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第三章 ウェルカムキャンプ編

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「なーんだ、そういうことだったんですね。俺はてっきり、ようやく………いえ、何でもありません。」



てっきり、ようやくとはいったい何を言おうとしていたのだろうか?
まあ、深く掘り下げるよりもさっさと次の話に移して、ローウェルにはいち早く忘れてもらうとしよう。



「そういうことだよ、ローウェル。それよりも、明日の件の話を聞いてもいい? ローウェルの治療の話だよね?」


「ああ、そうだぜ。主、俺から話してもいいですか?」


「ああ、頼んだ。」


「了解です。先ほど主からお話があって、明日アルベルト殿下とザール様が立ち会ってくださるそうです。アース個人が治したのではなく、第一・第二王子とトップクラスの回復魔法の使い手、そして水回復魔法の使い手が協力して魔力回路を治したという筋書きにすることになったようだ。キルヴェスター殿下が、直接お二方に掛け合ってくださったんだ。」



なるほど、そういう筋書きを用意してくれたのか。ぽっとでの貴族院1年生の俺が、魔力回路を治したとあっては、色々と面倒なことになりそうだから信用のある人たちの共同という形にすると同時に、初の魔力回路治療成功ということで集まる注目を分散してくれるということらしい。短い時間の中で、キルがここまで段取りをしてくれたことに感謝しないとな。



「キル、掛け合ってくれてありがとう。」


「ああ、当然だ。俺の側近のことだからな。」


「うん。じゃあローウェル、明日はよろしくね。報告ありがとう。」


「ああ、こちらこそよろしく頼むぜ。じゃあ、俺は部屋に戻ります。………お2人とも、お邪魔しました。」




ローウェルはそういいながら意味ありげに笑うと、颯爽と部屋をあとにした。
ローウェルは、絶対楽しんでいるし、何かを勘違いしているようだ。あとで、しっかりと問い詰めることにしたい。




「じゃあ、キル。改めて回復とマッサージをするから、ベットに横になってくれる?」


「ああ、わかった。」




それから俺は、キルの回復とマッサージを行った。
キルはいつもどおりというかなんというか、そのままぐっすりと眠ってしまった。


俺も今日はぐっすりと眠れそうだな。ベットはキルが使っているし、俺はソファーかな。っと、その前に少し休憩しようか。
俺は上半身裸で寝ているキルの横に腰かけた。懐かしいな………キルの匂い。


そこで、俺の意識はぷっつりときれてしまった。








ーー





温かいし、いい匂いだな。しかもスベスベで、触り心地がいい。



「おい、アース!」



ん? なんか、俺のことを呼ぶ声が聞こえてくるな。キルの声だろうか、いまいい気持ちで寝ているのに………。



「アース、寝ぼけているのか? もう、起きる時間だぞ!」



俺は、焦るようなキルの大声につられて、ゆっくりと目を開いた。
………ん? 何で、目の前が一面肌色なのだろうか? それに、今俺の手が触れているこの板チョコような感触のようなものは一体………。



「うあーーーー! ごめん、そのまま眠ってしまったみたい!」


どうやら俺は、昨晩そのまま眠ってしまい、今の今までキルのことをバックハグして眠ってしまっていたらしい。………まさか、寝ぼけながらキルの体を触りまくっていたなんてことはないよな………?


「………キル、一応聞くけどキルに何か迷惑をかけたわけではないよね?」


「あ、ああ。………俺も、今起きたところだ。」



そ、そうか………よかった。俺の隠している欲望が爆発していなくてよかった。どうやら、起きがけに腹筋を少し触った程度で済んだようだ。俺の魔の手がキルの下腹部にまで伸びていたら、弁解のしようがなかった。
俺も身体の成長にしたがて、性欲というものも強くなってきた。次は何が起こるのかわからないし、これからはキルと一緒に眠らないように気を付けたい。



「お、俺、とりあえず部屋に戻るな! また、朝食で!」


「う、うん。」



キルはそういうと、上着をさっさときて、自分の部屋へと足早に戻っていった。
俺も色々とリフレッシュしたいから、シャワーにでも入ろうかな。








ーー






※キルヴェスター視点



俺は、キルヴェスター・アーキウェル。このアーキウェル王国の第二王子だ。
今は、色々とリセットしたいため、冷たいシャワーを浴びている。

昨日は3年ぶりに、俺の大切な相手、アースと再会した。はじめは、なかなか素直になれなかったが、徐々に昔のように話すことができるようになった。

それはすごくうれしかったのだが、問題は昨晩だ。
アースと上半身裸で向き合うことで、俺は色々とおかしくなってしまった。好きな人に自分の身体を触ってほしいというのは普通のことかもしれないが、自分からアースの腕を引いて触らせてしまった。
一方のアースは、緊張していたようだが、次第に俺というよりは筋肉の分析に夢中になっていたように思える。自身は筋肉がつきにくいためか、他人の筋肉にあこがれを抱いているのだろうか?

まあ、そこまではいいとしてだ。問題は、就寝時だ。
俺はアースのマッサージで、自然と眠ってしまったが、寝ている最中にくすぐったさを感じて目が覚めた。
寝ぼけた頭ですぐに、アースが俺のことを後ろから抱きしめているとわかった。アースは寝息を立てて、完全に眠っているようだった。どうやら、俺のことを抱き枕かなにかと勘違いしているらしい。心臓には悪いが、まあ我慢できる範囲だと自分に言い聞かせ、俺は再び目を閉じた。

しかし、アースの手がゆっくりと動いているのを感じた。アースは寝息も立てているし、完全に寝ぼけているのだろう。その手は次第に、俺の脇付近まで登ってきた。


くすぐったい………。


しっかりと触られていないので、我慢できなくはないがもともと俺は脇が弱いのだ。近くに手があるだけで、くすぐったさを感じてしまう。俺はアースを起こさないようにと、耐えることにした。


しばらくすると、寝返りを打つかのようにアースは体全体をゆっくりと動かした。それと同時に、俺の脇付近にあったアースの手はゆっくりと下に降りていった。
よかった、とりあえずこれで脇から手が離れたようだ。



しかし、安心してもいられなかった。
次は、俺の腹筋の溝をなぞるようにアースの手はゆっくりと動き出した。アースはどんな夢を見ているのだろうか?
何と勘違いしているのかはわからないが、まあこれくらいならさっきよりはましだ。俺は再び目を閉じた。

もう少しで眠れそうだと、うたた寝を繰り返していると緊急事態が発生した。
就寝前にアースが興味津々だった、骨盤から下腹部にかけての筋肉をアースの指がなぞり始めたのだ。


その先はダメだと、さっきも………。
いや、それでもいいのかもしれないな………って、やっぱりだめだ。そんなことをしたら、明日からアースにどんな顔をで接すればいいのかわからなくなってしまう。


っん! まずい!
俺があれこれと考えている間に、アースの手はぎりぎりのところまで来ていた。
俺はすんでのところで、アースの手を掴んだ。

やばい、俺の心臓が激しくなっている。好きな人の手が、俺のにこんな近くに………。



あ………俺って、最低だな。
寝ている相手に、盛っているなんて………。


俺はこれ以上の被害を防ぐためにも、アースの手を握り込んで自由に動かせないようにした。
そして、自分を戒める意味で、自身の熱をそのままにし、眠ることにした。
とりあえず、服を着てから寝るようにしようか………。いや、俺が悪いのか? 寝ぼけているアースの方が悪いような………あとで俺もアースを触り返して………。いや、俺の自制が利かなくなってしまう。やめておこう。

さて、この状態で眠れるかな………。





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