俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

文字の大きさ
上 下
9 / 63

新たな一歩

しおりを挟む
 復興の槌音が響く街の中心部から少し離れた場所で、俺は立ち止まった。

「ここかな……」

 俺は古びた二階建ての建物を見上げた。かつては商家だったのだろう、一階には広い店舗スペースがあり、二階は住居として使えそうだ。窓ガラスは割れ、壁には亀裂が入っているが、骨組みはしっかりしている。

 慎重に中に足を踏み入れた。埃が舞い、鼻をくすぐる。床を踏みしめると、軋む音が響く。天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がり、壁には雨漏りの跡が残っている。

「うーん、修繕は必要だけど……」

 俺は頭の中で計算を始めた。修繕費用、必要な設備、そして何より、この場所で俺のクラフトスキルを活かせるかどうか。慎重に壁を叩き、床を踏み、建物の構造を確認していく。

 窓から差し込む光に照らされ、俺は自身の手のひらを見つめた。そこには、数え切れないほどの傷跡が刻まれている。S級パーティで培った経験と、独自に磨いてきたクラフトスキル。それらを活かす場所が、ここにあるのかもしれない。

 建物の奥へと進んだ。そこには、以前の住人が残していったのか、古い鍛冶道具が転がっていた。錆びついた金床、歪んだペンチ、欠けた砥石。これらの道具たちも、かつては誰かの手によって大切に使われていたのだろう。

「これは……」

 俺は慎重に古びたハンマーを手に取った。錆びついており、とても使える状態ではない。しかし、このハンマーを見て、自分がクラフトスキルを磨き始めた頃を思い出した。

「懐かしいな……」

 微笑みながら、ハンマーを元の場所に戻した。俺の腰には、今や高品質のドワーフハンマーが下がっている。その重みが、これまでの成長を物語っていた。

 建物の中を歩き回り、頭の中で工房のレイアウトを描いていった。鍛冶場、材料置き場、完成品の展示スペース……。あの角には大きな炉を置き、窓際には作業台を並べる。天井から吊るす照明の位置も決めていく。俺の想像力が掻き立てられる。

 窓際に立ち、外の景色を眺めた。近くには小さな広場があり、子供たちが遊んでいる。その向こうには、まだ復興途中の建物が並んでいる。この街全体が、少しずつではあるが確実に、新しい姿に生まれ変わろうとしていた。

 深く息を吐き、もう一度建物の中を見回した。確かに、修繕には多くの時間と労力が必要だ。しかし、それは同時に、この場所を自分好みに作り上げていく過程でもある。

「よし、決めた。ここに、俺の工房を作る」

 静かに、しかし強い決意を込めてそう呟いた。建物を後にし、街の中心部へと向かった。物件斡旋所を探し、契約の準備をしなければならない。そして、修繕も。やるべきことは山積みだ。

 街の喧騒が、耳に響く。行き交う人々の表情は様々だ。笑顔で談笑する者もいれば、まだ不安げな表情を浮かべている者もいる。魔王討伐後の世界は、人々にとって希望と不安が入り混じった場所なのかもしれない。

 歩みを進めながら、頭の中で必要な手続きのリストを整理していく。物件の契約、必要な設備の見積もり……。それぞれの項目について、どの順番で、誰に相談すべきかを考える。

 物件斡旋所の看板が目に入った。深呼吸をし、ドアに手をかける。開く直前、俺は一瞬躊躇した。これまで、常に誰かの指示の下で動いてきた。自分で決断を下し、その責任を負うのは初めての経験だ。

 しかし、その躊躇いは長くは続かなかった。ドアを開け、物件斡旋所に足を踏み入れた。中には、数人の客が待っている。受付に向かい、目的を告げた。

「物件を決めたので、契約しに来ました」

 受付の女性は、にこやかに応対してくれた。俺は、先ほど見てきた建物の場所と状態を説明する。女性は熱心にメモを取りながら、時折質問を投げかけてくる。

「ご商売は何をなさるんですか?」
「装備品の製作です」
「そうですか。では防音と耐火の設備が必要になりますね」

 俺は頷きながら、自分の要望を詳しく伝えていく。工房のスペース、必要な設備、予算……。一つ一つの項目について、慎重に検討を重ねる。

「では、こちらの書類にご記入いただけますか」

 受付の女性が差し出した書類を、丁寧に埋めていく。名前、現住所、職業……。「職業」の欄で、少し迷った。これまでは「冒険者」だった。しかし、これからは違う。

 ペンを走らせる。「装備品職人」。その文字を見つめながら、静かに息を吐いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜

ネリムZ
ファンタジー
 唐突にギルドマスターから宣言される言葉。 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」  理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。  様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。  そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。  モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。  行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。  俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。  そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。  新たな目標、新たな仲間と環境。  信念を持って行動する、一人の男の物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...