【完結】悪役令嬢は王太子のバチェラー(婚活バトルロワイヤル)に招待されました!~私を愛することはないっていいながら、特別待遇なのはどうして?

淡麗 マナ

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3章 バチェラー2日目

16話 ローズガーデン・フリートーク・デスマッチ・ミスマッチ①

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「どうぞお入りください」
「はい、入っちゃいますね」

 初回とは打って変わって、殿下と令嬢がお話をする場なので、少しはリラックスできるかなと思っていた時が、私にもありました。ええ、ありましたとも。


 王城のローズガーデンは、秘密の通路のような、細い路地に木枠が渡っており、色とりどりのバラが咲き誇っている。強くも甘い香りがただよっていた。
 奥は行き止まりになっており、小さなガーデン用の白い机と椅子があった。そこに殿下とロイドが座っている。


 ロイドは正直邪魔だが、もっとおかしなことがいま、リアルタイムで起こっております。


「いま、紅茶を頼んでまいります」
 ロイドが令嬢に言った。
「あ、アニマ様の分もお持ちしてよろしいですか?」
 ロイドが私に微笑みかける。


 いうべきか100回ぐらいは悩んだが、令嬢の為に言うことにした。
「あの! おかしくありませんか。いまは殿下と令嬢がお話する大事な時です! です……よね? ロイド様はまあ……。うん……ううーん。じ、じゃ――。い、いえ! しょうがない! しょうがないとはいえですよ! なんで私も同席するんですか? 私、邪魔、ですよ!!! リンジー様もそう思いますよね?」


「うーん。別に……いいかな。アニマちゃんはイヤ?」
 頬に手をあて、リンジーは首をかしげた。
「ええっ! なぜですか? 私は……その……たぶんというか、おそらく、ライバルという奴ですよ!! 殿下もこれでいいのですか? いいからやっているのかー。むむう……」
 変だったバチェラーも、いよいよわけがわからない。殿下はさっきから全然私を見てくれないし。そんなにこのメイクとドレスは怖いのでしょうか。


 なんだか、無性に腹が立ってまいりました。私の扱いはなんなのでしょう!

 殿下は具合が悪そうに言った。
「アニマ嬢申し訳ありません。もう少ししたら体調も良くなると思いますので、このまま一緒にいてほしい」



 えっ!


 えええっ! 一緒に? いてほしいです、と??



 いけません。私、ところでした。イケメン王太子ってだけで女たらしの要素しかないのでした。そして、バチェラー。たらしの極みです。




 その手にはのりません。




 頬をぱぱぱぱーんと、張る。





「承知致しました。私。一緒にいます。まかせてください」


 ロイドが椅子から転げそうになった。



 私たちはローズガーデンの奥に鎮座し、殿下が中央、両端にロイドと私。私は殿下から大幅に隔離され、一人で島流しにあっているような格好だ。出口側にリンジーが座っている。


 さっきから殿下の汗がとまらない。今日はそこまで暑くはないだろうに。白いスーツは汗がにじんでいる。


 ロイドはフリートークに関しても、審査基準を明かさなかった。逆を言えば、なにを話し、なにを話さないか。どのぐらい面白くて、どれぐらい実りある話ができるか、すべてが問われていると言っていい。



 リンジーが微笑んだ。
「で、殿下。どんな感じですか。誰を妃にしたいか、目星ぐらいは決まってたりするんですか」
「いえいえ。今日のバチェラー次第ですよ」
「うーん。ガードが固めだなぁ。ちなみに、女性のタイプは? 妃に相応しいとかつまんない話は置いておいて、いちばんのタイプはだれ?」
 
 殿下は額に汗をかいたまま、だまっていた。


「黙秘ですかぁ。ふーん。なるほどー。そういえば、ウチのお婆ちゃんが殿下のファンらしく、是非ウチにいらしていただきたいとのことでした。お婆ちゃん曰く、息子にしたいランキング、ナンバー2らしいですよ」
 リンジーは楽しげに口をつぐんだ

「1位は誰なんですか」
「陛下です」


 殿下は崩れるように机に突っ伏した。いよいよ具合が悪くなったのかと思って介抱しようと立ち上がると。



 背中が小刻みにゆれ、肩が大きく揺れた。



「これは一本とられましたね。確かに陛下が相手なら勝てるわけがありません」
 殿下が爆笑した。

「笑っていただけてよかった。今朝はけわしい顔をしておいででしたので、元気になってくれたらいいなと思って。鉄板のネタを用意しました」

「鉄板って、俺か、クライドにしか通じないですよ」
「だから、それを鉄板っていうんじゃないですか! 確実なものは、使う相手を選ぶものなのですよ」
 リンジーの笑顔に殿下もつられる。

