93 / 149
第二章 初学院編
92
しおりを挟む
※久しぶりとなります。アース視点に戻ります。
「なぜだ! なぜ、ーーーが死ぬ必要があるんだ!」
「これが一番よい選択なのです。どの道、この国はもう終わりです。わたくしの命一つでこの争いが終わるのならば、最後の王族として喜んでこの命を差し出しましょう。」
「ふざけるな! 俺が、俺が必ず守るから。だから……。」
「もう十分守ってくれましたよ。そのような姿になってまでね。ありがとう、そしてごめんなさい。」
「待て、俺はまだ…」
これは、夢なのか? この2人の人物の事は知らないし、誰かの記憶の一部だろうか? それに、この男性の方の格好は和装だ。そして、額からツノが生えている。彼を表現するのに一番ふさわしい呼び名は、そう、鬼人だ。
うん? 今度は違う声が聞こえてきたな。
「主、しっかり食事をとってください。それが難しいならばせめて、食事をとってください。もう二週間になります。このままでは、主人の身体が保ちません。お願いですから、どうか……。」
「……眠れないんだ。目を瞑ると、あの時の血の感触や光景を鮮明に思い返してしまうんだ。それに、食事も喉を通らないんだ。こうして、アースのそばにいることが一番気が休まるんだ。」
「それは……。」
これは、聞き慣れた声だ。俺はどうやら、この世界でまだ生きていていいようだ。
嬉しいな……。だけど、聞き捨てならない言葉が聞こえたな。二週間、食事も睡眠もほとんどとっていないだと? 俺がこんな状態になっているせいで、みんなには随分と心配をかけてしまっているようだ。俺が起きなければ、俺の主が生命の危機に瀕してしまう。今すぐにでも、なんとしても起きなければならないようだ。
ーー
「殿下、軽食だけでもどうッスか。俺たちも一緒に食べるッスから。」
「ありがとう。だけど、胃に食事を入れたくないんだ。気分が悪くなりやすくなるし、それに空腹時の方が気が紛れるんだ。だから、アースが目覚めるまでは食事は」
「……キ、キル。食事はしっかり取らないとダメだよ。それから、睡眠もね。」
俺はそういった後、ゆっくりと目を開けた。大きな声は出せないし、目を開くとしばらく浴びていなかった光で目が眩む。少し目が光に慣れてくるとそこには、驚いた顔でかつ涙を流すみんなの姿が見えた。
「えーと、おはようでいいかな? 心配をかけてしまって、本当にごめんね。」
「「「「アース!」」」」
「すぐに人を呼んでくるッス!」
「いや待て、ジール。今は夜中だし、アースも起きたばっかりだから人があまりくれば疲れるだろう。ザール様に知らせるだけにしといて、明日みんなに伝えようぜ。」
「確かにそのとおりッスね。了解ッス。父上に報告してくるッス!」
ジールはそういうと、軽快な足取りで部屋を飛び出していった。
ジールは本当にすぐに戻ってきた。そう、ジールが二人で戻ってきたのだ。
「アース、こちらは俺の父上ッス。血液回復魔法で、アースを回復させたッス。」
「お初にお目にかかります、アース様。その節は妹と殿下の名誉を回復してくださり、本当にありがとうございました。ご気分はいかがでしょうか?」
ジールの父上だと……? ジールと兄弟と言われても何ら不思議ではないくらいの童顔だ。これで二児の父で現公爵で外務大臣だというのだから、一種の詐欺だな。
「お初にお目にかかります。アースと申します。気分は大丈夫ですし、痛みも特にありません。本当にありがとうございます。」
「いえいえ、僕も安心いたしました。栄養を補給した方がよろしいかと思いますが、何か食べられそうですか?」
「ありがとうございます。では、お腹に優しそうなものを少しだけいただきたいですね。」
「かしこまりました。すぐに用意させますね。」
あ、そうだ。1人で食べるのもなんだし、キルもほとんど食べてないらしいから、せっかくだから一緒に食べようか。側近のみんなは食べたのだろうか?
