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家族にはきびしいルールがある
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「いいですか。家族にはルールが必要です。きちんと守るようにしてください」
今日もトウサンはそうくり返してしていた。耳にタコとはこのことだ。世の中を見渡しても、ここまで口うるさい家族はそれほどないんじゃないだろうか。
とはいえ、俺なんかは日中はほとんど仕事に出ているわけだし、もめ事を起こすことはあまりない。だいたい何かをやらかすのは決まってジイサンかバアサンだ。
あの人たちも別に完全にボケてしまっているというわけじゃない。でも年相応に頭の回転がにぶっているのは間違いなく、掃除当番やゴミ出し当番などの役割をコロッと忘れたりする。バアサンはともかく、ジイサンはそもそもやれないことが多いし、掃除をさせてもアラが目立つ。目も腰も悪くて満足にはいかないのだとくり返すけれど役割は役割だ。俺だってまだ20歳にもならないのに、こうしてちゃんと働いて、払うものは払っているのだから、中途半端が認められるわけがない。
この前なんてカアサンが買い出しを頼んだ食材を間違って買ってきたようだ。さすがのカアサンも「夕食、どうするつもりなのよ!」なんて怒っていた。ちょうど俺も家にいたし、俺がすぐコンビニまで行って、買ってくるから……なんて言ってなだめてこと無きをえた。ホント「家族」なんだから役割はきちんと果たしてほしいところだ。
うちでは毎月1日には家族会議が開かれる。前月に起きた問題や、その反省。翌月から改善していくことなど様々な問題が議論される。手前には俺、トウサン、カアサン。向こう側にはジイサン、バアサン。この家に今、すんでいるのはこれで全員だ。
時間はその月によってまちまちだけれど夜の9時くらいが一番多い。全員が椅子についたところで今月の会議ははじまった。
「最近、あまりにも目に余る行動が多いので、罰金制度を導入したいと思います」
全員を見渡しながらそう言いだしたのは、やはりトウサンだった。家長として、最近のジイサンたちの体たらくはさすがにほってはおけないという責任感からだろう。
「いや、そんなこと言われてもね。私たちだって、なにもミスをしたくてしているわけじゃないんだよ」ジイサンは必死に弁解する。
「もちろんそうでしょう。わざとミスをするような人はどこにもいませんからね。それはわかっています。でもこれだけ言っても治らないようでは、さすがにこちらだってイヤになります。何か、もう少し強い抑止力を……となるのはあたりまえでしょう?」
「でも、罰金だなんて……どこにそんなお金があるっていうの」バアサンもトウサンに食ってかかる。
「あんたら年金もらってるでしょう。なんの仕事してきたのか知らないけど、長いこと勤めあげてきたんでしょう? そりゃ満足な額かと言われればそうじゃないかもしれないけれど、それはそっちの勝手だからね」
「そんな……」
「いいんですよ別に。いつ出ていってもらったってね。今、世の中は『おじいさん』や『おばあさん』にはなりたい人ばかりですからね」
「家も、お金もないにの出ていくなんて……飢え死にするしかないじゃないか。それは……そんなのは無理だよ。……お願いします。どうかここに置いてください、お願いします」ジイサンは机に突っぷして懇願していた。
誤解してほしくないけれど、評決はいつも民主的に多数決で決められる。だから今夜の議題も多数決だ。「賛成の人は手をあげてください」というトウサンの声にあがった手は3本。俺とカアサンとトウサン。これで決まりだ。
「みなさん家族なんですから、きちんとルールは守っていきましょうね」
トウサンの言葉を最後に会議は終わりをつげた。自分の部屋にもどると、壁には半年前にこの「家族」のことをはじめて知ったときのチラシが張ってあった。
「疑似家族作りませんか」
赤い大きな文字が、チラシには書かれていた。そう、俺たちが「家族」になったのはまだ半年ほど前のことだ。ちょうど俺の"本当の両親"が、交通事故で亡くなり、天涯孤独で住むところもなかった俺にとって、まったくの渡り船だった。
世間では少子化の進行にともなって「一人暮らし」「独身でいること」そして「子供を養っていないこと」に対して大きな税金が課せられていた。そこで、疑似的ながら家族を形作ることで、向こうは子供を養う立場になれる。こっちは一人暮らしをしなくても済む。互いに金銭的なメリットが発生し、そこにウインウインの関係が生まれるのだ。
こうしてできた疑似家族は俺たちだけじゃなく、今では何百、何千といるらしい。とはいえどこも内情は同じようなもので、世知辛いといえば世知辛い。まぁ、俺だって20歳になれば無用の長物だ。だからそれまでは、この家に居すわらせてもらって色々めんどう見てもらおうじゃないか。どこの誰とも知らない今だけの家族たちに。
