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第三章 ウェルカムキャンプ編

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それから俺たちは、兄上の案内でとある一室にたどりついた。どうやらここが、アルベルト殿下の執務室らしい。
兄上が扉のベルを鳴らすと、アルベルト殿下の護衛の1人が扉を開いて俺たちの姿を確認し、すんなりと中へ通してくれた。

中に入ると、大きな執務机に座るアルベルト殿下の姿が見えた。書類から顔を上げると、2年前よりもグッと成人に近づいたイケメンフェイスで俺に笑いかけた。



「久しぶりだな、アース。息災か?」



俺は王族に対する恭順を示すために、片膝をついて胸の前で両腕をクロスさせ、首を垂れた。



「お久しぶりでございます、アルベルト殿下。おかげさまで、有意義な2年間を過ごすことができました。カーナイト様の派遣を始めとしたご配慮に、感謝の念に堪えません。
アルベルト殿下におかれましてもご健勝のこととお慶び申し上げます。」


「ああ。そう俯いていては、顔も見えない。楽にしろ。」



アルベルト殿下はそういうと、パタパタと片手を振った。
俺は殿下の許しを受けて、立ち上がった。こうしてみると、アルベルト殿下とキルは結構似ている。まあ、俺の1番はキルだけどね。



「2年前に其方と約束したことがあったな。俺はキルたちを鍛えることに力を貸したわけだが、其方の方はどうだ?」


「はい。おかげさまで、守り切る力をつけることできたと思います。また、召喚したものとの関係についてですが………。」



俺は、兄上によって抱っこされてふんぞり返っている阿修羅丸に視線を向けた。
アルベルト殿下もさっきまでは極力視界に入れないようにしていたみたいだが、ようやく阿修羅丸に視線を向けた。



「報告に上がってはいたが、本当にこの珍妙な生物があの召喚された御仁なのか?」


「はい、そのとおりです。あの姿だと目立つと思い、普段はこの姿でいてもらっています。」


「あの姿では目立つと思って、この姿になったのか?」


アルベルト殿下は眉間にしわを寄せながら、キルに視線を送った。
何やら前にもこのような状況になったことがったけど、何が言いたいのだろうか? 珍妙とも言われたし、あまりお気に召さないのだろうか?
どうやら、2人の王子にはこのチャーミングな姿はあまり伝わらないらしい。あとで、ウェル殿下にも紹介したいな。



「そのようです、兄上。私も最初は面食らいましたが、冷静に考えてみると今の姿の方が目立ちにくいとは思います。」


「キルヴェスター殿下は、私の阿修羅丸に面食らっていたのですか? 初耳です。」


「………少し、驚いただけだ。今は慣れた。」


なるほど。どうやらキルは、少し驚いていたようだ。
全く気付かなかったな。感情を隠すのがうまくなっているのだろう。これも、2年間の間に身につけた貴族の嗜みなのだろうか? 



「手綱を握れているようで何よりだ。戦闘の方もしっかりと、手綱を握れているのだろうな?」


「俺様とアースが組めば、A級なぞ足元にも及ばないな! S級で楽しい、SS級で五分、それ以上で命を懸けるといったところだ。」


阿修羅丸がそういった瞬間、周囲は驚きの雰囲気に満ちるのと同時に、アルベルト殿下の側近の雰囲気が剣呑になった。
おそらく、第一王子に対する言葉遣いがあまりに失礼だからだろう。



「魔物風情が、アルベルト殿下にそのような言葉遣いを」


アルベルト殿下の背後に控える文官見習がとがった声で阿修羅丸と俺をにらみながらそう言う途中で、アルベルト殿下が片腕をスッと挙げて制した。



「控えろ。あの御仁は魔物風情ではない。そんな下等なものよりも、もっと上位の存在だ。それに、弟たちの恩人でもある。言葉遣いや物言いが失礼な程度、何の問題もない。」



アルベルト殿下がそういうと、非難した文官見習が「失礼しました。」と謝罪した。それと同時に、他の側近の雰囲気も和らいだ。
人ではない阿修羅丸に、人間の王族に礼を尽くせと言っても無理だ。そのことをわかってくれるアルベルト殿下に俺は、心の底から感謝した。
阿修羅丸はふんぞり返った態度で、「うむ」と頷いていた。




