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第一章 少年編
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「ああ、わかった。どこに行きたいんだ?」
少し小声で話し合ってはいたが、引き受けてくれるみたいだ。じゃあここで、「ジーマル家の別荘まで」、と言いたいところだけど、俺が貴族の子だと知られるとまずい可能性がある。俺が拉致されて、身代金要求など貴族の子供にはそれなりに利用価値があるのだ。だけど、この二人はおそらく貴族だ。赤い髪の少年が主で、年上の彼はその護衛と言ったところだろう。ここは、一旦確認してみようか。
「ありがとうございます。その前に、一つ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか? お二人は、貴族の関係者でお間違いないでしょうか?」
俺がそういうと、二人の警戒度が一気に上がったのを感じた。確かにそれはそうか。二人からしてみれば、俺は自分たちの屋敷の周りをうろついていた不審者なのだから。このままでは案内はおろか、拘束されてもおかしくはない。ここは、自分から名乗った方が賢明そうだ。幸い、二人は悪い人物には見えない。
「申し訳ございません。お二人に不信感を与えるつもりはありませんでした。俺は決して怪しいものではありません! 改めまして、ジーマル辺境伯家次男のアース・ジーマルと申します。今は療養のため、王都から離れて生活をしております。」
俺がそういうと、二人の緊張が少し和らいだのを感じた。そして、少し考えるそぶりをした後、年上の彼が口を開いた。
「ジーマル家の次男と言いますと、病弱ゆえに今年の魔力判定を受けられなかったと聞いております。その方でお間違いないでしょうか?」
「はい、間違いないです。今は体調が落ち着いたので、この病弱を少しでも克服しようと体力づくりの一環で散歩をしていたのですが、植物観察に夢中になってしまい道に迷ってしまいました。」
俺がそういうと、年上の彼は赤い髪の少年に一つ頷いた。
「事情は分かった。じゃあ、早速行こうか。ジーマル家の別荘までなら、俺が言い近道を知っているんだ。」
赤い髪の少年はそういうと、俺の手を掴んで近道とやらに向けて走り出した。
ま、待って! 歩くのはいいけど、走るのはまだ無理なんだよ! 俺は慌てて声を出さそうとしたが、目が回ってしまいそのまま意識を失った。
――
気が付くとベッドの上だった。体調はそんなに悪くなかったが、膝に鈍い痛みが走った。おそらく俺が意識を失った後、あの少年が少し俺は引きずってしまったのだろう。まあ、不可抗力だから仕方がない。
俺はゆっくりと目を開けた。そこには赤い髪の少年が不安げな顔で俺のことを見つめている姿と、扉付近で立っている年上の彼の姿が見えた。
「気が付いたか! すまなかった、病弱と聞いていながら無理やり走らせてしまって………。」
「大丈夫ですよ。いずれは走れればいいなと思っていましたので、いい経験になりました。俺はもう少し、体力をつけた方が良いみたいですね。」
俺がそういうと、少年は一度安心した顔をしたがすぐに下を向いてしまった。すると、年上の彼が水を持ってきてくれた。
「お水は飲めますか? あとは何か必要なものはございませんか? 主が大変失礼をいたしました。この責任は私にございます。ジーマル辺境伯様からの処罰はどうか、私一人で勘弁していただけないでしょうか?」
ただ引きずっただけで処罰って………。確かに貴族の子を傷つけてはいるけど、俺は全然気にしていないし………。
「アルフォンス! なぜお前が責任をとるんだ! 俺がやったことだ、俺が責任を取る!」
赤い髪の少年はむきになりながら、アルフォンスと呼ばれた年上の彼に食って掛かった。先ほどから気になっていたけど、主と護衛にしては妙に関係性が悪い気がするんだよな、この二人。
「お待ちください! 俺は全然大丈夫ですので、問題にする気は毛頭ありません!」
「だけど、それでは示しがつかない。俺にできることなら何でも言ってくれ。俺はもう人を傷つけたくないんだ………。」
少年はそういうと、項垂れてしまった。「もう」傷つけたくないか………、その言葉を言葉通りに受け取るとすでに誰かを傷つけたことがあるような言い草だよな。
「人を傷つけたくて傷つける人なんかいないですよ。もちろん、犯罪者は別ですけどね。俺にはあなたが、そういう人間には見えません。………では、俺から一つだけお願いがあります。またここにきてもよろしいでしょうか? 実は俺、家族と使用人以外の人と話したのは、お二人が初めてなんです。ですので、ここにいる間だけでもどうか、俺に構っていただけると嬉しいです。もちろん、事情がおありの様なのでこのことは誰にも話しませんよ!」
俺がそういうと、二人は驚いた表情を浮かべた。少年の方は特に衝撃を受けているようだった。俺がこれまでヒキニートのような生活を送っていたことに、衝撃を受けたのだろうか?
