俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

文字の大きさ
上 下
31 / 63

覚醒の予兆

しおりを挟む
 納期まであと一週間。俺は必死に作業を続けていた。しかし、この数日間で、何かが少しずつ変わり始めていることに気づいていた。

 最初は些細な変化だった。クラフトスキルを切り替えるタイミングが、以前よりスムーズになった気がする。『ハイマテリアル』で素材を扱い、『フォージアーティスト』で形を整え、『ハイエンチャント』で魔力を込める。その一連の流れが、まるで一つの動作のようになっていく。

「ロアンさん、作業のスピードが上がっていますね」

 リサの声に、俺は我に返った。たしかに、いつもより多くの装備が完成している。

 それから二日後、さらに変化が現れた。複数の素材を同時に扱えるようになったのだ。一度に三つ、四つの装備を作り始めている自分に気づいて、俺は驚いた。

「これは……」

 俺は思わず呟いた。確かに効率は上がったが、完成品の質にはばらつきが出てしまう。それでも、この変化は大きな前進だった。

 そして納期三日前、決定的な変化が訪れた。一度作った装備を見つめていると、その構造が頭の中に鮮明に浮かび上がってきたのだ。まるで設計図が脳裏に焼き付いたかのように。

「これなら……」

 その感覚のまま、新たな素材に手を伸ばす。驚くべきことに、先ほどの装備とほぼ同じものが、半分以下の時間で完成した。性能は若干落ちるものの、外見上はほとんど見分けがつかない。

 作業を続けるうちに、体の動きがさらにスムーズになっていく。それぞれの工程が無駄なく繋がり、まるで一連の流れのように感じられる。疲労も予想よりずっと少ない。

 調合する時間、裁断する時間、火を当てる時間、冷やす時間、叩く時間、ありとあらゆる一行程ずつも、その必要時間がどんどん減っている。クラフトスキルそのものも、どんどん向上していくのがわかる。

 リサは俺を心配しつつも、休憩を促すことはなくなっていた。俺が作業に集中できるように。そして、合間の短い休憩で素早くエネルギー補給ができるように、食べやすい食事と水分をこっそりと置いておいてくれている。それ以外は、元の工房としての注文をこなすがガレスとミアのサポートをしてくれていた。

 ありがたい。みんなの働きが心強い限りだ。ミアがここまで献身的に仕事をしてくれる理由はわからないが、全てが終わったら聞こう。ガレスは義理堅い。リサは、多分、相当な無理をしている。この大口注文が捌けたら、たっぷり労ってやらないと。

 俺の体はまだ軽く、集中力も衰えていない。いける。最後まで保ちそうだ。

 そして納期前日、俺の中で何かが完全に変わった。指先から溢れ出る力が、これまでにない感覚で素材を操り始めたのだ。

 作業を再開すると、俺の体が自然と動き出した。手の動きが、まるで残像を残すかのように素早くなっている。一振りの動作で、複数の素材が同時に形を変えていく。

「何だ、これ……」

 驚きを隠せない。目の前の作業台では、五つの短剣が同時に形作られていく。たしかに、一つ一つの完成度は通常時より若干落ちるが、その分だけ製作速度が格段に上がっている。

 驚きを隠せない。目の前の作業台では、五つの短剣が同時に形作られていく。確かに、一つ一つの完成度は通常時より若干落ちるが、その分だけ製作速度が格段に上がっている。

 次に、完成した短剣を手に取る。じっと見つめていると、その構造が頭の中に鮮明に浮かび上がってきた。まるで設計図が脳裏に焼き付いたかのようだ。

「これなら……」

 その感覚のまま、新たな素材に手を伸ばす。驚くべきことに、先ほどの短剣とほぼ同じものが、半分以下の時間で完成した。性能は若干落ちるものの、外見上はほとんど見分けがつかない。

 作業を続けるうちに、体の動きがさらにスムーズになっていく。それぞれの工程が無駄なく繋がり、まるで一連の流れのように感じられる。疲労も予想よりずっと少ない。

「ロアンさん、先方からの連絡が。あと、二時間ほどで配送業者が来るようです」

 リサの声に、はっとする。気づけば、かなりの時間が経過していた。しかし、体はまだ軽く、集中力も衰えていない。

 これまでの完成品を見渡すと、さらに驚きの発見があった。これまでなら必ず何個かは出ていたはずの不良品が、ほとんど見当たらない。それどころか、全体的な完成度が以前より高くなっている気がする。

「これは一体……」

 俺は自分の手を見つめた。確かに何かが変わった。新たな力を得たことは間違いない。しかし、それが具体的に何なのかはまだ分からない。

 俺は深く目を閉じ、ハンマーを置いた。

「ロアンさん……?」

 リサが俺を心配して駆け寄ってくる。ミアも、ガレスも、俺に注目しているのが肌でわかった。

 それぐらい、最高度の集中状態にある。

 最終期限まで残り二時間。残りの作業を間に合わせるには、あまりにも永い時間だった。

「ふぅ……」

 深い海の底に潜るように、静かな空間で作業をしていたら、手元の素材が全てなくなっていた。

 終了だ。間にあった。注文を一つも欠けさせずに完遂したんだ。

 その直後、歓喜と喝采と、一つの悲鳴だけを聞いて、俺はその場に倒れ込んだのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜

ネリムZ
ファンタジー
 唐突にギルドマスターから宣言される言葉。 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」  理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。  様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。  そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。  モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。  行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。  俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。  そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。  新たな目標、新たな仲間と環境。  信念を持って行動する、一人の男の物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...