「あの、少し待っていただいてもよろしいでしょうか? キルもほとんど食事を取ってないんだよね? 食べられそうなら、一緒にどうかな?」
俺がそういうと、キルは一瞬のためらいを見せた後、首を横に振った。うーん、遠慮しているのかな? キルとまだ話せていないから、食べながらゆっくりと話したいんだけどな。それに、ちょっと強引にでも食べて眠ってもらわないと、顔色からして早々に倒れてしまうと思う。
「キル、一緒に食べよう。キルも食べないとダメだよ。」
「……わ、わかった。」
「うん、ありがとう。他のみんなは……キルと同じであまり食べてもないし、眠ってもいないみたいだね。今日はここで、みんなでたべてそして寝ようか。うん、そうしよう。」
「では、その様に致しましょう。それでは、僕はこれで失礼しますね。殿下と側近の皆さんで、積もる話もあるでしょうから。」
ザール様は自身の側近に素早く指示を出した後に、そういって退出して行った。気を遣ってくださって、ありがとうございます。少しすると、メイドが十数人やってきて俺たち五人分の食事の用意やら、寝台の準備を始めた。
ーー
さてと、ものの数分で準備が完了してしまった。俺はまだ起き上がるのが難しいということで、ベットの上で食事をとることになった。俺を気遣ってか、みんなも俺の周りで食事をとってくれるようだ。
「俺が強引に、食事や寝台を準備してしまったけど大丈夫だったかな? 大丈夫そうなら、早速食べようか。」
俺がそういいながら、みんなの方を向くと、みんなは呆気にとられたような顔をしていた。なぜ、みんなはポカーンとしているのだろうか? 確かに、メイドの皆さんの迅速なセッティングには驚いたけど……。
「えーと、みんなどうしたのかな? 俺、何か変なことをしたかな?」
「い、いや、さすがだなと思っただけなんだ。」
「そうッスね! そんな感じッス。」
「……ある意味本当にすごいな。」
え? なに、なんだよ! 俺、そんな変なことをしたかな? 側近組は遠い目をしながら、微笑んでいた。一方キルはというと、俯いて泣きそうな顔をしていた。
「なぜだ! なぜ、ーーーが死ぬ必要があるんだ!」
「これが一番よい選択なのです。どの道、この国はもう終わりです。わたくしの命一つでこの争いが終わるのならば、最後の王族として喜んでこの命を差し出しましょう。」
「ふざけるな! 俺が、俺が必ず守るから。だから……。」
「もう十分守ってくれましたよ。そのような姿になってまでね。ありがとう、そしてごめんなさい。」
「待て、俺はまだ…」
これは、夢なのか? この2人の人物の事は知らないし、誰かの記憶の一部だろうか? それに、この男性の方の格好は和装だ。そして、額からツノが生えている。彼を表現するのに一番ふさわしい呼び名は、そう、鬼人だ。
うん? 今度は違う声が聞こえてきたな。
「主、しっかり食事をとってください。それが難しいならばせめて、食事をとってください。もう二週間になります。このままでは、主人の身体が保ちません。お願いですから、どうか……。」
「……眠れないんだ。目を瞑ると、あの時の血の感触や光景を鮮明に思い返してしまうんだ。それに、食事も喉を通らないんだ。こうして、アースのそばにいることが一番気が休まるんだ。」
「それは……。」
これは、聞き慣れた声だ。俺はどうやら、この世界でまだ生きていていいようだ。
嬉しいな……。だけど、聞き捨てならない言葉が聞こえたな。二週間、食事も睡眠もほとんどとっていないだと? 俺がこんな状態になっているせいで、みんなには随分と心配をかけてしまっているようだ。俺が起きなければ、俺の主が生命の危機に瀕してしまう。今すぐにでも、なんとしても起きなければならないようだ。
ーー
「殿下、軽食だけでもどうッスか。俺たちも一緒に食べるッスから。」
「ありがとう。だけど、胃に食事を入れたくないんだ。気分が悪くなりやすくなるし、それに空腹時の方が気が紛れるんだ。だから、アースが目覚めるまでは食事は」
「……キ、キル。食事はしっかり取らないとダメだよ。それから、睡眠もね。」
