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3章 バチェラー2日目
18話 ローズガーデン・フリートーク・デスマッチ・ミスマッチは?
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フリートークの最後は私だ。
当然、ローズガーデンでフリートークするものだと思っていたが、なぜか王城近くの丘で夕日を見ていた。
殿下と二人で。
夕日はまだ、すじ雲の下に居座っていて、城下町を橙色に染めていた。遠くには高い尾根がいくつもあった。
「いい眺めでしょう。バラにも飽きたかと思いましてね。ここはお気に入りの場所なんです」
殿下が夕日を見ながら、言った。
「なぜそのようなお気に入りの場所にご招待くださったのですか」
「なぜでしょう。この景色を見せたかったではだめでしょうか」
殿下は笑って、目を合わせてきた。
トパーズのような、イエローとゴールドがまざった瞳は謎めいていた。その瞳の奥にほんとうの殿下がいるのではないかとのぞきこんだが、美しい瞳に私がうつっていることがわかると、急に呼吸が苦しくなった。
さっきまで全く目を合わせるつもりはなさそうだったのに。
「アニマ嬢、見間違えましたね。まるで別人だ」
さきほど妹の件で怒ってくれたからか、殿下の美しい瞳を再発見したからか、今度は私が目を合わせられなくなっている。
動悸がする。いったいどうしてしまったのか。
「はい。いまのドレスとメイクはさぞ、怖いでしょうね。私を見て、汗がとまらなかったようですし。申し訳ありません」
「いいえ。とっても、素敵ですよ。見惚れました」
「えっ。はっ? あ……ありがとうございます」
髪を触って顔を隠した。
道幅が狭いため丘の近くまでしか馬車で来れなかった。同席したロイドは夜の部の準備があるからと、そそくさと帰って行った。「では1時間後ぐらいにもどります。昨日の雨で足元が悪いですから気をつけてください」ロイドはそう言った。
「ちょっと冷えませんか? よかったら、使ってください。素敵な衣装が隠れてしまうのが残念ですが」
殿下はジャケットを脱いで私の肩に触れる。肩がビクッと動いてしまった。ジャケットがかけられた。殿下のいい香りがした。心臓はうるさく鳴りつづけていた。
「あ……りがとうございます」
声がふるえてしまった。
しばらく、沈黙が満ちるが、気まずくはない。城下町の建物を見たり、夕日の色の、微妙な変化、野鳥の高い鳴き声を聞いていた。
「この場所は、子どもの時によく来ました。ナニーが言うのです。殿下はこの国を背負うのです。立派に生き、自分を制しなければなりませんよ、とね。ここから見える景色以上の広大な領土が俺に任される。重責ですね。果たして、耐えられるかどうか」
殿下はゆっくりと首を振った。
「殿下は優秀な方ですし、国民の支持も高い。心配なさることはないかと思います。それに新しい妃も助けてくださると思います」
「ほんとうは王になどなりたくない。そう言ったら、驚きますか」
言葉の真意を確かめるために、殿下を見つめたが、そこには何の感情も浮かんでいないようにみえる。
「なにか他に、やりたいことがおありなのですか」
「どうしてわかったんですか」
殿下が驚いて、私を見つめる。髪で横顔を隠した。
「王族が王になりたくないなど聞いたことがないので、なにかやりたいことを我慢させられたことがあったのではないかと考えたのです」
「なるほど。ちなみにアニマ嬢はなにかやりたいことはあるのですか」
「……おまえが言うなと思われそうですが、……主役を……演じてみたいです。魂を受け取った子たちを、思いっきり舞台で表現してあげたいです」
殿下は一度考えこんで、ぽん、と手のひらに拳を打ちつけた。
「俺たちはどこか、似ているのかもしれませんね」
「どこがですか!」
殿下は笑った。
「そろそろ時間ですかね。行きましょう」
地響きのような音が聞こえ地面が揺れる。
思わず、殿下の腕につかまってしまった。
腕に力が込められる。シャツごしの男らしい腕に触れ、一瞬、呼吸が止まった。
あわてて、手を離す。
ごまかすように私は言った。
「地震でしょうか」
「嫌な予感がしますね」
馬車があった場所まで戻ると、土砂が崩れていた。互いの表情がわからないぐらいに暗くなっていた。
「ここを塞がれると帰れない……ですね」
「ええっ! どうしましょう」
「しょうがないですね。ここで一晩明かしましょう。夜に動くのは危ない。明日には助けが来てくれると思います」
