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何かが生まれた日

先生、これは18禁乙女ゲームじゃありません。

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「謹んでお受けいたします。」



私は、この大興奮な展開に、天高く舞い上がり、宇宙遊泳しそうになったが、ふと、
「これで良いのか?」と、もう一人の私が囁く。

駄目だろう!!私!!

「待って下さい!!」

私は、返事をした天利の前へ立ちはだかり、天利を守るように、思いっきり翼を広げた。

「女王!いえ、『お母様』。それだけは・・・、それだけは止めてください!!
天利の、・・・・―――この人の名字は『徳永』。
気付かれるのを、配慮し故意に省いたのでしょうが、彼女こそが!
・・・――――私の所為で、両親や家族を奪われた、秘密情報局局長、徳永冬一郎の実の娘です!
・・・・私の思慮が足りませんでした。
檻にでも何でも入ります。
ですから、どうか!・・・これ以上、彼女を利用するような事だけは・・・っ!」

「余計な事を、言わないで頂きたい!」

「・・・・天利ちゃん・・・・」

「あなたは全く、私の事が分かっていない。
・・・私は、以前、あなたの事が、『大嫌い』だとはっきり言ったはずだ。
ですから、これは、あなたに対する『復讐』なのです。」

「『復讐』・・・・?」

「そう。あなたは、私が死ぬまでずっと、自分のことが大嫌いな人間に、守られ続けるんだ。
立派な嫌がらせでしょう?これが私の復讐です。」

「・・・・・・」

何とも言えない顔になった私を、澄んだ綺麗な瞳でじっと見詰め、

「いいですか。私が、あなたを守る事は、あなたへの『復讐』なのだから、
・・・―――あなたはあなたの思うように、行動していいんだ。
私は私の意思で、命を駆けてあなたを守る!」

そして、魂を揺さぶる様な美しい照れたような微笑を私にくれながら、

「・・・・あなたが、少しでも、私に対して償いをしたいのであれば、
あなたは堂々と、『あなたの事が大嫌いな私』に、守られていなさい」

「!!!!!!」



ツ・ン・デ・レ・来たーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!




嗚呼!!流石ヒロイン!!メガトン級の恋の放火魔。
そのラヴファイヤーは、周り全ての人に飛び火した事だろう。

私も、すっかり焼き鳥だ。

ごめんなさい、先生。
私は、浮気性なのかもしれません。
これで三人目。
多いのか少ないのかはアンケートを取ってみないと分からないが、先生、アンドレイ、天利ちゃん・・・・・。


――――・・・次は、出会い頭に衝突した、通りすがりのハシビロコウに一目惚れするのだろうか・・・・。





********





最終調整を済ませ、帰宅の途に就いた時には、もう夜も更けていた。

学園都市の18mを超す高い城壁の上に一人舞い降り、更待月を眺める。
最後の夜、アンドレイのひたむきな熱に乱され、鉄格子越しの、高窓に滲んで見えた丸い月は、今天高く欠けた姿で冷たく私を照らす。


その玲瓏たる光が、二重に見え、アンドレイの銀の瞳と重なる。



私は不思議だった。
この世界は、科学がまだまだ未熟で、世界情勢などは、そう簡単に伝わってはこない。
だが、驚異的な速さで、クーデター勃発の知らせが届いた。
いくら緑川が優秀でもこれは早過ぎる。
緑川に、確認したところ、アンドレイが、影が立ち寄りそうな場所に、手掛かりを残しておいてくれたのではないかという事だった。
にも関わらず、アンドレイの消息が要として知れないのは、その手掛かりは、おそらく、クーデター勃発の『以前』に、残されたものであるからだとも。


そこで1つの仮説が成立する。
何故、そう云うことが出来たのか?
今回のクーデターは、彼にとって『不測の事態』ではなく、彼の書いた『シナリオ通り』に事が運んだにすぎないからであると。

風が吹く。
8月の、北の地特有のひんやり湿った夜風が羽毛をそよがせ、心も冷えてゆく。

今回の事で、漸く、合点が行った自分がいる。
意外すぎた、『紅のアンドレイ』の日本王国への侵攻。
それも、隣の島国の次期女王獲得のためと言う、面白すぎる理由で。


40年前の前例があっただけに、雪辱を果たすと言う意味では、真実味はあったが、40年前のバカ皇子共と史上最強の誉れ高い『紅のアンドレイ』では、格が違う。

事前にかの『不敗の英雄、紅のアンドレイ』との戦争を回避する事が出来るのであれば、日本王国は、死に物狂いで平和的解決を打ち出したことだろう。


・・・――――それほど、『紅のアンドレイ』と言う存在は、人々の心胆を寒からしめる力があった。


まして、前回は、側室の一人としてだったが、今回は、后妃としてだ。
前例がなくとも、最終的には、出来の悪い次期女王など、諸手を挙げて送り出したんではなかろうか。リボンを付けて。

だが彼は、なんの大義名分を掲げることなく、『侵攻』と言う、最悪のカードを切った。
なぜなら、彼の目的は『他』にあったから。
この戦争によって得られるモノ・・・・・。

長期に渡り城を10万の軍勢とともに空け、城を伽藍洞にし、隙を作り、敵を誘う。

そう、――――・・・『真』の敵を。

帝国での粛清は、まだ、終わってはいなかったのだ。

『獅子身中の虫』を炙り出すために、日本王国と『私』を利用した!
流石に敗北までは、予定外だったかもしれないが、その事で、『不敗の英雄』と言う不動の名声に陰りが出てくる事も計算に入れて、さらに演出することも可能だったはずだ。

重大なリスクを犯し、クーデター勃発という、情報の手掛かりを残しておいてくれたのは、アンドレイの優しさに他ならない。

それは分かっている!