「ありがとうございます、アルベルト殿下。」


「構わん。国の脅威とならないなら、別にいい。そんなことよりも、A級が足元にも及ばないか。大きく出たな、アース?」


「い、いえ! 阿修羅丸が強いのであって、私自身が強いわけではございません。」


「其方はA級に勝てないのか? 俺はキルとキースをA級に勝てるくらいに鍛え上げたが、其方はそうではないのか?」



まるで、そんな弱い側近はいらないとでも言いたげな雰囲気で、アルベルト殿下は俺のことを見つめた。
貴族院1年生に対しての要求にしては、あまりに高いと思うんだけど………。


「勝てます。ただ、足元には及ばないと言えるほどの実力差があるわけではないです。一撃で倒せるほどの実力は、私にはまだございません。少なくとも、二撃は必要です。」


「………そうか、勝てるならいい。今日の話だが、其方はローウェルの魔力回路を回復するという認識で間違いないか?」


俺はそのとおりだという意味を込めて、軽くうなずいた。
俺が魔力回路を治療することについて、色々な情報操作の協力を要請しているのだ。



「1つ確認したい。其方は「悪魔の呪い」に加えて、今回も歴史的な偉業を成し遂げようとしているが、将来は何になるつもりだ?」



へ?
突然のことに、俺は頭が真っ白になった。
いや、言われていることの意味は分かっている。だけど、何になるつもりかと聞かれてもすぐに答えることはできない。
とりあえず、キルの側近を続けるというのが無難な答えだ。なぜなら俺は、キルの婚姻と同時に自由で気ままな旅に出るのだ。女性と家庭を築くのも想像できないし、何よりキルの幸せな姿を間近で見ながら生き続けることはできそうにない。


………とりあえず、キルの考えを聞くことにしようかな。
俺は困ったような笑みを浮かべながら、キルに視線を向けた。



「確かに、先に其方の主であるキルに意見を聞くべきだったな。キル、どうだ?」


「………私としては、アースの自由にさせたいと思います。アースならば、どのような道を選ぶことも可能だと思います。ただ、アースに受け入れてもらえるのならば、どのような道を選んだとしても、私の側近でい続けてほしいと思います。」



キルは優し気な、しかし確かな意思を感じさせる表情で俺のことを見つめた。
………そんな顔されたら、離れられないじゃないかよ。


「其方の主はそう考えているようだが、其方はどうだ? 第二王子の護衛魔導士という道でいいのか?」


「それ以外の道が私には考えられません。」

「なるほど。………では、それに付け加える形で回復魔導士も兼務するというのはどうだ? というのも、魔力回路を修復できる者をただの護衛魔導士としておくのは、非常にもったいないのだ。回復魔法を使うには、光属性を持ちかつ魔力量もあり、回復魔法を行使できる技術が必要となる。つまり、稀有なのだ。其方にとっても、回復魔導士という肩書があった方が、回復魔法を行使しやすいだろ? まあ、護衛任務に加え回復魔導士としての仕事が増えるというデメリットもあるが………どうだ?」



確かに、回復魔導士でない者に回復させるのは相手も怖いだろう。これからのことを考えたら、持っておいた方が良い気がする。
それに、その方がキルの役に立てる気がする。



「かしこまりました。お受けいたします。」


「助かる。魔導士は貴族院を卒業し、試験を受けなければなることができないが、回復魔導士はそうではない。貴族院に在学中でも試験に合格させすれば、学生でもなることが
可能だ。それだけ、回復魔導士の人材が少ないということだ。詳しいことは後程、ザールに聞くように。」


「ありがとうございます。」




そうして話がひと段落すると、昼食をとることになった。
2年間の間のキルやキースの様子を聞くことができて、楽しい昼食会だった。


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