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ダンジョンの休憩

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「テントを張るの手伝うよ」
「ありがとう。助かるよ」

 俺が次元の指輪から取り出したのは、魔物避けを兼ねた長時間休息用のテント。完全に身を隠せるわけではないが、薄っすらとだけダンジョンの空間と内部を切り離せるといったイメージのものだ。テントとは言いつつ、形態はプレハブに近い。棒を突っ立てて長方形になるように骨組みすることでその内側が小屋になるのだ。
 丸一年分の素材と労力をかけて作り上げた特別魔道具である。寝ている間にジワジワ取り込まれるタイプのトラップや魔物も存在するため、野営に慣れていてもどうしても気を張って疲れが取れないし、ダンジョンの気持ち悪さから解放されるという点で、我ながら神アイテムと呼べる逸品を作り上げるに至った。
 一般人ならD級でも踏破までは数日かがかりだろうし、テントも量産できたらそれこそ注文が止まらないだろうな。というより、ソロ活動をするようになったら、こいつに魔物警報装置でもつけて、工房として活用するのもありだな。そこまでの能力を、俺のスキルレベルで盛り込めるのかは微妙なところだが……。

 俺はひとまず椅子に腰を落ち着けて、これからのことを考える。物件の整理をするために、まずは現状を把握しなければならない。特に気になっているのは、屋根の一部が崩れかけていることと、壁のひび割れだ。これらを修繕するためには、適切な素材を集める必要がある。しかし、俺のクラフトスキルは武具や装飾品に特化しているため、建築物の修繕には使えない。あるいは、修繕に関してはその道の業者やクラフターに頼むべきだろうか。

「お料理なら任せてね」

 組み上がった小屋にはキッチンスペースもある。シルヴィは料理に関しては自信満々なのだ。特に上手くも不味くもないのだが──ああいや、動物ではなく魔物を調理しているという前提においては十分な味ではあるが──、ともかくモチベーションが高いというのは悪いことではない。俺がクラフターでなければ飲食店を開いてもよかったぐらいだ。

 食料品に適した素材も当然ある。例えば、ダンジョンの深部で採れる『魔力草』は、煮込むと滋養強壮効果のあるスープになる。また、『火炎鳥の肉』は、焼くことで独特の風味が引き立ち、豪華なメインディッシュとなる。これらの素材を使って、シルヴィは様々な料理を作り出すことができる。見た目が華やかなものを作ってくれるのが彼女の料理の特徴だ。なので、ヴァルドだちは裏で陰口を叩いていたが、俺は割と好きだったりするので悲しかった。

 食事を終えると、俺は一度外に出てポータブル鍛冶台など一式を並べた。

「素材の加工だけ終わらせたら寝るから。シルヴィは先に寝ててくれ」
「はーい」

 俺は素早く素材を加工し、完成したアイテムを次元の指輪にしまった。もう容量がなくなりつつある。せっかくシルヴィに会えたのだし、倉庫などを借りてそこに転送できる装飾品でも作るべきだろうか。こちらも、俺のクラフトスキルにどこまで他者の魔法に適合できるかが鍵なので、試行錯誤が必要になりそうだ。

 こうした状況ともなると、帰宅のタイミングを見計らう必要がある。『瞬間移動の巻物』で、登録済みの場所に一瞬で戻ることができるわけだが、ダンジョンはその存在が不安定であるせいか今いる地点を逆に登録できない。
 ダンジョンの入口を隠すためには、周囲の環境に溶け込むようなカモフラージュが必要だ。例えば、入口を覆うように魔力遮断できる布をかぶせたら、組合には見つからずに済むだろうか。

「はぁ……考えなきゃならないことが多すぎる……」

 作ったものを売ることには苦労しなさそうだが、大量の商品を捌く方法と素材の確保の面が難題だ。

 外部委託が一番手っ取り早いんだが。あんまり、人は雇いたくないんだよなぁ……。
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