私を好きになってしまった事は、彼にとっては驚天動地の大事件だった事も、彼を知り分かったことだ。
彼の気持ちを疑ったことはない。
日本王国侵攻構想の段階で、私を籠絡するという計画も含まれていたのかどうかは分からないが、例え、あの美貌で、私がコロリと騙くらかされたとしても、先生の目は誤魔化せないだろう。絶対に。

彼は私のことが好きだ。
それも、『大』の付くほど。

そして、私も彼の可愛い過ぎる面と、冴え渡る美貌の内に隠された、体中の、おそらく心にまで刻みつけられたであろう、数え切れない傷跡を切ないほど愛しく思っている。

だが、今回の件で、我が国のかけがえのない国民の命が、少なからず犠牲になった事も確かだ。

すべて作戦計画を策定し、決断を下した私の責任だと思ってきた。
そして、罪の意識に押しつぶされ、這い上がれることのないブラックホールにいた私は、アンドレイとの結婚で、少しでも贖罪出来るのではないかと思い込んだ。
それだけのことをしなければ、私は一生自分を許せないと思った。

――――・・・それほど、先生との結婚は、私にとって神聖なものだったのだ。

自分にとって最悪の決断をし、自分を痛めつける事で自分の心を守った。
そういう意味では、私もアンドレイを利用したことになるのだろうか。

アンドレイも言っていた。アンドレイと私は、『似た者同士』だと。
その通りだ。
一っ上げるとするなら、お互い『血に塗れた手』を持っているというところか。



天利や他の人達を危険に晒してまで、帝国に行き、私は、どうするつもりなんだろう・・・・。



自分の身勝手さに辟易しながらも、『行かない』という選択肢はどうしても選べなくて・・・・。





「こんなところで何してる?」
「・・・・土論・・・・」

塀の下から声がした。
変身出来るようになって、自由がある程度許されたとは言え、必ず何処かで影が私を守ってくれている。今日は土論もその1人だったらしい。

「随分黄昏れてるじゃネェか。・・・・どうした?」
「・・・・別に黄昏てなんかいないよ。元からそんな顔だもん」
「鳥だと表情がわかりにくいが、葵のことが分からない俺様じゃねぇからな。
こっち来い。抱っこしてやる。」

ぶっきら棒な優しさに、堪えていた熱いものが湧き上がり、

「・・・お兄ちゃん・・・・っ!」

両手を広げた土論の懐に飛び込んだ。
両腕に抱え込まれ、冷えていた背中に土論の温もりがほんわりと伝わってくる。

「鳥を妹に持った覚えはねぇよ?」
「今は、バードウイークなんだよ?」
「そっか。それならしょうがねぇな。」

額を土論に擦り付けて甘える。
この先何があろうとも、土論が、私の兄である事だけは、変わらないでいてくれる。

その事がどんなに嬉しいか。


1つずつ解決していこう。
要するに、私が人に戻れれば少なくとも天利は、危ない橋を渡らなくてもいいわけで。


もちろん真っ先に、元に戻る方法を、女王や、皇太后に尋ねたわけだが、あらかたの予想通り、「がーーーっと」だの「ぬるん」だのとしか、回答は得られなかった。
茶利伊には、尊敬の眼差しを向けられ、おおいに気を良くした私は、主に王族達の醸し出す『何とかなるでしょ』感のぬる~~い空気に同化した。
その中、凄く慌てていた私の近しい人達は、至極常識人だったのだろう。
何たって人間やめた訳だから、慌てないほうがどうかしている。

ちょうどいい機会だから、武芸に精通している土論にも聞いてみた。



「俺に、魔法だの変身だの分かるわけがねぇが・・・・・要するに、『気』なんじゃねぇかな。
心を丹田に置き、気を解き放つんだ。」
「丹田ってどこ?って言うか・・・・『心』って・・・・クス・・・」
「笑ってんじゃねぇ!」

自分の言った台詞に照れている。くふふふふ・・・。

「下っ腹に神経を集中させて、思いっきり踏ん張れって事だよ!!」

別のモノを、解き放ってしまう危険な香りがする。いや、まだ臭ってはいないが。
まあここで、人間辞めたくなるほどの『シロモノ』を出してしまったとしても、今は人間じゃないし?土論しかいないし。



「では、出します!」
「ナニ出す気だよ?!人間に戻るんだろうが?!」


「ひっひっふー、ひっひっふー」
「人間出す気か?!」

もちろん、人間を出すのである。あれ?違ったっけ?

「うぅぅぅぅ~~~~~~う~ま~れ~る~~~~!!!」
「産むな!!」


すると、スルンとした開放感が訪れた。

私やっちゃった?!

やっちゃった感を全身に漲らせ、下を向く。
そこには、カモシカのような人間の足が見えるはずが、ハシビロコウのような鳥の足しか見えなかった。
世の中間違っている!
いや、人間の足がカモシカの足だったら気持ち悪い、ハシビロコウの足が鳥の足のほうが正解だ。
と、どうでも良い事を、つらつらと考えているのには、理由がある。

現実逃避だ。

なぜなら、私の足の間には、10センチ弱ほどの、大きな卵が転がっていたから。



「「・・・・・・・・・・・・・・・」」



土論と二人、いや1人と1羽は、しばらくフリーズしたまま、それを見つめる。



『あ~な~た~今日、排・卵・日・ですわ~~。私、あなたの子供が欲しいの~~ん。』



極めてモダン、と言おうか、どうでもいいセリフが、トリ頭に木霊した。

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