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絶望、からの自殺。
しおりを挟むその女の正体は…やはり……
スフィア=ハート=ミルン
…その女、であった。
「………」
「…どうしたの…?」
その言葉で、バラキエルは我に帰る
(…………っ!)
(なんと情けないことを…)
と自分の行動を恥じるバラキエル
「…怒ってはいないのか…女…?」
平常を装い聞いた。
「…いや…怒ってはいるよ…」
「…でも…」
「…ネロっていつも、私が話しかけても、ボソボソって小声で喋る感じだし…」
「だからいつも、私…ネロが何を考えて、何を求めているのかが、全く分からなかった…」
「…でも…今日は…ちゃんと、はっきり言ってくれた…」
「…ネロって…いつも、私のこと…」
「下卑た、のろまな女だって思ってたんだね…」
「……!」
「………いや……」
小声でバラキエルは言った。しかし、これはバラキエルの意思ではなかった。
故に、バラキエルは思った。
(特に否定する必要のないことではないか…!我は何を言って…)
(…いや…!)
(…またこの少年の意思が、我に干渉しやがった!)
(…っち!全くもって、鬱陶しい!)
「…いや…別にね…それを言われたからと言って私…怒ってるわけじゃないの…」
バラキエルが、ネロの感情の干渉を食い止めようとしている間にも、スフィアは会話を続けた。
「…ていうか……むしろ…いつも無口なネロの本音が聞けたって感じで…」
「少し…嬉しかった………」
スフィアは詰まりづまり言った。
しかし、その放った言葉と相反して、女の表情は、
無理矢理、閉じ込めていたは悲しみが、溢れ出るかのように、切なかった。
そして、うるうると瞳に涙が溜まっていき、ついには抑えきれず、流れ出てしまった。
グズっ、と鼻をすすり、涙を拭うスフィア
「………」
それを目視した瞬間、バラキエルの心の中には、罪悪感、という悪感情が濁流のように流れ込んできた。
(我にとって…関係のないことではないか…!クソが…っ!)
流れ込んでくる罪悪感を懸命に拒絶するバラキエル
(クソがっ!忌々しい、ゴミのような存在のくせに…我の感情を支配しようとするな…っ!)
それは、バラキエルの全力の精神力をもってしても抑えきれないほどの、強力な力であった。
それほど、ネロにとって、スフィアという存在は、大切ものであったのだ。
スフィアの涙を目の前にした瞬間から、感情と、肉体の主導権は、ほとんど少年が握っていた。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!)
心の奥で、バラキエルの怒りの感情だけが募っていく。
主導権を握り、暴走するように感情を爆発させたネロはついに、自ら言葉を発する
「おもっ…て…な………ひ……」
「………?」
「グズっ……
…なんて……言ったの…?」
スフィアは、急にネロの喋り方が変化したことに一瞬戸惑ったが、すぐに、うつむいた顔を上げて、返答した。
「ほく……わ……そんな……こと………」
(クソッ!やめろ!)
その時、バラキエルは、怒りに満ちた声を心の中であげ、ネロの言葉をさえぎろうとするが、
ネロは構わず続けた。
「ほくわ…おもって……ない………!」
まるで、歯が全て抜けたおじいさんのよつに、詰まりづまり、ネロはゆっくり喋った。
「…え?」
「そんなこと…思ってない…?」
かろうじて聞き取ったネロの声を、確認するかのようにもう一度聞いた。
すると、
うん…と言わんばかりに首を下へ、ゆっくり下ろした。
そしてまた、言葉を続けた。
その間、ずっとバラキエルは怒りの声をあげていた。
「ス…ヒィア……」
「…何…?」
すぐにスフィアは聞き返した
(………!)
その時バラキエルは、直感にして、今からバラキエルが言わんとしていることを予知した。
(……ふざけるな…っ!)
(その言葉だけは死んでも言ってはならない…!)
バラキエルのなかで怒りと焦りが混在した。
しかし、それでもネロは言うのをやめなかった
「ス…フィア…」
「……ごめ……ん……な………」
「………さ……」
(やめろぉっ!!!)
(その言葉だけは言うんじゃないっっ!!!)
バラキエルの焦りと怒りは強大なものであったが、
しかし…
(…ごめんな…さい………)
ネロは、ついに言った。
その言葉は当然、スフィアにも届いていた。
ネロがこの言葉を放った瞬間、バラキエルの怒りと自尊心は、ぶち切れた。
その瞬間、
ボコォオンッ!!!
…という鈍く、重い音が空中に響いた
その後、
「ドサァ…ッ」という、
何かが倒れる音がコンクリートの床を伝ってまた響いた。
目の前にいた、スフィアは、何か、驚きを隠せない様子で見ていた。
鈍く、重い音が鳴り響いた時、すでに、バラキエルは自らの死を選択した後であった…。
自らの死を選択したバラキエルは、
自らの内臓破壊を狙った、
〝掌〟を撃ち込めるように、骨と筋肉の配置を確認。
そして、全ての力を込めて、それを繰り出し、
左胸に位置する一部の内臓を破壊した。
………そして、その結果現在に至る。
自らの自尊心がボロボロに崩れさり、怒りに溢れかえったバラキエルは…
自らの死を選んだのである。
朦朧とする意識の中、かろうじて、聞こえたスフィアの言葉…
…それは…
心配を呼びかける優しい言葉だった…。
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