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深淵
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俺は迷った末、ミミックブレードの特性を発動させることを決意した。これ以上戦いが長引けば、得るものより消耗が上回るとの判断だ。剣が振動を発するように魔力と共鳴し、以前倒した強敵の能力を一時的に再現する。俺の体は霧のように淡く光り始めた。
一気に間合いを詰め、俺は最後の一撃を放った。ゴーレムの動きを読み、その隙をついて胸部にある中央の魔法陣にミミックブレードが突き立てる。轟音が響き渡り、剣先が爆ぜる。まばゆい光が部屋中を包んだ。ゴーレムの体内で魔力が暴走し、あちこちから火花と蒸気を噴き出す。そして、ついにゴーレムの機能が完全に停止し、その巨体がゆっくりとその場に崩れ落ちた。
戦いが終わると、部屋に静寂が戻った。俺はしばらく息を整えながら倒れたゴーレムを見つめていた。
「やったね」
シルヴィが両腕でガッツポーズしていた。俺は無言で頷いた。ドラゴンリザードという、名前のわりにはそこまで強くはないがそこそこに上位の魔物のブレス技から抽出した特性を使ってしまった。だが、俺自身が倒したことにより、魔動機ゴーレムから得られた能力は……面白い。魔法陣による瞬間移動か。特性の発動中は範囲内ならいくらでも使えるみたいだ。そして、何より美味しいのが素材。こいつから手に入る硬質素材で、かなり丈夫な防具が作れるはず。それも、特殊防御付きの。
「アイテムは……あそこか」
部屋の奥に目をやると、そこに宝箱が現れているのに気づいた。慎重に近づき、細心の注意を払って開けた。中には、青く輝く宝石が収められていた。その光は、まるで小さな星のようだった。
「『エンハンスクリスタル』だ」
「前に聞いたことあるかも」
「装備品に組み込むことで、特定の魔力の流れが作れる。渡りに船ってぐらいちょうどいい素材だ」
「よかったね、ロアン」
シルヴィがニッコリとした顔でこちらを見ている。
緊張が解けて肩の力が抜けた。
パーティを組んでダンジョンを踏破していたときは、苦労が段違いだった。
ダンジョン攻略の戦略も考えたほうがいいかもしれない。
「ああ。ありがとう。シルヴィがいなかったら、だいぶキツかったかもしれない」
「えへへ。そう言ってもらえるとついてきた甲斐があったよ」
シルヴィは何か言いたげなイジらしい仕草で俺にすり寄ってくる。
お礼をしろと言いたいのはわかっているので、後で美味いものでも食わせてやるつもりだ。
最後に残った問題は、ゴーレムの素材をどう持ち帰るかだな。
「テントの中に詰め込むだけ詰め込んどくとかできないの?」
「天才か?」
道中では使えない手段だが、あとは帰るだけともなれば別だ。思いつかなかった。それから俺たちはまたテントを広げて素材を詰め込み、解体して、すべてを荷物にしまった。もう限界だ。何一つとて入らない。
「でも、このダンジョン、思ったより簡単だったね」
「ダンジョンの方はな。結果的にはC級のちょっと上くらいだった。でも、本来はそんなダンジョンじゃなかったはずなんだが……」
俺は嘆息混じりにそう言って、再び宝箱に視線を落とした。
その時、異変に気付いた。宝箱の底が、まるで深淵のように暗く、そして深くなっていく。底が抜けたかのように、闇が広がっていった。
「…………」
俺の表情が強張った。本能的に、この現象が危険なものだと感じ取った。
さすがのシルヴィも息を呑んでいた。
「この気配、あのゴーレムが吸ってた魔力に似てるよ。もしかして……もっと上位のダンジョンに繋がってたりするのかな?」
「なくはないな。過去に何度か転送系のトラップにハマったことがあるし。だが……」
ダンジョンの最奥は安全圏。そういう暗黙のルールが、ダンジョンにはあった、はずなのだ。すくなくとも、A級を十数度、S級を一度クリアしたことのあるロアンたちからしても、その異空間は異質だった。
宝箱の底から、禍々しい気配が漂い始めた。重苦しい空気が部屋中に満ち、息苦しさを感じる。俺とシルヴィは、思わず後ずさりした。
「どうする? このまま帰るべきかな?」
シルヴィに尋ねられて、俺は迷いの表情を浮かべた。確かに危険は明らかだが、この先で得られる報酬のことも考えずにはいられない。ここで引き返せば、この深淵が消えてしまう可能性もある。
俺は慎重に状況を分析しようとしたが、未知の現象に対して、どう対処すべきか判断がつかなかった。
俺たちは緊張した面持ちで宝箱を見つめ、次の行動を決めかねている。
