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2章 バチェラー1日目
10話 特技発表会
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劇は終わった。
私は立ち上がり、お辞儀をする。
相手役を快諾くださったハーマイオニーに礼を言った。
彼女が素晴らしいリシェルを演じてくださったから、本当の悪役令嬢の母になることができた。
ドラクロア、リンジー、ヴィヴィアンが拍手をし、立ち上がって、歓声を上げてくれた。
「すごい……終わるまで、動けなかった」「知っている【悪役令嬢の掟】じゃない。でも、こっちの方が好き」「悪役令嬢の母が生きていた」
良さをわかってくださるんだ。
殿下の方を見る。
顎を引いて、うなだれている。前髪が目にかかっていて、目をあけているのかわからない。
「で、殿下?」
つまらなかったのだろうか。私がそろーりと近づくと、目元に指を動かして、ごまかすように立ち上がって拍手した。
――まさか……泣いていらしたの……。
「【悪役令嬢の掟】の素晴らしいアレンジだった! 見事だ!」
声がふるえていた。
「あ、ありがとうございます」
こんなに褒められたことがないので、どうしていいかわからない。ごまかす為にお辞儀をした。
ハーマイオニーが舞台を下りる前に振りかえった。
「アニマ、私はね【悪役令嬢の掟】って大っ嫌いなの」
「嫌いな劇の相手役をお願いして申し訳ございません」
「悪役令嬢の母が血のつながらない子どもを虐待して、復讐される。あんまり好きな話ではないのよね」
「わかりやすいからヒットしたのかも知れませんね」
「あなたのアレンジ版だけが、後世に残ると思うわ。ちゃんと戯曲を残しておいてね。また、いつでも演じるから」
そういって、ハーマイオニーは舞台を下りた。
その背中にあたまを下げた。
ハーマイオニーは手をあげて、首をふった。
「そうじゃないな。私がほんとうに言いたかったことは」
ハーマイオニーは笑った。
「おかえり。アニマ。待っていたよ」
再び、拍手に包まれた。照れながら舞台を下りる。
殿下の瞳が濡れているように見えた。それをごまかすためにはしゃぐ殿下は可愛らしかった。
そのあともつつがなく特技披露はおこなわれた。
リンジー【みんなのお姉さん・マイペース令嬢】は私の演技が終わった後にふたたび大絶賛して、根掘り葉掘り演技のことを聞いてきた。そして、はじめてだという演技をひとりでやり遂げた。殿下も絶賛だった。
すごい才能だ。演技ははじめてで、ここまでできるものなのか。
ヴィヴィアン【ファッション令嬢】はファッション発表会をおこなった。モデルを使って、女性と男性の新たなファッションを提案した。意外なことに女性のファッションは本人のドレスみたいに派手ではなく、かっこ良い感じだった。殿下は楽しそうに眺めていた。
ドラクロア【ドラキュラ令嬢】【強肩のドラクロア】は歌と演技を披露した。
ドラクロアは低音から高音まで、すごく伸びて、どんな曲でも歌えそうだった。殿下もその歌声には満足していた。演技に関しては、魂を込めるような熱い演技をした。だれかに似ているスタイルだと思ったら、自分と間違うほどに演じ方が似ていた。
最後はニーナ【妹】だ。
「私は人に見せられる特技なんてものはないので、なにもしません」
私は目を閉じた。顔の表情筋がすべて中央に寄ってしまう。だったら前もって相談して欲しいものだ。
殿下のにこやかな表情はさっと、冷たくなった。
「バチェラーに参加をお願いした時に、特技を披露してもらうというのはお伝えしていましたけれど」
「ごめんなさい。ないものはないんです。逆になにかあります? 私にやってほしいこと」
ニーナは舌を出した。殿下に……舌を出してしまったよ。
「はい! 私、アニマがニーナに変わって演技をします。よかったら、【聖女の歩み】見て頂けませんか」
手をあげ、殿下に直談判に行った。
「……それは見たい。是非見たい! しかたがないですね。アニマ嬢がニーナ嬢の代理ができるのは今回だけですよ」
殿下の機嫌が一瞬でなおったことに驚いた。すぐにニーナと変わる。
「私の加点になるんだから、手を抜かないで、一生懸命やってよね。姉さま」
「もちろんよ。任せて」
鼻を鳴らして、ニーナは下りていった。
「なんでみんな人に披露する特技なんて持っているのよ! 普通ないでしょ! 恥かかせないでよね」
ニーナのぼやきは当然殿下にも聞こえていて、私は笑ってごまかした。一瞬だけ、ゾクッするほど強い視線が殿下から来た気がしたが、気のせいだった。私への期待が手に取るようにわかった。
緩んでしまいそうになる頬を叩いた。ニーナを2日目に進めなくては。
演技は無事終わり、大絶賛で終わることができた。
バチュラー1日目の終わりの時間になった。夢のような時間ももう終わるんだなと思うと、胸が苦しくなった。