「俺でいいのか………?」
? なぜそこまで自己肯定感が低いのかわからないけど、俺は君がいいんだよ。何せ、かっこいいから!
「はい、あなたがいいです。」
「………わかった。一か月くらいしかここにはいないけど、それでもいいか?」
「もちろんです! あの、お二人のお名前を聞いてもよろしいでしょうか? あ、もちろん姓は大丈夫です! 愛称とかでも構いません。お二人のことを何とお呼びすればいいのかわからなくて………。俺のことはアースとお呼びください。」
二人は俺の、姓はいらないという発言に驚いたのか目を見開いていたが、すぐに自己紹介をしてくれた。
「俺のことは………、キルと呼んでくれ。年はお前と同じだ。今年魔力判定を受けている。こっちのはアルフォンスだ。一応、俺の護衛だ。」
「初めまして、アルフォンスと申します。以後、お見知りおきを。」
やはり、護衛だったか。兄上には護衛はついていないようだから、少なくとも辺境伯以上の地位ということになる。まあ、そこは深く追求する気はない。
「ありがとうございます。キル様と、アルフォンス様ですね。」
「その………様はいらない。あと、その敬語もいらない。」
キルはそういうと、顔をそむけた。何だその反応は、グッとくるものがある。少し意地っ張りか、恥ずかしがり屋なのかな?
少し小声で話し合ってはいたが、引き受けてくれるみたいだ。じゃあここで、「ジーマル家の別荘まで」、と言いたいところだけど、俺が貴族の子だと知られるとまずい可能性がある。俺が拉致されて、身代金要求など貴族の子供にはそれなりに利用価値があるのだ。だけど、この二人はおそらく貴族だ。赤い髪の少年が主で、年上の彼はその護衛と言ったところだろう。ここは、一旦確認してみようか。
「ありがとうございます。その前に、一つ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか? お二人は、貴族の関係者でお間違いないでしょうか?」
俺がそういうと、二人の警戒度が一気に上がったのを感じた。確かにそれはそうか。二人からしてみれば、俺は自分たちの屋敷の周りをうろついていた不審者なのだから。このままでは案内はおろか、拘束されてもおかしくはない。ここは、自分から名乗った方が賢明そうだ。幸い、二人は悪い人物には見えない。
「申し訳ございません。お二人に不信感を与えるつもりはありませんでした。俺は決して怪しいものではありません! 改めまして、ジーマル辺境伯家次男のアース・ジーマルと申します。今は療養のため、王都から離れて生活をしております。」
俺がそういうと、二人の緊張が少し和らいだのを感じた。そして、少し考えるそぶりをした後、年上の彼が口を開いた。
「ジーマル家の次男と言いますと、病弱ゆえに今年の魔力判定を受けられなかったと聞いております。その方でお間違いないでしょうか?」
「はい、間違いないです。今は体調が落ち着いたので、この病弱を少しでも克服しようと体力づくりの一環で散歩をしていたのですが、植物観察に夢中になってしまい道に迷ってしまいました。」
俺がそういうと、年上の彼は赤い髪の少年に一つ頷いた。
「事情は分かった。じゃあ、早速行こうか。ジーマル家の別荘までなら、俺が言い近道を知っているんだ。」
赤い髪の少年はそういうと、俺の手を掴んで近道とやらに向けて走り出した。
ま、待って! 歩くのはいいけど、走るのはまだ無理なんだよ! 俺は慌てて声を出さそうとしたが、目が回ってしまいそのまま意識を失った。
――
気が付くとベッドの上だった。体調はそんなに悪くなかったが、膝に鈍い痛みが走った。おそらく俺が意識を失った後、あの少年が少し俺は引きずってしまったのだろう。まあ、不可抗力だから仕方がない。
