた後に、ふっと笑って穏やかな笑みを浮かべた。
「アースがなにやらボーっとしていたから気になったんだ。初めての乗馬だからな。具合を悪くしたり、どこかいためたりしていないか?」
「……い、いや、大丈夫だよ。周りの風景を眺めていたんだ。急に大きな声を出して、ごめんね。」
「そうか、それならいいんだ。……ね、眠くなったらいつでも言ってくれ。俺がしっかりと支えるから。」
キルはそういうと、俺が落ちないようにためらいがちに俺の腰に手をまわした。
ちょ、ちょちょちょっと待って!
この状況は色々な意味でまずい気がする……。近いし、しっかりと触れられているし、それに……長い間眠っていたせいで、あっちの処理が全然できていないんだよ……。
そうして、落ち着かない気持ちを何とか抑え込みながら馬で駆けていくこと数十分、何かに気づいた様子のキルが俺の肩を叩いた。
俺が「どうしたの?」と言いながら振り向くと、そこには少年のように屈託のない笑顔を浮かべたキルがいた。
「アースの肩にとまっていたんだ。見てみろよ、ほら。テントウムシ。」
その瞬間、俺の何かがはじけ飛んだ。
こんな不意打ちのようなものを食らっては、ギリギリの均衡を保っていた俺の理性がもたない。
……だけど、決め手になったものが「テントウムシ」って……。虫だぞ、虫。
「……キル、ちょっと、止まってくれる?」
「あ、ああ。わかった。」
キルは心配そうな表情を浮かべながらも、側近のみんなに指示を出して、近くを流れていた小川の近くで小休憩をとってくれた。
「……ちょっと、新鮮な空気を吸ってくるね。」
新鮮な空気をたくさん吸える状況であったにもかかわらず、わけのわからない言葉を言い放った俺を、みんなは静かに送り出してくれた。
途中でキルが追いかけてこようとしていたが、ローウェルに引き留められていた。
ーー
「なんで引き留めたんだ、ローウェル?」
不機嫌を隠そうともしない声音で件の人物に話を振ると、当の本人はどこ吹く風で飄々と返事をした。
「そんなに怒らないでくださいよ、主。アースが少し、前傾姿勢になっていたのはお気づきでしょう?」
「ああ。それがなんだというんだ?」
「俺たちもアースと同じ男でしょう? ならわかるはずです。乗馬を始めたばかりのころに経験した奴もこの中にいるんじゃないですかね? 乗馬初心者のアースが、1時間以上も馬に乗っていたんです。」
ローウェルはそこで言葉を区切ると、「お判りでしょう?」と言いたげな表情で、再び口を開いた。
「痛くなったんですよ。」
ローウェルがそういうと、その場にいる思春期男子たちは、そろって何とも言えない表情でアースが消えていった茂みの方を向いた。
ーー
あらぬ誤解を受けているとも知らないアースは、新鮮な森の空気で心を浄化した後にみんなと合流した。
馬での移動を再開した後に、先程よりも移動のペースが落ちたような感覚を覚えたが、気のせいだと判断して周りの景色を楽しんだ。
そうして、目的の場所へとたどり着いた。
「青い空、広がる緑!! 心地い風も最高だね!」
俺はそう叫びながら、大草原の上に寝転んだ。
こちらの世界に来てから、自然を満喫するというのは初めてかもしれない。
「ああ、そうだな。緊張した心身がほぐれていくようだ。今も心地いいが、もう少しすると一面にヒマワリが咲きほこるんだ。その季節になったら、またみんなでこよう。」
「もちろん!」
そうして俺たちは、豊かな自然とおいしい昼食を満喫して、公務と学園生活の日常へと戻っていった。
ーー
これにて、「ウェルカムキャンプ編」終了です!
長い期間、お付き合いいただきありがとうございました!
次回は、「人狼編」を予定しています。
いよいよ、アースとキルの関係に進展が?
引き続きよろしくお願いいたします!
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本作とは別の作品である「大好きな歌で成り上がる!」という作品が完結いたしました。
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