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第三章 ウェルカムキャンプ編

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「それはいたって普通の感覚ッスよ。俺自身も、アースの今日の魔法を見て多少なりともそういう感情は浮かんできたッスよ。だから、そんなに自分を卑下する必要はないッスよ……キル。」


ジールは、気恥ずかしそうに俺のことを「キル」と呼んだ。
……懐かしいな。俺の側近になる前は、ジールにもそう呼ばれていたな。俺とジールは紛れもなく従兄弟の関係だ。年も同じということで気安く話し、互いに名を呼び合っていたものだ。今は主従の関係として、きっちりと接してくれているが、やはりこういうのも時にはいいなと感じる。

ここからは、従兄弟で幼馴染としての時間ということで、普段なら躊躇われることを全部話そうと思う。

「ジールはアースと同じ魔導士だから比べられることもあるだろうし、互いに意識することもあるだろうな。俺も、2人には気兼ねなく過ごしてほしいと思っているが、あまり役に立てていないな。正直言って、魔導士ではない俺がどこまで口出ししていいかわからないんだ。」


「キルが気にする必要はないッスよ。アルベルト殿下の側近同士も同じように、同じ役割の側近は比べられるものッスからね。」


「そうか……俺にできることがあったら言ってくれ。それにしても、ジールも多少なりともアースにそういう感情を抱いていたんだな。」


「そりゃー、抱くッスよ。だけど、今は尊敬の念の方が高いッスよ。魔法は、生まれ持った先天的な才能、属性や魔力量がものをいうッス。魔力制御の技術も先天的な才能がかかわってくるッスね。」


ジールはそういうと、そこで言葉を区切って、お茶をカップへと注いだ。俺も残り少ないお茶をいっきに飲み干し、ジールに差し出した。
ジールが言った先天的な魔導士としての才能は、アースがすべて高いレベルで持ち合わせているものだ。ジールはアースと同じレベルで魔法制御の技術は持ち合わせているが、属性と魔力量ではアースに劣るというのが客観的な評価だ。


「だけど、いくら魔力量が多く属性が豊かでも、発想力が豊かで新しい魔法を思いついても、それを支えるのは集中力と途方もない反復練習ッスよ。己の魔力を制御し、魔法を発動し持続させ、複数の思考を処理するための集中力に加え、いついかなる時も詠唱の途中で噛まずに、そして同レベルの魔法の質を保つのための反復練習ッス。ここが、魔導士の腕の見せ所ッスね。今日のアースを見てれば、2年間でどれだけの訓練を行ったのか、はっきりとわかるッスよ。何食わぬ顔で平然と上級魔法を連発し、攻撃魔法とは違い繊細でかつ緻密な魔力制御が要求される回復魔法で不可能とされた魔力回路を治療して、さらに回復魔法の発動中も会話をし、改善点を見つけていたッス。さらっとやっているから誰でもできることだと勘違いされると思うッスけど、その裏には途方もない努力がつみ重ねられているッス。同じ魔導士として本当に尊敬するッス。」



……ジールは、俺よりもアースのことをしっかり見て理解しているんだな。アースがあまりにも自然に回復魔法を行使して治療するものだから結果だけに目が行きがちだったが、その「自然」にとは本当に途方もない努力が必要なんだと気づかされた。



「だからキルがやるべきことは、アースに引け目を感じることじゃない。アースの努力を見て感じて、結果だけではなく、その過程に目を配ることだ。……っと、厳しいッスけど、従兄弟として進言するッスよ。まあ、キルだけじゃなくて、俺たちもするべきことなんッスけどね。」


「………ああ、よくわかったよ。ジールもこの2年間、努力を積み重ねてきたことを俺は知っているからな。」


「それをいうなら、キルもッスよ。騎士はどうしても活躍の機会が戦いの場面に偏ってしまうから、どうしても魔導士の活躍が日常では目立っちゃうっスよね。特にアースは、戦闘以外にも回復、感知とできることが多いッスからね。あと、色々と派手ッスからね。」


「あはははははは、そうだな。特に、阿修羅丸とかな。」



俺がそういうと、上から茶色い塊が降ってきた。俺たちはすぐに警戒態勢をとったが、すぐに警戒を解いて座りなおした。


「俺様参上! 俺の名前が聞こえたから来てやったぜ。」


「別に呼んでないッスよ。まったく、どこから入ってきたんッスか?」



俺はあっけに取られてすぐに反応できなかったが、ジールは思いのほか冷静だった。
なぜだろうか……。俺はまだ、この生物に色々と付いて行くことができていないのに……。



「ふっ……。俺は特別任務のために、あらゆるところに隠し通路を持っているんだぜ。お前たちの部屋の天井から降ってくるくらい造作もないことだ。」


「なるほど、理解したッス。くれぐれも魔物になれていない人や女性にはやらないように気を付けるッスよ。」


「うん、なぜだ? このチャーミングな姿を見れば、喜んで茶を淹れてくれるだろ?」


「チャーミングかそうでないかの前に、天井から得体の知れない生物が降ってくればビックリするものッスよ。……はいどうぞ、お茶っスよ。」




ジールはそういうと、阿修羅丸を抱きかかえてお茶と茶請けのクッキーを差し出した。
阿修羅丸はチャーミングな?手で、器用にカップを持ちお茶を飲みだした。



「………なあ、ジール。アースならわかるが、なんでそんなに自然に相手できるんだ? 俺がおかしいのだろうか?」


「なんでと言われても、阿修羅丸への対処の仕方はアースを見てればなんとなくわかるッスよ。キルは命の恩人ということで丁寧に接しているようッスけど、もう少し楽にしてもいいと思うッスよ。」

「………なるほど。」


「赤髪は意外に頭が固いのか? まさかとは思うが、脳みそまで筋肉でできている部類の騎士ではないだろうな?」



……今までは命の恩人ということで、丁寧語を使ったり丁寧に接したりしてきたが。なるほど、あまり必要なさそうだ。それに、少しイラっとしたしな。


「それは其方ではないか? 其方も剣を使っていただろう?」


「ふっ……。俺様を剣しか使えぬ者と一緒にするなど、笑止。っと、まあそんなことはどうでもいいんだ。アースのすごさについての話だったな。俺が思うアースのすごさは色々あるが……とりあえず、希少属性を高レベルで操れることだな。」



確かに、それもあるな。希少属性ということは先行事例が少なく、教えを乞うことが難しいということだ。

ど、どの属性も?……俺とジールは意図していなかったが、同時に阿修羅丸をみた。

すると、扉の向こうの方で阿修羅丸の名を呼ぶアースの声が聞こえてきた。その声が聞こえるや否や、阿修羅丸は短い足で部屋の扉を蹴破った。


「俺、参上! 痛っ!」

「何してるんだよ、阿修羅丸!」


見ると、首根っこを掴まれた阿修羅丸がアースに説教されていた。
すると、隣から乾いた笑い声が聞こえてきた。


「俺の部屋の扉……。」

「明日中に直るように手配するから。……今日は、俺の部屋にくるか?」

「そうッスね、それもいいッスけど……。ここは、阿修羅丸の主に責任を取ってもらうッスよ。」


その後、謝り倒すアースと笑顔のジールという2人をとりなすことで、俺の夜は更けていった。









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