いよいよ1日目の結果発表が、はじまる。
私は立ち上がり、お辞儀をする。
相手役を快諾くださったハーマイオニーに礼を言った。
彼女が素晴らしいリシェルを演じてくださったから、本当の悪役令嬢の母になることができた。
ドラクロア、リンジー、ヴィヴィアンが拍手をし、立ち上がって、歓声を上げてくれた。
「すごい……終わるまで、動けなかった」「知っている【悪役令嬢の掟】じゃない。でも、こっちの方が好き」「悪役令嬢の母が生きていた」
良さをわかってくださるんだ。
殿下の方を見る。
顎を引いて、うなだれている。前髪が目にかかっていて、目をあけているのかわからない。
「で、殿下?」
つまらなかったのだろうか。私がそろーりと近づくと、目元に指を動かして、ごまかすように立ち上がって拍手した。
――まさか……泣いていらしたの……。
「【悪役令嬢の掟】の素晴らしいアレンジだった! 見事だ!」
声がふるえていた。
「あ、ありがとうございます」
こんなに褒められたことがないので、どうしていいかわからない。ごまかす為にお辞儀をした。
ハーマイオニーが舞台を下りる前に振りかえった。
「アニマ、私はね【悪役令嬢の掟】って大っ嫌いなの」
「嫌いな劇の相手役をお願いして申し訳ございません」
「悪役令嬢の母が血のつながらない子どもを虐待して、復讐される。あんまり好きな話ではないのよね」
「わかりやすいからヒットしたのかも知れませんね」
「あなたのアレンジ版だけが、後世に残ると思うわ。ちゃんと戯曲を残しておいてね。また、いつでも演じるから」
そういって、ハーマイオニーは舞台を下りた。
その背中にあたまを下げた。
ハーマイオニーは手をあげて、首をふった。
「そうじゃないな。私がほんとうに言いたかったことは」
ハーマイオニーは笑った。
「おかえり。アニマ。待っていたよ」
再び、拍手に包まれた。照れながら舞台を下りる。
殿下の瞳が濡れているように見えた。それをごまかすためにはしゃぐ殿下は可愛らしかった。
そのあともつつがなく特技披露はおこなわれた。
リンジー【みんなのお姉さん・マイペース令嬢】は私の演技が終わった後にふたたび大絶賛して、根掘り葉掘り演技のことを聞いてきた。そして、はじめてだという演技をひとりでやり遂げた。殿下も絶賛だった。
すごい才能だ。演技ははじめてで、ここまでできるものなのか。
ヴィヴィアン【ファッション令嬢】はファッション発表会をおこなった。モデルを使って、女性と男性の新たなファッションを提案した。意外なことに女性のファッションは本人のドレスみたいに派手ではなく、かっこ良い感じだった。殿下は楽しそうに眺めていた。
ドラクロア【ドラキュラ令嬢】【強肩のドラクロア】は歌と演技を披露した。
ドラクロアは低音から高音まで、すごく伸びて、どんな曲でも歌えそうだった。殿下もその歌声には満足していた。演技に関しては、魂を込めるような熱い演技をした。だれかに似ているスタイルだと思ったら、自分と間違うほどに演じ方が似ていた。
最後はニーナ【妹】だ。
「私は人に見せられる特技なんてものはないので、なにもしません」
私は目を閉じた。顔の表情筋がすべて中央に寄ってしまう。だったら前もって相談して欲しいものだ。
殿下のにこやかな表情はさっと、冷たくなった。
「バチェラーに参加をお願いした時に、特技を披露してもらうというのはお伝えしていましたけれど」
「ごめんなさい。ないものはないんです。逆になにかあります? 私にやってほしいこと」
ニーナは舌を出した。殿下に……舌を出してしまったよ。
「はい! 私、アニマがニーナに変わって演技をします。よかったら、【聖女の歩み】見て頂けませんか」
手をあげ、殿下に直談判に行った。
「……それは見たい。是非見たい! しかたがないですね。アニマ嬢がニーナ嬢の代理ができるのは今回だけですよ」
殿下の機嫌が一瞬でなおったことに驚いた。すぐにニーナと変わる。
「私の加点になるんだから、手を抜かないで、一生懸命やってよね。姉さま」
「もちろんよ。任せて」
鼻を鳴らして、ニーナは下りていった。
「なんでみんな人に披露する特技なんて持っているのよ! 普通ないでしょ! 恥かかせないでよね」
ニーナのぼやきは当然殿下にも聞こえていて、私は笑ってごまかした。一瞬だけ、ゾクッするほど強い視線が殿下から来た気がしたが、気のせいだった。私への期待が手に取るようにわかった。
緩んでしまいそうになる頬を叩いた。ニーナを2日目に進めなくては。
演技は無事終わり、大絶賛で終わることができた。
バチュラー1日目の終わりの時間になった。夢のような時間ももう終わるんだなと思うと、胸が苦しくなった。
いよいよ1日目の結果発表が、はじまる。
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