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2章 バチェラー1日目

7話 バチェラー参加者全員集合!②

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 バチェラーに参加する令嬢は残り4人。


 次は妹のニーナだ。

「ニーナ・タウンゼントと言います。セシル様……結構かっこいいんですね! きゃっ……」
 ニーナはドレスの裾に突っかかって、殿下にもたれかかってしまう。


「ご、ごめんなさい」
 ニーナはまんざらではない表情をしていた。しばらく殿下に抱きついていたので、フルプレートを着たロイドがせき払いをして、ゆっくりとした動作で引っぺがした。その後、腰を押さえていた。


 ニーナはきょろきょろとして、殿下を見つめているだけだった。


 助け船を出す。
「ニーナ。歳と、特技か、なにか一言を殿下にお伝えして」
「あ! そうだ。歳は16歳。特技は……えっと……からだが丈夫なので、元気な世継ぎが産めます!」


 ニーナの小鼻が広がった。
 ロイドが大げさなせき払いをする。殿下の表情はなんというか、複雑な味の料理の真髄を確かめるような表情をした。

「そうですか。健康なのはなによりです」
「私、野球ってやったことがないのですが、どうしてもやらないとダメですか」
 ニーナは甘えた声をだした。

「ええ、お願いします」
 殿下の笑みには頑なさがあった。
 ニーナの顔は露骨に引きつっていた。




 「ハーマイオニー・キャラハンです。20歳になりました。演劇ギルドで女優をしています」
 歯切れ良く話すしぐさは、舞台の上にいるかのよう。

 ブロンドの髪に、エメラルドの瞳。伝承にあるエルフのような、ただいるだけで人目を引く華やかさを持っている。

 私と同じギルドの看板女優だ。
 

「ハーマイオニー嬢、ひさしぶりですね。この前の舞台もよかった。年々キレが増していますね」
 殿下が言った。

「ふふっ。それは私も歳をとったと言いたいのですか。どなたかが、はやく私をもらってくださらないからでは?」
 ハーマイオニーはキザに首を振って、笑った。

 これはハーマイオニーで決まりじゃないか。そのぐらい殿下とお似合いであり、隣に立つためにうまれたように感じる。


 ――ますます疑問だ。私、なんで、バチェラーに呼ばれたの??? 


 妹がハーマイオニーをにらんでいる。やめてくれ。ケンカを売るには相手が悪すぎる。

 

 


 ロイドの試合開始の合図とともに、ハーマイオニーが構えた。竜巻のように体をねじり、放たれた球は、一瞬で、ロイドのミットに収まる。

 気持ちの良い音がグラウンドに響いた。
 素晴らしいフィジカルと肩だ。


 腰が引けたニーナは空振りし、尻餅をついた。
「ドレスが汚れちゃう。ハーマイオニー様、手加減してくださいよ」
「できない」
 そう言って投球フォームに入った。
「ちょっと待って、待って!」
 ニーナは構えるが、玉がくるまえに空振りしてへなへな、とへたりこんでしまう。

 投球は、顔の近くをとおり、ロイドのミットに収まる。
「あぶなっ! 野球の経験がないんですから、手加減してくださいって言ってるじゃないですか」

 ハーマイオニーは首を振った。
「これは真剣勝負なの。やる気がないなら帰ってくれない?」
 そう言って、あっという間に完封し、握手喝采を受け、椅子に座った。
 

「姉さまあいつ、絶対性格悪いよ! 無視しよう」
 ニーナがハーマイオニーに聞こえるように言った。
 

「いつでも相手になるよ」
 ハーマイオニーはニーナに笑いかけた。
 ニーナは見えないように、べーっ、と舌を出した。




 最後のふたりの令嬢が位置についた。


「リンジー・ハッカーです。って。殿下、呼んだのってあたしであってる? 誰かと間違ってないですよね。間違いだったら後で教えてね。王都見学でもして帰るから。特技か。みんなはあたしのことを面白いって言ってくれます。でも、あわない人とは全然。22歳です。みんなよりちょっと年上かな。よろしくです」