 リンジーは私たち3人に手を振って、去って行った。



 殿下は目を閉じ、眉間に皺を寄せ、なにかを考えているようだった。汗は最初より、だいぶ引いていた。


「大丈夫ですか」
 私が殿下に声をかけると、ロイドが答えた。
「ちょっと公務が多くてですね。もうすぐ……復活なさる……はず。お気遣いありがとうございます」

 そして、ロイドは私の席に近づいた。私が立つと、ほんのすこし椅子を殿下に近づけ、殿下を見る。殿下はうなずき、私は座った。


 いったいなにをしているのでしょうか。





「どうぞお入りください」
「承知しました」


 次はハーマイオニーだ。

 いうべきか108回は悩んだが、言うことにした。
「おかしくありませんか! 殿下とハーマイオニー様がお話する大事な時です! なんで私も同席するんですか? ハーマイオニー様もそう思いますよね?」


 ハーマイオニーは私を見て、笑った。
「どうして?」
 この質問の愚かさをやっと悟った。
 皆、殿下が決めたバチェラーというルールで戦う気なのだ。


 殿下の顔色は大分よくなった。しかし目は合わせてくれない。
「気苦労をかけてしまって申し訳ありませんアニマ嬢、よければもう少しだけ一緒にいてほしい」


 何度も同じ手に引っかかると思ったら大間違いです。



 そんなにちょろい女なわけがないでしょうが。



 頬を、ぱぱぱぱんっっっっ、ぱぱぱぱぱぱーん、ぱしん、ぱししーん、と張った。




 頬が熱くなる。でも構いません!





 よし!




「もちろん、ご一緒します!」
 



 ロイドが椅子から転げ落ちた。助けるとずれた片眼鏡モノクルをなおした。
「ほほっ。よろしくお願いします」





 
「そろそろ私に決める気になりましたか」
 ハーマイオニーは挑発するように、目尻を下げた。

「まだ分かりませんよ。ハーマイオニー嬢は新聞でも一番人気でしたね。おめでとうございます」
「殿下の一番人気でなければ、意味はありませんよ」
 口笛を吹きたくなった。劇で言ってみたいセリフリストに追加しておこう。


 ハーマイオニーが続ける。
「新聞といえば、フリージア共和国で劇場が売りに出されたとありましたが、ご存知でしたか」
「いえ」
「その劇場はすでに買い手がついたとのことでした」
「なるほど。芸術さかんな共和国とはいえ、演劇で食べていくのは大変なことなのですね。それでハーマイオニー嬢とアニマ嬢が所属しているギルドは、大丈夫そうですか」
「私がいます。問題などありえません」
 ハーマイオニーは胸に手を当てた。

「頼もしいですね。新作の劇も素晴らしかった。セリフを覚えるのは大変ではありませんでしたか」
 
 ハーマイオニーが眉を寄せた。
「まだご招待していないと思っていましたが、もしかしてお忍びでいらしたのですか?」
「ああ……ああ! そうでした。ただ新聞で評判を見ただけでした。うっかりしてすみません」
 殿下は疲れた表情を一瞬見せてから、笑顔になった。
 ロイドがせき払いを二度、した。


 ハーマイオニーは言った。
「だいぶお疲れのご様子。一度、休まれますか?」
「お気遣いありがとうございます。確かに、ハーマイオニー嬢と接していると、背筋が伸びる思いがしますね」
「緊張を強いてしまってすいません。ですが、それも慣れです。毎日接していればなんてことない女ですよ。私は。ね、アニマ」
 急に話を振られ、びくっとからだが硬直する。

「はい。ハーマイオニー様は気さくで良い方です」
「アニマ。棒読みになっている。あなたは女優でしょう?」

「はい! ハーマイオニー様は、気さくで良い方です。あと、美しい、憧れの女優です」
 立ち上がって、殿下に向かって言った。

「よく、できました」
 満足そうにハーマイオニーはうなずいた。


 ハーマイオニーが去った。

 いよいよ、最大の難所、ニーナの出番だ!
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