異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo

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第二章 初学院編

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「さあ、飲んでくれ。あと、お茶菓子も用意したから好きに食べてくれ。」



テーブルにはどこかのパーティーかを思わせるような、数々のお茶菓子が用意されていた。お茶は………俺が良く飲んでいるロイヤルミルクティーかな? お茶菓子ははちみつを使ったものが多く並んでいる。最近のマイブームのはちみつだ。見る人が見れば胸焼けしそうなレパートリーではあると思うが、俺は甘党なのでとてもうれしい。だけど、キルは甘いものは食べるには食べるけど、甘党というほどでもないはずだ。現に、キルのお茶はストレートティーだし……。

ま、まあせっかく用意してくれたのだから喜んでいただこう。キルも甘いものを食べて、この後のことについて少し気を紛らわせたいのかもしれない。



「じゃあ、お言葉に甘えていただきます。」


俺は最初にロイヤルミルクティーに口をつけた。………あれ、これは元一般人の俺にもわかる。かなり高い奴だ。俺も貴族だから、高級なものを普段飲んではいるがこれはそれとは比較にならないと思う。香りが段違いにすごいし、ミルクもおいしい。これが王族クオリティーなのか?



「どうだ………?」


「おいしいよ! 冗談抜きで、こんなにおいしいお茶はいままで飲んだことないよ。」


「ほ、本当か!? よかった………。じゃ、じゃあ、次はこっちのお菓子を食べてみてくれ!」



キルはあからさまにホッとした表情を浮かべて、次々にお菓子を勧めてくれた。どれもものすごくおいしかった。だけど………なんというか、餌付けされている気持になった。というかもしかして俺、もてなされているのか………?



「えーとキル、もしかして俺のことをもてなしてくれてるのかな?」



俺がそういうと、お茶を飲んでいたキルの動きがぴたりと止まった。あれ、もしかしてこういうのってあまり言ってはいけなかったかな?

俺がゆっくりとキルの様子をうかがっていると、キルはカップをソーサラーに置き、ゆっくりと息を吐いた。


「………客人が来るんだから、もてなすのは当たり前だろ。………だけど、それだけでもない。俺にとっての恩人が初めて俺の部屋に来てくれたんだ、これぐらいはするさ。」



恩人………。ストレートにそういわれると、ものすごく照れるんだけど………。俺はどんな顔をすればいいかわからず、とりあえず下を向いて「ありがとう」と言った。

少しの間沈黙が流れたが、流石に俺は我慢の限界がきて、キルの本棚を見るために席を立った。そこであるものを見つけた。それは、俺が手に入れようとしても完売していた本、『銀の薔薇』だ。噂の銀色の君をこの目で確かめようと本を探していたのだが、爆発的な人気作ということもあり、売り切れていた。キルが持っていたとは意外だ。買うのではなくて、始めから持っている人から借りるという手もあったか。




「キルもこの本を持っていたんだね。俺も読みたいと思って探してたんだけど、売り切れていたんだよ。」


「あー、それか。それはマーガレットが前に来た時に、俺にも読んでみてほしいとくれたものだ。読みたければ、持っていってもいいぞ。」



マーガレット様もここに来たことがあるのか………。まあ二人は幼馴染だし、お互いの呼び方も親しい間柄を表しているものな………。実際初学院でも二人は結構話しているのだ。これは幼馴染ゴールパターンで………って、そういう想像はやめよう。俺はキルが幸せになってくれるなら、それでいいんだ。


「ありがとう。噂の銀色の君をこの目で確かめてみるよ。」


「だいぶ違うとは思うが………まあ、確かめてみてくれ。じゃあそろそろ、行こうか。」




キルの一言で俺とキルは、王城の裏手側へと向かった。キルには結構距離があると言われたが、歩くくらいなら俺の体力でも可能だ。









――









十数分ほど歩くと、王城の裏手側に着いた。そこは一面花畑となっており、歴代の王族が埋葬されていると言われると納得してしまうような光景が広がっていた。

お墓に行くにはもう少し別の道を行く必要があるようだ。



「先週アルベルト殿下が道は大丈夫かと聞いていたけど、キルは事前に知っていたの?」


俺がそう尋ねると、キルは遠くの空の方を見た。あ、これは………。キルの母についての話題になると時々見せる、切ない顔だ………。



「昔、調べたんだ。罪滅ぼしとしてな。」



「母親殺し」と陰で呼ばれ続け、その罪滅ぼしとして母親の埋葬場所を調べたということか………。それは………。昔といっても六歳くらいのはずだ。そんな小さい時にどれだけの思いで、調べたんだ………。

でも今は、違う。罪滅ぼしで向かうわけではない。



「………今は違うよ。キルも罪滅ぼしのために向かうのではないよね?」


「………ああ。俺は罪を犯していないと、お前が教えてくれたからな。」



キルはそういうと、優しげな表情で微笑んだ。それから俺たちは、この神聖な空間をゆっくりと歩いた。






少し歩くと、前方に赤い石碑が見えてきた。そこには満面の赤い薔薇が咲き誇っていた。ここが、おそらく………。


「ここが母上の………ヴィーナ・アーキウェルの墓だ。ここに来るまでずいぶんと時間がかかってしまったな。」


「ヴィーナ様もきっと喜んでおられると思うよ。じゃあ俺は、後ろに控えているから。」



俺がそういうと、キルはゆっくりと頷いた。しかし、なかなか石碑に近づこうとしなかった。きっと心のどこかでまだ、キルを縛るものがあるのだろう。だからこそ俺が、今日ここにいるのだ。

俺はキルの背中をそっと押した。あまり強くは押さなかったが、キルはゆっくりと前へと歩み始めた。そしてキルは石碑の前で立ち止まり、手を合わせた。



『………母上、八年以上もここに来ることができず、申し訳ございませんでした。俺は………今とても楽しい生活を送っています。母上、この指輪………ありがとうございました。呪いなんてひどいことを思ってしまっていて、申し訳ございませんでした。母上からの贈り物………大切にします。それから………くっ………。た、たくさん話したいことがあるのですが………うっ………、うまく言葉にできなくて………。とにかく、今とても充実しています。またここに、話しにきてもよろしいでしょうか? これからも報告したいことがたくさん増えると俺は思うのです。さ、最後に………お、俺のことを………俺のことを生んでくださって、本当にありがとうございました。』



母親殺しといわれのない悪意を向けられ続けた少年が、今、生んでくれた母親に感謝をしている。

キル、そしてヴィーナ様………本当によかったですね………。

ダメだ俺、こういうのは我慢できないんだ………。俺が泣くのはおかしいけど、あふれてくる涙を止められない。俺は涙をボロボロと流してしまった。


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