異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo

文字の大きさ
上 下
128 / 151
第三章 ウェルカムキャンプ編

125

しおりを挟む

「なあ、アース。2年間の間に、其方は祖父上からいったい何を学んだのだ? まだまだ色々と習っていそうだが………。」


アルベルト殿下は若干の警戒心を孕んだ声で、そう聞いてきた。


「私が習ったのは基本的に魔法ですよ。戦闘や回復について教わりました。あとは調合と基本的な薬学ですね。それからもう1つが回避術です。」


「回避術とは何だ? 内容はイメージできるが………。」



アルベルト殿下と事情の知らない皆さんが首をかしげながら聞いてきた。
キルたちは事情を知っているようで、苦笑いをしていた。あ、ジールが遠い目をしている。うん、ジールも特訓を受けたんだね。
俺は綺麗な虹を思い浮かべて、遠くを見やった。



「文字通り、ひたすら相手の攻撃を回避する技術です。「近接戦闘に持ち込まれた程度で負けるような魔導士は護衛に必要ありません。」と穏やかな笑みを浮かべながら、カーナイト様が攻撃をし続けるので、その攻撃をひたすらよけ続ながら身につける技術なのです。カーナイト様の空間属性の攻撃は、少し当たるだけでも空間事削り取られるので、緊張感がありましたね。」


「………緊張感どころか、身体が欠損するんじゃないかと気が気ではなかったッスよ。ローウェルも楽しみにしているッスよ。」



俺とジールに温かい目を向けられてローウェルは、自分の体を抱きしめながら体合を震わせた。
俺はとりあえず、服を着ていないから寒いのだろうということにして、ローウェルに服を着るように促した。


「其方らが強くなっているのなら僥倖だ。ただ、強くなっているからといって気を抜くことは許さないからな。特に、今月末に行われるウェルカムキャンプでは、相手がC級の魔物しかいないからと油断しないように。」


アルベルト殿下は第一王子らしく、まじめな顔でそう言った。
俺達は神妙な面持ちで、「はい」と真面目に返事をした。………アルベルト殿下がわざわざそういうということは、なにか懸念点があるのだろうか?
すると、俺と同じことを考えたのか、キルが口を開いた。


「兄上。俺たちのウェルカムキャンプでは、何かが起こると懸念されているのですか?」


キルがそういうと、アルベルト殿下はふっと微笑んだ後に、パタパタと手を振った。


「いや、そういうわけではない。何か、突発的な危険を懸念しているのではなく、王族とその側近としていかなる時も緊張感を忘れるなということを言いたかったのだ。………
ただ、其方たちに伝えておくことがあるとすれば………最近、魔物の森が少し騒がしいということくらいだ。調査を今しているが、特段何か起こっているわけではないようだ。
だが念のため、其方たちの行く森には例年よりも少し多く人員を配置するつもりだ。王族のキルがいることだしな。」


「承知しました。その旨、心に留めておきます。」


「ああ。護衛対象に危機感があるのとないのでは天地の差があるからな。そうしてくれ。」


アルベルト殿下の言葉に俺たちは、頷いた。キルに向けていっていることだが、側近の俺たちに向けても側近としてしっかりと働けと言われているのを感じる。


「その話はまた後日行うことにする。それでは、今回の重要事項である本日の件の対外向けの説明について確認する。まず、アース1人の力であることは公表しない。理由は、希少性や特別性からアースが危険すぎるからだ。そこで、ザールと共同で回復に当たったとしようとしたが………。治療できるとなれば、国内外から厄介ごとが持ち込まれる可能性が高い。」


………確かにその通りだな。俺1人の時よりは、厄介ごとは減りそうだけど、ザール様の名前が挙がっても、回復依頼や研究依頼など国内外からの厄介ごとが少なからずあるに違いない。


「そこで、これによってローウェルは回復したことにする。」


アルベルト殿下はそういうと、まるで手品のように空のビーデンを取り出した。ビーデンとは、回復薬等を入れておく蓋つきの試験管のようなものだ。保存と劣化防止の付与魔法が
施されている。貴族はほとんど全員がこれを腰に提げている。いつ回復薬や魔力回復薬が必要になるかわからないからだ。貴族院では毎月中級のものが1本ずつ支給される。
………そうだ。素材が確保できるなら、上級の回復薬を俺が調合してキルたちに渡しておこう。


いや、それついてはまた後でだ。アルベルト殿下は一体、何を言おうとしているのだろうか? たとえ上級でも魔力回路は回復薬では治らないのに、どうするのだろうか?
俺達が首をかしげていると、ザール様が驚いたような顔で口を開いた。


「アルベルト殿下、まさか、エリクサーを使用したことになさるのですか?」

「ああ、そのとおりだ。」



エリクサー………どんな病気も怪我も、飲むだけで回復することができるまるで奇跡のような回復薬。
こんなものがあるなら、回復魔導士なんて必要ないじゃないかと俺は思ったことがある。しかし、現実はそんなに甘くないものだ。
エリクサーは、最難関と分類されるSS級ダンジョンの最後のボスを突破した上でさらに、低確率でドロップすることによって手に入れることができる。
どれくらい手に入らないかというと、各国の王族皇族が全力で手に入れようとしても、良くて1つストックできるかどうかというくらいのものだ。
そんな貴重なものを使ったことにするのか……?



「アルベルト殿下。確かに、エリクサーであれば魔力回路の治療も可能でしょう。……ただ、エリクサーほどの貴重で高価なものを、王族でも王族に連なる者でもなく、そして命の危機にも瀕していない侯爵家の次男に使ったなどとどれだけの者が信じるでしょうか?」



ローウェルには悪いけど、ザール様の言うとおりだ。
エリクサーとは本来、使うべきではないものだ。王族の危機、それも単なる王族ではなく国家存続にかかわるようなときに使うものであるべきはずだ。
侯爵家とは言えども次男でさらに、文官として側近になっている者に使うなんて正気を疑われてもおかしくはない。



「信じないだろうな。」



アルベルト殿下は、さも当然とでもいうような表情でそう言った。
相変わらず、考えていることの次元が一般人の俺とはまったく異なるようだ。




しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...