俺はゆっくりと目を開けた。そこには赤い髪の少年が不安げな顔で俺のことを見つめている姿と、扉付近で立っている年上の彼の姿が見えた。
「気が付いたか! すまなかった、病弱と聞いていながら無理やり走らせてしまって………。」
「大丈夫ですよ。いずれは走れればいいなと思っていましたので、いい経験になりました。俺はもう少し、体力をつけた方が良いみたいですね。」
俺がそういうと、少年は一度安心した顔をしたがすぐに下を向いてしまった。すると、年上の彼が水を持ってきてくれた。
「お水は飲めますか? あとは何か必要なものはございませんか? 主が大変失礼をいたしました。この責任は私にございます。ジーマル辺境伯様からの処罰はどうか、私一人で勘弁していただけないでしょうか?」
ただ引きずっただけで処罰って………。確かに貴族の子を傷つけてはいるけど、俺は全然気にしていないし………。
「アルフォンス! なぜお前が責任をとるんだ! 俺がやったことだ、俺が責任を取る!」
赤い髪の少年はむきになりながら、アルフォンスと呼ばれた年上の彼に食って掛かった。先ほどから気になっていたけど、主と護衛にしては妙に関係性が悪い気がするんだよな、この二人。
「お待ちください! 俺は全然大丈夫ですので、問題にする気は毛頭ありません!」
「だけど、それでは示しがつかない。俺にできることなら何でも言ってくれ。俺はもう人を傷つけたくないんだ………。」
少年はそういうと、項垂れてしまった。「もう」傷つけたくないか………、その言葉を言葉通りに受け取るとすでに誰かを傷つけたことがあるような言い草だよな。
「人を傷つけたくて傷つける人なんかいないですよ。もちろん、犯罪者は別ですけどね。俺にはあなたが、そういう人間には見えません。………では、俺から一つだけお願いがあります。またここにきてもよろしいでしょうか? 実は俺、家族と使用人以外の人と話したのは、お二人が初めてなんです。ですので、ここにいる間だけでもどうか、俺に構っていただけると嬉しいです。もちろん、事情がおありの様なのでこのことは誰にも話しませんよ!」
俺がそういうと、二人は驚いた表情を浮かべた。少年の方は特に衝撃を受けているようだった。俺がこれまでヒキニートのような生活を送っていたことに、衝撃を受けたのだろうか?
「俺でいいのか………?」
? なぜそこまで自己肯定感が低いのかわからないけど、俺は君がいいんだよ。何せ、かっこいいから!
「はい、あなたがいいです。」
「………わかった。一か月くらいしかここにはいないけど、それでもいいか?」
「もちろんです! あの、お二人のお名前を聞いてもよろしいでしょうか? あ、もちろん姓は大丈夫です! 愛称とかでも構いません。お二人のことを何とお呼びすればいいのかわからなくて………。俺のことはアースとお呼びください。」
二人は俺の、姓はいらないという発言に驚いたのか目を見開いていたが、すぐに自己紹介をしてくれた。
「俺のことは………、キルと呼んでくれ。年はお前と同じだ。今年魔力判定を受けている。こっちのはアルフォンスだ。一応、俺の護衛だ。」
「初めまして、アルフォンスと申します。以後、お見知りおきを。」
やはり、護衛だったか。兄上には護衛はついていないようだから、少なくとも辺境伯以上の地位ということになる。まあ、そこは深く追求する気はない。
「ありがとうございます。キル様と、アルフォンス様ですね。」
「その………様はいらない。あと、その敬語もいらない。」
キルはそういうと、顔をそむけた。何だその反応は、グッとくるものがある。少し意地っ張りか、恥ずかしがり屋なのかな?
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