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内装と工房の装備を整える

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 翌朝、俺は早くに目を覚ました。体中の筋肉が鈍い痛みを訴えている。クラフトスキルが便利だったからと、普段とは違った場所や体勢で作業を続けたことにより、いつもは使わない筋肉を疲弊させてしまったようだ。しかし、そんな痛みに負けているわけにはいかない。これから始める事業のことを考えると、むしろ心が高鳴るのを感じる。

「さて、今日は内装だ」

 朝食を軽く済ませ、グッと背伸びをし、再び物件に足を運ぶ。昨日の作業で外観はだいぶ良くなったが、内部はまだ手つかずの状態だ。道すがら、通りかかる人々が俺の物件を見て驚いた表情を浮かべているのが見えた。わずか一日でこれほど変わるものかと、彼らは目を見張っている。

 建物の中に入ると、埃と湿気の匂いが鼻をつく。床には厚い埃が積もり、壁紙は剥がれかけ、天井の一部は崩れかけの瓦のせいと思われる雨漏りの跡が見える。それぞれに丁寧な手入れが必要だ。俺は深呼吸し、作業の段取りを頭の中で整理した。

 まずは床から始めることにした。傷みが酷いところは慎重に取り除き、新しい板を敷いていく。慌てて虫除けの薬剤を散布し、さらに念入りに床下を清掃した。『ハイマテリアル』を使い、木材の質を見極めながら最適な組み合わせを選んでいく。床板を一枚一枚丁寧に置いていくうちに、部屋の雰囲気が少しずつ変わっていくのを感じる。

 次は壁の補修だ。剥がれた壁紙を全て取り除き、下地を整える。ところどころにカビが生えており、それを完全に除去するのに苦労した。カビ取り用の特殊な溶剤を使い、何度も拭き取る作業を繰り返す。壁の補修に使う金具を壁に打ち付ける音が、空っぽだった部屋に響き渡る。

 昼過ぎになり、やっと壁の下地が整った。腹が減って作業の手が止まりそうになるが、持参した弁当で小休止を取る。窓から差し込む陽光が、少しずつ形になってきた部屋を照らしている。

 しかし、まだ壁紙を貼り直す作業が残っている。

「ふう、まだまだ」

 疲れた体に鞭打ちながら、壁紙を慎重に貼っていく。思うように真っ直ぐに貼れず、何度もやり直す羽目になる。細かい作業は慣れているようで、扱う素材や大きさが変わるとこうも苦労するものなのかと、自嘲気味に笑う。

 夕方になり、ようやく一階の内装がなんとか形になった。二階も手をつけ始めたところだったが、今日中に全てを終わらせるのは難しそうだ。

「今日はここまでか」

 俺は疲れた体を引きずりながら、作業の後片付けを始めた。今後はさらに大変な作業が待っている。工房としての機能を整えなければならないのだ。

 家に戻る途中、住居用と工場用の総合販売店に立ち寄った。明日の作業に必要な工具や材料、そして、出来合いの工房用装備を追加で購入する。店主は俺の買い物リストを見て、少し驚いた様子だった。

「随分と本格的な装備だな、ロアン。何か大きな仕事でも始めるのかい?」

 店主の好奇心に満ちた目が、俺の表情を探るように見つめてくる。

「まあね。明日の朝に運び出すから、どこかにまとめて置いといてくれ」

 俺は屋台で装備を売り捌いたときの売上をどさっとカウンターに置いてそれらを購入した。実際のところ、俺の所持金はそう多くはない。前のパーティでの分前がそもそも少なかったこと、俺がクラフトのためにあれこれ買ってしまう癖があったこと、工房に費やしていた資産ごと取り上げられてしまったこと。これらが要因で、物件と修繕費と工房としての装備だけで、もうほとんどカラみたいなものだ。

 武具屋に対して卸せる物もあるので、一文無しというほど困った状況になることはないが、贅沢な暮らしなど夢のまた夢。だが、それも俺が自分の事業を始めるまでの話だ。今後はどの冒険者たちよりも大金持ちになる。そして、世界中を飛び回って珍しいアイテムをクラフトしながら遊び回るんだ。

 俺は購入リストを確認しながら、頭の中で計算を始めた。鍛冶台、魔力制御装置、素材保管用の特殊な棚、高品質の工具セット。それなりに質の良いものは選んだ。今後は商売をしていく中で全てを一級品にランクアップさせる予定だ。それらがあれば、俺のクラフトスキルを最大限に活かせるはずだ。

「にしても、珍しいな。冒険者が自分でイチから工房を作るなんて」
「もう冒険者じゃないよ。兼、ではあるけどね。これからは装備職人が本業さ」

 これからは時代が変わる。冒険者だけじゃなく、一般の人たちもより高品質な装備を求めるようになる。俺はそのニーズに応えるんだ。

「これからの活躍に期待してるよ。まだまだ贔屓にしてくれ」
「もちろん。うちのことも頼むよ」

 店を出て家に戻る道すがら、俺は今後の事業計画を考え始めた。町の防衛隊や冒険者ギルドとの取引を確立させ、彼らに高品質な装備を提供するのと、最初から一般市民向けの製品を開発していくのと。どちらを優先するべきか。アクセサリーに関しては、戦闘用の特殊能力だけじゃなく、日用品としても便利な能力を込められたりしないだろうか。

 俺は頭の中で、様々な製品のアイデアを巡らせた。魔力を帯びた調理器具、耐久性の高い作業着、軽量で丈夫な旅行用品。既に商品化されているアイデアはあるが、そこに俺ならではを盛り込むことだってできるはず。

 宿に着くと、俺は早速明日の準備を始めた。工具の手入れをし、必要な材料をリストアップする。そして、頭の中で工房のレイアウトを考える。効率的な作業動線、十分な収納スペース、魔力の制御がしやすい環境。全てを最適化する必要がある。

「よし、これでいけるはずだ」

 俺は満足げに準備を終えると、床に就いた。
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