 紫の豊かな髪が特徴的で、美女だと有名なハッカー家の侯爵令嬢だ。

 この方も〈私、なんで呼ばれたの? 令嬢〉だ。自分がここにいていいのかを疑う。わかります。でも、リンジーは身分もあって、美貌もある。なぜ疑うのかはわかりませんが。

「面白い方ですね。ちなみに王太子妃ってどんなイメージか、教えてくれませんか?」
 殿下の声にまわりが一気に緊張した。

 いままで、殿下が妃に対して直接質問した令嬢はいなかったから。


 この方が本命か――。そういう読み合いがすでにはじまっている。


 リンジーは、空を見上げ、目をほそめ、首をひねった。
「ちょっと大変そうだなぁ。柄じゃないかなって感じます。あ、正直すぎました?」
 あはは、と悪気なく笑う。張り詰めた空気が和みまくって、たぶんみんな、リンジー大好きって幸せな気持ちになったことでしょう。

「あなたは正直者という美徳を持っています。次はそれも付け加えるとより、魅力がアピールできると思いますよ」
「そんな、褒めてもなんにも出ませんよ。ま、出さないのも悪いのでウチで紅茶でも飲んでいきます?」
 はじめて、女性陣から拍手が起こった。

 リンジーはみんなのお姉さん枠を獲得した。

 あだ名、行きます!!【みんなのお姉さん・マイペース令嬢】でいかがでしょうか。



 


「ヴィヴィアン・ハサウェイです! 18歳です。ドレスや装飾品に目がないため、殿下をオシャレにコーディネートできます!」
 
 
 ピンクの髪にたくさんのオーブが飾られており、フリルや、ドレープなどの装飾が多いピンクのドレスを着ている。有名なドレスデザイナーのヴィヴィアン・イーストランドの愛娘だ。



「俺はオシャレには興味がないのです。今日もロイドさ――。ロイドに選んでもらった服を着ています」

「今日のお召し物、素敵ですけれど、もう少し色が欲しいです! わたくしのオーブを胸元に飾ってはいかがでしょうか。そうすればもっと、華やぎます」
「俺はヴィヴィアン嬢から見ると、地味なのですね」
「わたくしに任せてくだされば、殿下をもっと素敵にできます」
「すごい自信ですね! そういう肝が王太子妃には必要です。期待していますね!」

 ヴィヴィアンはしばし、黙った。
「ところで、殿下はわたくしのことを覚えていらっしゃいますか。実はこの出会いが初めてではございません」
 殿下は首をかしげた。

「14歳の頃、母のファッションショーでお声をかけてくださいました。わたくしが作ったドレスを個性的でカッコイイとおっしゃってくださいました。今日までその言葉を胸に、服作りと向き合ってきました」


「ああ、あの時の! いまより随分シンプルなドレスを着ていたので、気がつきませんでした。すみません。もちろん、憶えていますよ」

「いえいえ! おぼえてくださって、ほんとうに、嬉しいです。殿下とまたお会いできるのを心待ちにしておりましたから」
 ヴィヴィアンは涙を流した。


 令嬢たちは複雑な空気に包まれる。応援したい気持ち、嫉妬の気持ちがそれぞれの胸に渦巻いているのだろう。

 
 ヴィヴィアンの癖は強く、殿下への思いはおそらくいちばん強い。殿下の好みであれば、唯一無二の個性で押し切れるはず! って私はさっきから司会者ノリがぬけない。。。。。。

 彼女は【ファッション令嬢】で行きましょう。



 2人の運動神経はいかほどかと思っていたが、リンジーの投げる球はミットには届かず、ヴィヴィアンも運動は得意ではなさそうだった。勝負がつかないので引き分けということになった。


 すべての令嬢の野球と自己紹介が終わった。
「ほんとうはあと1人参加する予定だったのですが、連絡がつかないので辞退としました。いまごろは他国まで逃げたかもしれないですね」
 殿下は私を楽しげに見つめる。

「では、この6人で、妃の座をめぐって争っていただきます。実に楽しみですね」
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