そう言うと殿下は私に近づいてきた。えっ? いったい何をしようというの。後ずさりするも、殿下は気にせず距離を詰めてきた。
当然、ローズガーデンでフリートークするものだと思っていたが、なぜか王城近くの丘で夕日を見ていた。
殿下と二人で。
夕日はまだ、すじ雲の下に居座っていて、城下町を橙色に染めていた。遠くには高い尾根がいくつもあった。
「いい眺めでしょう。バラにも飽きたかと思いましてね。ここはお気に入りの場所なんです」
殿下が夕日を見ながら、言った。
「なぜそのようなお気に入りの場所にご招待くださったのですか」
「なぜでしょう。この景色を見せたかったではだめでしょうか」
殿下は笑って、目を合わせてきた。
トパーズのような、イエローとゴールドがまざった瞳は謎めいていた。その瞳の奥にほんとうの殿下がいるのではないかとのぞきこんだが、美しい瞳に私がうつっていることがわかると、急に呼吸が苦しくなった。
さっきまで全く目を合わせるつもりはなさそうだったのに。
「アニマ嬢、見間違えましたね。まるで別人だ」
さきほど妹の件で怒ってくれたからか、殿下の美しい瞳を再発見したからか、今度は私が目を合わせられなくなっている。
動悸がする。いったいどうしてしまったのか。
「はい。いまのドレスとメイクはさぞ、怖いでしょうね。私を見て、汗がとまらなかったようですし。申し訳ありません」
「いいえ。とっても、素敵ですよ。見惚れました」
「えっ。はっ? あ……ありがとうございます」
髪を触って顔を隠した。
道幅が狭いため丘の近くまでしか馬車で来れなかった。同席したロイドは夜の部の準備があるからと、そそくさと帰って行った。「では1時間後ぐらいにもどります。昨日の雨で足元が悪いですから気をつけてください」ロイドはそう言った。
「ちょっと冷えませんか? よかったら、使ってください。素敵な衣装が隠れてしまうのが残念ですが」
殿下はジャケットを脱いで私の肩に触れる。肩がビクッと動いてしまった。ジャケットがかけられた。殿下のいい香りがした。心臓はうるさく鳴りつづけていた。
「あ……りがとうございます」
声がふるえてしまった。
しばらく、沈黙が満ちるが、気まずくはない。城下町の建物を見たり、夕日の色の、微妙な変化、野鳥の高い鳴き声を聞いていた。
「この場所は、子どもの時によく来ました。ナニーが言うのです。殿下はこの国を背負うのです。立派に生き、自分を制しなければなりませんよ、とね。ここから見える景色以上の広大な領土が俺に任される。重責ですね。果たして、耐えられるかどうか」
殿下はゆっくりと首を振った。
「殿下は優秀な方ですし、国民の支持も高い。心配なさることはないかと思います。それに新しい妃も助けてくださると思います」
「ほんとうは王になどなりたくない。そう言ったら、驚きますか」
言葉の真意を確かめるために、殿下を見つめたが、そこには何の感情も浮かんでいないようにみえる。
「なにか他に、やりたいことがおありなのですか」
「どうしてわかったんですか」
殿下が驚いて、私を見つめる。髪で横顔を隠した。
「王族が王になりたくないなど聞いたことがないので、なにかやりたいことを我慢させられたことがあったのではないかと考えたのです」
「なるほど。ちなみにアニマ嬢はなにかやりたいことはあるのですか」
「……おまえが言うなと思われそうですが、……主役を……演じてみたいです。魂を受け取った子たちを、思いっきり舞台で表現してあげたいです」
殿下は一度考えこんで、ぽん、と手のひらに拳を打ちつけた。
「俺たちはどこか、似ているのかもしれませんね」
「どこがですか!」
殿下は笑った。
「そろそろ時間ですかね。行きましょう」
地響きのような音が聞こえ地面が揺れる。
思わず、殿下の腕につかまってしまった。
腕に力が込められる。シャツごしの男らしい腕に触れ、一瞬、呼吸が止まった。
あわてて、手を離す。
ごまかすように私は言った。
「地震でしょうか」
「嫌な予感がしますね」
馬車があった場所まで戻ると、土砂が崩れていた。互いの表情がわからないぐらいに暗くなっていた。
「ここを塞がれると帰れない……ですね」
「ええっ! どうしましょう」
「しょうがないですね。ここで一晩明かしましょう。夜に動くのは危ない。明日には助けが来てくれると思います」
そう言うと殿下は私に近づいてきた。えっ? いったい何をしようというの。後ずさりするも、殿下は気にせず距離を詰めてきた。
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