今日もトウサンはそうくり返してしていた。耳にタコとはこのことだ。世の中を見渡しても、ここまで口うるさい家族はそれほどないんじゃないだろうか。
とはいえ、俺なんかは日中はほとんど仕事に出ているわけだし、もめ事を起こすことはあまりない。だいたい何かをやらかすのは決まってジイサンかバアサンだ。
あの人たちも別に完全にボケてしまっているというわけじゃない。でも年相応に頭の回転がにぶっているのは間違いなく、掃除当番やゴミ出し当番などの役割をコロッと忘れたりする。バアサンはともかく、ジイサンはそもそもやれないことが多いし、掃除をさせてもアラが目立つ。目も腰も悪くて満足にはいかないのだとくり返すけれど役割は役割だ。俺だってまだ20歳にもならないのに、こうしてちゃんと働いて、払うものは払っているのだから、中途半端が認められるわけがない。
この前なんてカアサンが買い出しを頼んだ食材を間違って買ってきたようだ。さすがのカアサンも「夕食、どうするつもりなのよ!」なんて怒っていた。ちょうど俺も家にいたし、俺がすぐコンビニまで行って、買ってくるから……なんて言ってなだめてこと無きをえた。ホント「家族」なんだから役割はきちんと果たしてほしいところだ。
うちでは毎月1日には家族会議が開かれる。前月に起きた問題や、その反省。翌月から改善していくことなど様々な問題が議論される。手前には俺、トウサン、カアサン。向こう側にはジイサン、バアサン。この家に今、すんでいるのはこれで全員だ。
時間はその月によってまちまちだけれど夜の9時くらいが一番多い。全員が椅子についたところで今月の会議ははじまった。
「最近、あまりにも目に余る行動が多いので、罰金制度を導入したいと思います」
全員を見渡しながらそう言いだしたのは、やはりトウサンだった。家長として、最近のジイサンたちの体たらくはさすがにほってはおけないという責任感からだろう。
「いや、そんなこと言われてもね。私たちだって、なにもミスをしたくてしているわけじゃないんだよ」ジイサンは必死に弁解する。
「もちろんそうでしょう。わざとミスをするような人はどこにもいませんからね。それはわかっています。でもこれだけ言っても治らないようでは、さすがにこちらだってイヤになります。何か、もう少し強い抑止力を……となるのはあたりまえでしょう?」
「でも、罰金だなんて……どこにそんなお金があるっていうの」バアサンもトウサンに食ってかかる。
「あんたら年金もらってるでしょう。なんの仕事してきたのか知らないけど、長いこと勤めあげてきたんでしょう? そりゃ満足な額かと言われればそうじゃないかもしれないけれど、それはそっちの勝手だからね」
「そんな……」
「いいんですよ別に。いつ出ていってもらったってね。今、世の中は『おじいさん』や『おばあさん』にはなりたい人ばかりですからね」
「家も、お金もないにの出ていくなんて……飢え死にするしかないじゃないか。それは……そんなのは無理だよ。……お願いします。どうかここに置いてください、お願いします」ジイサンは机に突っぷして懇願していた。
誤解してほしくないけれど、評決はいつも民主的に多数決で決められる。だから今夜の議題も多数決だ。「賛成の人は手をあげてください」というトウサンの声にあがった手は3本。俺とカアサンとトウサン。これで決まりだ。
「みなさん家族なんですから、きちんとルールは守っていきましょうね」
トウサンの言葉を最後に会議は終わりをつげた。自分の部屋にもどると、壁には半年前にこの「家族」のことをはじめて知ったときのチラシが張ってあった。
「疑似家族作りませんか」
赤い大きな文字が、チラシには書かれていた。そう、俺たちが「家族」になったのはまだ半年ほど前のことだ。ちょうど俺の"本当の両親"が、交通事故で亡くなり、天涯孤独で住むところもなかった俺にとって、まったくの渡り船だった。
世間では少子化の進行にともなって「一人暮らし」「独身でいること」そして「子供を養っていないこと」に対して大きな税金が課せられていた。そこで、疑似的ながら家族を形作ることで、向こうは子供を養う立場になれる。こっちは一人暮らしをしなくても済む。互いに金銭的なメリットが発生し、そこにウインウインの関係が生まれるのだ。
こうしてできた疑似家族は俺たちだけじゃなく、今では何百、何千といるらしい。とはいえどこも内情は同じようなもので、世知辛いといえば世知辛い。まぁ、俺だって20歳になれば無用の長物だ。だからそれまでは、この家に居すわらせてもらって色々めんどう見てもらおうじゃないか。どこの誰とも知らない今だけの家族たちに。
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