宝箱の底の闇は、ゆっくりと、しかし、確実に広がっていく。
その深淵から、かすかに何かの声が聞こえてくるような気がした。
誘っているのか、それとも俺たちに何かを、警告しているのか。
一気に間合いを詰め、俺は最後の一撃を放った。ゴーレムの動きを読み、その隙をついて胸部にある中央の魔法陣にミミックブレードが突き立てる。轟音が響き渡り、剣先が爆ぜる。まばゆい光が部屋中を包んだ。ゴーレムの体内で魔力が暴走し、あちこちから火花と蒸気を噴き出す。そして、ついにゴーレムの機能が完全に停止し、その巨体がゆっくりとその場に崩れ落ちた。
戦いが終わると、部屋に静寂が戻った。俺はしばらく息を整えながら倒れたゴーレムを見つめていた。
「やったね」
シルヴィが両腕でガッツポーズしていた。俺は無言で頷いた。ドラゴンリザードという、名前のわりにはそこまで強くはないがそこそこに上位の魔物のブレス技から抽出した特性を使ってしまった。だが、俺自身が倒したことにより、魔動機ゴーレムから得られた能力は……面白い。魔法陣による瞬間移動か。特性の発動中は範囲内ならいくらでも使えるみたいだ。そして、何より美味しいのが素材。こいつから手に入る硬質素材で、かなり丈夫な防具が作れるはず。それも、特殊防御付きの。
「アイテムは……あそこか」
部屋の奥に目をやると、そこに宝箱が現れているのに気づいた。慎重に近づき、細心の注意を払って開けた。中には、青く輝く宝石が収められていた。その光は、まるで小さな星のようだった。
「『エンハンスクリスタル』だ」
「前に聞いたことあるかも」
「装備品に組み込むことで、特定の魔力の流れが作れる。渡りに船ってぐらいちょうどいい素材だ」
「よかったね、ロアン」
シルヴィがニッコリとした顔でこちらを見ている。
緊張が解けて肩の力が抜けた。
パーティを組んでダンジョンを踏破していたときは、苦労が段違いだった。
ダンジョン攻略の戦略も考えたほうがいいかもしれない。
「ああ。ありがとう。シルヴィがいなかったら、だいぶキツかったかもしれない」
「えへへ。そう言ってもらえるとついてきた甲斐があったよ」
シルヴィは何か言いたげなイジらしい仕草で俺にすり寄ってくる。
お礼をしろと言いたいのはわかっているので、後で美味いものでも食わせてやるつもりだ。
最後に残った問題は、ゴーレムの素材をどう持ち帰るかだな。
「テントの中に詰め込むだけ詰め込んどくとかできないの?」
「天才か?」
道中では使えない手段だが、あとは帰るだけともなれば別だ。思いつかなかった。それから俺たちはまたテントを広げて素材を詰め込み、解体して、すべてを荷物にしまった。もう限界だ。何一つとて入らない。
「でも、このダンジョン、思ったより簡単だったね」
「ダンジョンの方はな。結果的にはC級のちょっと上くらいだった。でも、本来はそんなダンジョンじゃなかったはずなんだが……」
俺は嘆息混じりにそう言って、再び宝箱に視線を落とした。
その時、異変に気付いた。宝箱の底が、まるで深淵のように暗く、そして深くなっていく。底が抜けたかのように、闇が広がっていった。
「…………」
俺の表情が強張った。本能的に、この現象が危険なものだと感じ取った。
さすがのシルヴィも息を呑んでいた。
「この気配、あのゴーレムが吸ってた魔力に似てるよ。もしかして……もっと上位のダンジョンに繋がってたりするのかな?」
「なくはないな。過去に何度か転送系のトラップにハマったことがあるし。だが……」
ダンジョンの最奥は安全圏。そういう暗黙のルールが、ダンジョンにはあった、はずなのだ。すくなくとも、A級を十数度、S級を一度クリアしたことのあるロアンたちからしても、その異空間は異質だった。
宝箱の底から、禍々しい気配が漂い始めた。重苦しい空気が部屋中に満ち、息苦しさを感じる。俺とシルヴィは、思わず後ずさりした。
「どうする? このまま帰るべきかな?」
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俺は慎重に状況を分析しようとしたが、未知の現象に対して、どう対処すべきか判断がつかなかった。
俺たちは緊張した面持ちで宝箱を見つめ、次の行動を決めかねている。
宝箱の底の闇は、ゆっくりと、しかし、確実に広がっていく。
その深淵から、かすかに何かの声が聞こえてくるような気がした。
誘っているのか、それとも俺たちに何かを、警告しているのか。
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