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第三章 ウェルカムキャンプ編

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次の日、俺は馬車で貴族院へと向かった。
貴族院は白く大きな建物であり、初学院に通っていたときも何度か見かけていたので外観はなんとなくわかる。
ちなみに兄上は、貴族院の寮で生活している。アルベルト殿下が寮生活を選んだため、自動的にそうなったのだ。
キルはというと、寮生活ではなく今までどおり、王城から通うことを選んだらしい。貴族院に入学すると、王族の側近は
王城に部屋を賜ることができる。ということで、俺も今日から王城で生活することになる。


「アース様、貴族院に到着いたしました。」


屋敷からここまでついてきてくれた家の執事が、貴族院への到着を告げた。
さて、貴族院へ到着したようだ。やばいな、すごく緊張してきた。

俺は馬車から降りて、白く荘厳な貴族院を見据えた。
皆にも、キルに会うのも久しぶりだ。………キル、かっこよくなっているんだろうな。
俺は門を潜り抜けて、貴族院の扉へと続く石道を歩いた。周りには俺だけではなく、多くの生徒であふれている。
ここには赤色マントの生徒しかいないが、貴族院の中にはきっと赤色以外のマントをつけた生徒もいるだろう。
他国の生徒は寮で生活しており、寮は貴族院の中に内設されている。


「俺の前を歩いてんじゃねーよ! この、ぽっと出の薄汚い職人の息子風情が!」


嘲るような、そして怒鳴りつけるような声が急に聞こえてきたのでその方向を見ると、薄い紫がかった髪色の少年を中心に
その取り巻き立ちが、倒れ込んだ1人の少年を取り囲んでいた。


「カイン様の言うとおりだ! カイン様はバーグル侯爵家のご子息であらせられるぞ! 職人風情の息子が、誰の前を歩いているんだ!」


「ご、ごめんなさい………。」


倒れ込んだ少年は、おびえた表情をしながら彼らに謝っていた。
職人風情の息子………? どんなに優秀でも、貴族の子女でないと貴族院には通えないはずだ。ということは、彼の一族は爵位を賜ったばかりの元平民なのだろう。だけど、職人で爵位を賜ったのなら、相当のものを生み出す職人に違いない。

そして、あの態度のでかい少年、多分1年生ではないな。彼は、バーグル侯爵家のご子息か。バーグル侯爵家は西部を治めている貴族だったかな。あまりいいうわさは聞かない。


俺よりも身分は上だけど、無視して通り過ぎるという選択肢はないな。周りの生徒は、侯爵家が相手ということもあり、見て見ぬふりをして通り過ぎている。
だけど、貴族院には心強い規則がある。それは、貴族院では身分は関係ないという規則だ。つまり、身分を振りかざしているあの傲慢そうな彼が間違っているということだ。それに、多対一なんて卑怯だし、前を歩いていただけで突き飛ばすなんてひどすぎる。

俺は彼らの方へと歩いていき、そして割り込むように彼を背に庇った。



「何をしているのですか? 貴族院で身分を振りかざすのは禁止されているはずです。 それに、暴力もいけないです。」


「は? 何だ、お前。そのバッジ、1年だな。まあ、何でもいいがいったい誰の前に立っているんだ? 俺は侯爵家の跡取りだぞ!」



俺のことを知らない癖にやけに強気だな。まあ、それもそうか。侯爵家より上となると。公爵家か王族しかいない。そのレベルになると人数も少ないし、ある程度顔が割れている。だから、顔を知らないということはつまり、自分よりも格下だと、そう判断しているのだろう。まあ、事実だけど………。

俺はとりあえず無視して、倒れている少年に手を差し伸べた。


「わ、私のことはいいので………。」


「大丈夫。君は何も悪くないよ。そうだ、君も1年生だよね? よかったら、教室の場所を教えてくれないかな? 実は、今日が初登校で教室の場所がわかないんだ。」


「………わ、私でよければ。」


「ありがとう。じゃあ、行こうか。」




俺は彼の手を掴んで、立ち上がらせた。
すると、バーグル侯爵家のカイン様が、怒気を孕んだ声で叫んだ。



「勝手に話を進めるな! お前ら、この俺に逆らってダダで済むと思うなよ!」


「すみません。すぐに立ち去りますので、どうかお収めください。」


「なぜ、俺が怒りを収めなければいけないんだ? ナメるのも大概にしろよ。………少し、痛めつけた方がよさそうだな。俺は昨年の2学年の魔導士代表だったんだ。
頭をこすりつけて謝るなら、一発食らわせるだけで許してやるよ。」


バーグル侯爵家のカイン様はそういうと、右手を俺たちの方へと向けた。
俺はすぐに、少年を背中に庇った。穏便に済ませたいけど………氷壁を張るくらいならそれほど問題にならないかな………。


俺が氷壁を張ろうとすると、聞きなれた声より少しだけ低い声が聞こえてきた。
きっと、声変わりをしている最中なのだろう。


「アース? 登校初日から、何をしてるッスか?」


この声と、口調は………。


「ジール! 久しぶり!」





相変わらずのかっこかわいい顔だ。背は、俺と同じくらいだ。



「久しぶりッスよ………何をしているッスか?」



今度は先程よりもさらに低い声で、バーグル侯爵家のカイン様を見据えながら、ジールは聞いてきた。
バーグル侯爵家のカイン様は、引きつった顔をしながら、右手を下ろした。身分を振りかざす彼は案の定、自分より上の身分には弱いようだ。ジールはれっきとしたバルザンス公爵家の次男なのだ。



「特に、何でもないよ。バーグル先輩に、この貴族院のことを少し教わっていたところなんだ。どうやら、この貴族院では初対面の相手に攻撃魔法を放つことが挨拶らしいね。」


「そうだったんッスね。俺も貴族院にかよい始めて1週間しかたっていないから、しらなかったッスよ。それじゃあ、俺もバーグル先輩方とは初対面ッスし、どうすかアース?
久しぶりの合技で、盛大な挨拶でも?」



「それはいいね!」



意外にジールはのりのりだ。俺たちは貴族スマイルで、右手をバーグル侯爵家のカイン様たちに向けた。



「ご、合技だと? バルザンス様は別として、お前のようなたかが1年が、そんな高等なことできるはずが………」


「カ、カイン様! も、もしかして、そこの銀髪は初学院で「白銀の狼」と呼ばれていた、キルヴェスター殿下の側近では………。同じ側近のバルザンス様ともお知り合いの様ですし………。」



取り巻きの一人がそういうと、バーグル侯爵家のカイン様は目を見開いた。
そうだよね、身分が大好きな君が王族の名が出たらそうなっちゃうよね。



「ふん! 今日はこのくらいにしておいてやる。オルト………助かったと思うなよ?」



バーグル侯爵家のカイン様は、オルトと呼ばれた少年をにらみつけた後、貴族院の扉の中へと入っていった。
とりあえず、今回は大丈夫そうかな………?

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