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第二章 初学院編

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「………次に俺の責任をかぶったら………怒る。」


「怒るって………。主の責任を側近が被るのは、むしろ通常のことじゃないの? ………わかったよ。できるだけしないようにする。」


俺がそういうと、若干納得はしていないようだったけど、キルは小さくうなずいた。自分の責任を自分でとろうとするところは素晴らしいけど、キルは王子なのだから少し心配だな………。


「ありがとう。それじゃあ、俺とキルの設定についてだけど、事実をありのままだとまずいよね? 」


「母上の件と、俺のその………あれのことは言わないでくれるとありがたい。あの時の俺は、かっこ悪すぎる。」


キルはそういうと、腕で目元を隠してしまった。
あれほど追い詰めた大人や周りの責任だと思うのだけど、今のキルからすると知られたくないだろう。俺は了承の意を込めた頷いた。


「わかった。ということは、あの部分だけをカットして、そのほかは事実で大丈夫そうだね。変に嘘をつかなくていいから、気が楽だよ。それと、側近のみんなは全部知ってるの?」


「アースの名前は伏せているけど、ある人に出会って気持ちが楽になったと伝えてある。」


「わかった。じゃあ、側近のみんなには知られても大丈夫そうだね。」


すると、側近の一人が俺たちに声をかけてきた。


「お二人さーん、みんなもう行っちゃいましたよ~。 そろそろ行かないと、授業に遅れますよ!」



見ると、教室にいるのは俺達だけになっていた。授業に遅れるのはまずい。初回授業から遅れるなんて印象最悪だし、キルたちの評価も悪くなってしまう。

俺とキルは他の三人に謝って、急いで美術室へと向かった。






――






本日の美術の授業は初回ということもあり、野菜や果物のスケッチだった。貴族には広い教養が求められるため、音楽や美術などの幅広い分野をそれなりにできるようにならなければならない。

俺は絵に関しては、特別うまいわけでも下手でもないと思うので、笑われないくらいの絵を描けるように頑張りたい。

授業自体は雑談が了承されているようで、課題さえこなせばしゃべりながら作業をしてもいいみたいだ。俺はキルに、側近の皆さんの紹介をお願いした。


「わかった。まずは文官見習のローウェル・カーサードだ。」


キルの促しを受けた少年が立ち上がった。彼は先ほど声をかけてくれた人だな。茶髪に茶色い瞳を持っている。少しチャラい感じがするが、イケメンである。



「初めまして、アース! 俺のことも気軽にローウェルって呼んでくれ。」



フレンドリーな感じで彼は、手を差し出してきた。姓がカーサードということは、カーサード侯爵の息子だ。カーサード侯爵は現宮廷魔導士団の副団長だ。なかなかのエリート家系である。



「こちらこそよろしく、ローウェル。」


俺は差し出された手を握り返した。彼は親しみやすそうな雰囲気なので、結構話しやすそうだ。いろいろと教えてもらおう。



「次に、護衛魔導士見習のジール・バルザンスだ。」



バルザンス公爵家だと! なるほど、だから「間接的にはお礼が言える」とキルは言ったのか。まさか、バルザンス公爵家の関係者がキルの側近にいるとは思わなかった。

キルに紹介されたジールは立ち上がって一礼した。彼は緑色の髪に緑色の目を持っている。かっこかわいい系の顔をしており、男女問わず人気がありそうだ。イケメンである。



「ジール・バルザンスッス! 俺のこともジールと呼んでほしいッス!」


彼は「ッス」属性のようだ。俺は「ッス」属性は好みのため、結構うれしい。俺は差し出された手を握り返した。



「初めまして。俺もアースで構わないよ。バルザンス公爵家ということは、キルとジールは従兄弟関係だよね?」


「そうッスね! 殿下とは小さいころから一緒に育ったッス。」


「キルの小さい頃の話か………。面白そうだから、あとで教えてほしいんだけどいい?」


「いいッスよ。例えば………。」



ジールがそういうと、キルが勢いよく立ち上がってジールの口をふさいだ。仲がよさそうで何よりである。


「二人とも、いい加減にしろ! ………紹介を進めるぞ。最後に護衛騎士見習のキースだ。キース、自己紹介を。」


キルがそういうと、キースが不機嫌さを隠さずに立ち上がった。実は今日、キースとは一度も目が合っていないのだ。やっぱり俺、嫌われているみたいだ………。



「………キース・ツーベルクだ。殿下の指示だから俺は従うが、お前とは仕事以外で慣れ合う気はない。それとあらかじめ言っておくが、俺はお前を認める気は一切ない。あと、殿下のことをキルと気安く呼ぶな。それから、兄上のことも気安く呼ぶな。」



うっ………、結構辛らつだな。しかし、キルのことを尊敬し守ろうとしていることは伝わってくる。だからこそ、ポッとでのよくわからない俺のことが気に食わないのだろう。これに関しては、時間をかけて認めてもらうしかない。

だけど、この凍りついた空気はなんとも………。周りのクラスメイトもそれとなく俺たちの会話を聞いていたようだけど、一緒に凍りついている。




「キース。アースは俺の側近となるだけの素質を持っている。すぐに認めろとは言わないけど、少しはアースに歩み寄ってくれると俺はうれしい。」



この凍り付いた空気を破ったのはキルだった。キルに難しい立場を負わせてしまっているな………。俺とキースのどちらも大切にしてくれているからこそ、どちらの立場も慮ってくれているのだ。



「………殿下。しかし俺はこの病弱の社会知らずが、あなたの役に立つとは到底思えません!」


ちょっと、キース! 俺が嫌いなのはわかったから、それは人目のないところで言ってほしいな………。場が凍り付きすぎて、本当にまずい空気になっているから………。

俺がどうしようかと考えていると、キルが拳を机にたたきつけた。

あ………。まだ、病弱の理由が魔力過多によるものだと調査されている段階だ。キルに対して、俺についての病弱を持ち出すということは同時に、キルとアルベルト殿下の母親のことも持ち出すということだ。いくら側近でも、キルにとっては許容できないのかもしれない。



「………キース。いくらキースと俺の仲と言えど、言っていいことといけないことくらい」


「キル! いったんストップ! 俺が受け入れられないというキースの思いは当然だよ。傍から見れば、体が弱く社会知らずな俺が、キルの情けで側近入りをしているように見えても不思議ではないよ。だから、キルとキースが喧嘩をする必要はないよ。俺がキースに認めてもらえばいいだけの話だからさ。」


俺はそこで一呼吸おいて、キルを見つめた。キルは不服そうだったが、一つ息を吐いて、静かに座った。

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