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第二章 初学院編

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今日は待ちに待った俺の歓迎会だ!


というようなモチベーションにはならず、当日を迎えた。歓迎会を催してくれるのはとてもうれしい、だけど人が多すぎる! これで緊張するなと言う方が、無理な話である。

とはいっても、歓迎会の会場に馬車で向かっている今、逃げ道はもうない。色々な人とたくさん話せるという楽しみな点もあるので、楽しんでいきたい。



「アース様、会場に到着いたしました。」



御者が会場への到着を知らせてくれた。俺はゆっくりと馬車を下りて会場のレストランを眺めた。

あっれれ~おっかしいぞ~。

目の前にはレストランではなく、城があった。御者がまち違えてしまったのかな? 御者の方を見てみると、にこやかに俺のことを見ていた。これは………間違っているわけではなさそうだ。
ということはここが会場のレストランなのだろう。レストランというから、前世のファミレスのようなところを想像していたけど、俺たちは貴族だった。公爵令嬢のマーガレット様がわざわざ「高級な」レストランと言ったのだ。貴族は普段から俺からすると高級なものを使用しているのだから、貴族が「高級」とわざわざ口に出すということはそういうことなのだ。この様なお城のようなレストランが登場しても不思議では無い。だけど、ただ座って食事をするというわけではなさそうだ。
ま、まさかダンスとかあるわけではないよな? いや、大丈夫なはずだ。確か社交界デビューは貴族院入学と同時だったはずだ。

よし、とりあえず行ってみよう。








――







中に入るときらびやかな空間が広がっていた。本当にこんな世界があるんだな………。

俺が感心していると、大きな拍手に包まれた。見ると、会場にはすでに全員が揃っているようだった。俺の集合時間は少し遅めに設定されており、参加者は早めに集合して待ってくれていたようだ。素晴らしい心遣いである。


「さあアース様、こちらにいらしてくださいませ。」


今回の幹事であるマーガレット様が、俺を中央へと呼んでくれた。俺は恥ずかしい気持ちをおさえながら、マーガレット様の近くにいるキルたちに意識を集中させて中央へと向かった。


「では本日の主役であるアース様のお言葉をもって、乾杯といたしましょう。ではアース様、一言お願いいたしますわ。」


まあ、主役からの挨拶は定番だよな………。俺はマーガレット様からの促しを受けて、一歩前に出た。



「本日はこのような素晴らしい歓迎会を催してくださりありがとうございます。幹事であるマーガレット様を始め、たくさんの方々にご協力いただいたと聞き及んでいます。この一週間の初学院での生活は、私にとって未知のものばかりでしたが、どれも新鮮で楽しい物でした。これは皆様が社会に疎い私のことを、寛容に受け入れてくださったからだと思っております。本当にありがとうございます。本日は皆様のことをできるだけたくさん教えていただければ幸いです。では、グラスをお手にお持ちください。 乾杯!」


「乾杯!(一同)」







それから俺は、まだかかわりがなかったクラスメイトや、他クラスの生徒と色々な会話を楽しんだ。立食形式ということもあり、自由に食事をとることができた。どれもこれも高級店ということでおいしかった。
アルベルト殿下一同やキルたちは、一歩引いて他の人と会話をしていた。おそらく普段から特に俺とかかわる機会が多いから、他の人に話す機会を譲ってくれているのだろう。そして少し時間がたつと、ふと、俺とキルの話へと会話が移った。やはり、引きこもりの俺と王子であるキルがなぜ編入前から知り合いだったのか、疑問だった人が多いみたいだ。



「キル殿下とアース様はどこで知り合われたのか、お聞きしてもよろしいかしら?」



キルのことをキル殿下と呼ぶのは、今のところマーガレット様だけだ。マーガレット様が代表となって色々聞いてくれるみたいだ。



「はい、構いませんよ。キルヴェスター殿下とは、ジーマル家の療養地で出会いました。夏休み期間に、避暑のためにやってこられたキルヴェスター殿下と知り合ったのです。俺は当時同い年くらいの子供と出会うことができて喜んでしまって、キルヴェスター殿下はその俺に付き合ってくださったのです。」



もちろん避暑が目的なのは嘘で、本当は世間から離れたかったというのがキルの本当の目的だがそんなことは言わない。



「まあ、そうだったのですわね。当時はキル殿下が殿下だと知らなかったため、最初の自己紹介の時に驚いていらしたのですね。」



「ええ、その通りです。」



マーガレット様の会話回し能力が素晴らしい。流石公爵令嬢だ。普段から色々な人の会話を回しているのだろう。



「では、ご両親の紹介ではなかったのですわね。私はてっきり、避暑の間の遊び相手として選ばれてお知り合いになったものだと思っておりましたわ。ということは、どのようにお二人は出会われたのでしょうか?」


最初の出会いか………。確かにみんなからしたらそれも気になるよな。それに関しては特にあの件に抵触するわけでもないから、話しても大丈夫そうだ。



「そうですね………。俺が森で迷子になっている時に、茂みから飛び出してきた殿下とぶつかったのが、最初の出会いですね。」



その瞬間、キルは咽だして周りの皆さんは沈黙した。一部笑いをこらえている一団もいるけど………。


え、何か俺変なこと言ったかな? キルの事情に関しては触れていないはずだけど………。アルベルト殿下たちは何を笑って………。

あっ! 森をさまよっていたら茂みから飛び出してきたって、まるでキルが野生児みたいな表現をしてしまった。六歳とは言え、王子としてはかなりやんちゃ坊主すぎる。それで一部笑い、一部咽て、大部分沈黙という奇妙な空間が出来上がってしまったわけか。これは訂正しなければ………。


「申し訳ございません。俺の説明が足りなかったようです。殿下は逃げ出したペットを追いかけている途中で、その際に俺とぶつかったのです。決して野山を闇雲に駆け回っていたわけではありません。」



俺がそういうと、安心したかのように場の空気が和らいだ。


「ま、まあ! 少々驚きましたが、そのような事情だったのですわね。そのペットというのは一角ウサギのペグのことでしょうか? 私も小さいころキル殿下とお世話したことがございますわ。」


「ええ、ウサギでしたね。ですよね、キルヴェスター殿下?」



キルは若干まだ咽ており、ジールが背中をさすっていた。相当な量の飲み物が気管に入ってしまったのかもしれない。大変申し訳ないことをしてしまったようだ。



「………あ、ああ。その通りだ。」


若干睨まれてしまったので、あとで説教コースが来るかもしれないな………。

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