俺はそういった後、ゆっくりと目を開けた。大きな声は出せないし、目を開くとしばらく浴びていなかった光で目が眩む。少し目が光に慣れてくるとそこには、驚いた顔でかつ涙を流すみんなの姿が見えた。
「えーと、おはようでいいかな? 心配をかけてしまって、本当にごめんね。」
「「「「アース!」」」」
「すぐに人を呼んでくるッス!」
「いや待て、ジール。今は夜中だし、アースも起きたばっかりだから人があまりくれば疲れるだろう。ザール様に知らせるだけにしといて、明日みんなに伝えようぜ。」
「確かにそのとおりッスね。了解ッス。父上に報告してくるッス!」
ジールはそういうと、軽快な足取りで部屋を飛び出していった。
ジールは本当にすぐに戻ってきた。そう、ジールが二人で戻ってきたのだ。
「アース、こちらは俺の父上ッス。血液回復魔法で、アースを回復させたッス。」
「お初にお目にかかります、アース様。その節は妹と殿下の名誉を回復してくださり、本当にありがとうございました。ご気分はいかがでしょうか?」
ジールの父上だと……? ジールと兄弟と言われても何ら不思議ではないくらいの童顔だ。これで二児の父で現公爵で外務大臣だというのだから、一種の詐欺だな。
「お初にお目にかかります。アースと申します。気分は大丈夫ですし、痛みも特にありません。本当にありがとうございます。」
「いえいえ、僕も安心いたしました。栄養を補給した方がよろしいかと思いますが、何か食べられそうですか?」
「ありがとうございます。では、お腹に優しそうなものを少しだけいただきたいですね。」
「かしこまりました。すぐに用意させますね。」
あ、そうだ。1人で食べるのもなんだし、キルもほとんど食べてないらしいから、せっかくだから一緒に食べようか。側近のみんなは食べたのだろうか?
「あの、少し待っていただいてもよろしいでしょうか? キルもほとんど食事を取ってないんだよね? 食べられそうなら、一緒にどうかな?」
俺がそういうと、キルは一瞬のためらいを見せた後、首を横に振った。うーん、遠慮しているのかな? キルとまだ話せていないから、食べながらゆっくりと話したいんだけどな。それに、ちょっと強引にでも食べて眠ってもらわないと、顔色からして早々に倒れてしまうと思う。
「キル、一緒に食べよう。キルも食べないとダメだよ。」
「……わ、わかった。」
「うん、ありがとう。他のみんなは……キルと同じであまり食べてもないし、眠ってもいないみたいだね。今日はここで、みんなでたべてそして寝ようか。うん、そうしよう。」
「では、その様に致しましょう。それでは、僕はこれで失礼しますね。殿下と側近の皆さんで、積もる話もあるでしょうから。」
ザール様は自身の側近に素早く指示を出した後に、そういって退出して行った。気を遣ってくださって、ありがとうございます。少しすると、メイドが十数人やってきて俺たち五人分の食事の用意やら、寝台の準備を始めた。
ーー
さてと、ものの数分で準備が完了してしまった。俺はまだ起き上がるのが難しいということで、ベットの上で食事をとることになった。俺を気遣ってか、みんなも俺の周りで食事をとってくれるようだ。
「俺が強引に、食事や寝台を準備してしまったけど大丈夫だったかな? 大丈夫そうなら、早速食べようか。」
俺がそういいながら、みんなの方を向くと、みんなは呆気にとられたような顔をしていた。なぜ、みんなはポカーンとしているのだろうか? 確かに、メイドの皆さんの迅速なセッティングには驚いたけど……。
「えーと、みんなどうしたのかな? 俺、何か変なことをしたかな?」
「い、いや、さすがだなと思っただけなんだ。」
「そうッスね! そんな感じッス。」
「……ある意味本当にすごいな。」
え? なに、なんだよ! 俺、そんな変なことをしたかな? 側近組は遠い目をしながら、微笑んでいた。一方キルはというと、俯いて泣きそうな顔をしていた。
178
お気に入りに追加
3,571
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる